橋渡す者此処にあり

永和

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2.何も知らない

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「来たる林間学校!」

朝からテンションの高い同じクラスの松嶋颯斗まつしまはやと今回の林間学校での同じ班員でもある。

これから約3時間私たちはバスに乗って曾矢岳という山の麓にある宿泊施設へ向かう。バスでも班員と近くにいなくてはいけない。お陰で京の隣の席になった。担任の山辺やまのべ先生の出欠確認も終わりバスガイドさんの甲高い声が車内に響く。

「朱羅橋中学校2年3組の皆さまおはようございます」

そのスラスラと述べられた決まり文句のあと、今度は隣から声がした。

「ぼくはバスに乗ったのが初めてです。」

「そうなんだ。」

私がそう返事をした5秒後ぐらいにバスは発車した。しばらくすると田舎者の私たちはあまり見ることのできない右にも左にも高いビルが並ぶ道路に出た。左に見えるのがなんとか、右に見えるのがなんとかと合わせてバスガイドさんが言うたびに私たちは左へ右へと首を振る。なんだか酔ってしまいそうだ。

「なんだかゆりかごに乗ってるみたいですね。」

「そう?私は酔いそうだよ。」

「お酒はダメですよ!」

そう言って真面目に私のことを覗き込む京がなんだか可愛らしく見えた。

ずーっと高速に乗って昼頃には曾矢岳についた。ゆりかごに揺られスヤスヤと寝ている京を起こし宿の食堂で昼食をとる。もちろん班ごとで食べる。入浴・食事係という一番めんどくさい係を任命された私は人数分の食器を班員に私揃ってバイキングに行くよう促した。

「ダメだ、気持ち悪い。」

私は久しぶりの長時間のバス移動とバスガイドのアナウンスのお陰で見事にバス酔いをしてしまった。隣で黙々と地元飯を平らげていく颯斗を横目に私は少しのご飯とおかずにノックダウンした。

日本式のバイキングが初めてなのか京は目をキラキラさせてお皿を持って食事が並べてあるところへ歩いていく。

食事が終わると班別のスタンス発表の練習。そのあとおやつを食べて発表会本番、そのあとにお風呂に入るというスケジュールだ。フリータイムはお風呂の前に30分。まぁ色々準備もあるし、私には入浴・食事係という役割がある。あまり遊んでる暇はない。

スタンスの発表。私たちは西遊記の劇をやる。私の役は三蔵法師だ。特に反論はなかった。主役はもちろん京だ。本番中はみんな京に釘付けだし、わたし自身普段あまり流暢に話さない京が台本をスラスラ喋るのは演ってて面白かった。

練習のお陰でスタンスは成功した。これからフリータイムだもちろん男女部屋は別だから同じ班の女子嶺岸純恋みねぎしすみれと女子部屋に戻る。今となっては珍しいらしいが男女1つずつ大部屋があるスタイルである。京は颯斗が連れて行ったのだろう。

しばらく話しているとお風呂の時間になった。大広間に班ごとに整列する。他の班は続々と人が集まる中うちの班は1人のメンバーがいつになっても来なかった。

「京は?」

私は同じ部屋にいたはずの颯斗に尋ねる。

「一緒に来たんだけどトイレ行くって言って走ってったよ」

しょうがなく先生の元へ行き颯斗の言ってたことを伝えてみる。

「あいつの事だから案内が読めなかったのかもな、、、」

そう言うと先生は私たちに捜索するように伝えみんなを連れて浴場へ向かった。

私たちの班は京の捜索へ向かう。

私は浴場のある階を行ったり来たり。探せば探すほど心配になっていく。あまり会話をしていなかったけど、いや、あまり会話がなかったから、京の1つ1つの言葉が走馬灯のように頭の中を駆け巡る。

その時

「きゃあ!」

誰かが私の腕を引っ張った。目の前には京の顔があった。

「京!なにやってんの!?」

「探してた。」

「こっちのセリフだよ大広間はこっち」

そう言って京の腕を引っ張る。

しかし京は少しも動こうとしない。

「おーひろまじゃなくて」

「ん?」

「美空のこと探してたの。」

何でか尋ねる前に京がゴソゴソとジャージのポッケをあさる。

「これ。」

そう差し出した京の手には手紙が入っていると思われる封筒があった。
それを開けようとした瞬間京がおもむろにジャージを脱ぎ出した。

「なにやってんの!?」

「手紙読んで」

ジャージの下のTシャツを脱ぎながら私に言う。

そこには1枚のワープロで書かれた文書が入っていた。

《拝啓  美空様》
 いつも京がお世話になっています。京の父です。今回美空様にお願いがあってこのような手紙にしました。一緒にがっこう生活を送っていてわかるように京はあまり日本語は達者ではありませぬ。なにせべつのくにから北もので、英語もロクに話せません。
  お願いというのは言うまでもなくケイのことです。けいには秘密がいくつかあつて。1つは焼印について......

その先にも文章は続いていたがこのことは確認せずにはいられなかった。

京の上半身を見ても目立つような焼印はない。

「背中」

そう言って半回転した。

「なに...これ.....」

京の背中にはクッキリといびつな丸い形をした焼印が7個あった。

「つづき。」

京の片言ながら力のある言葉に促され手紙のつづきを読む。


…………北斗七星の焼印は我が一族がこの国に来る時にめじるしとナルヨウに王がまだ京が小さい時に彼の背中に焼き付けました。美空さんにはこの焼印のことを隠すのを手伝って欲しいと思いまして。京はこの焼印をコンプレックスと思っていて、見つかってしまうと多分誰とも仲良くできなくなってしまいます。幼い時にそのような経験をしていて、私も2度と京をそのような目に会わせたくないのです。まだ会ったことのない私が言うのもおかしな話なのですが京の恋人を演じて欲しいとお願いしたいです。それで京のそばにいて京を守って欲しいのです。

「はっ!?突然すぎてよくわからないんだけど、えぇーっと。」

混乱した頭の中を整理しようと頭を抱える私を見て、京は心配そうな顔をする。

そもそも京はこの手紙の内容を100%りかいしてるのか?

京に対する質問と疑問が頭の中で錯綜する。

「京はこの手紙読んでから私に渡したの?」

「読めないもん。」

そうだよな。バカな質問だった。

「今までどうやってこれ隠してたの?」

京がスポーツ用のピチピチのインナーを私に見せる。

「これ着てるの。」

「あ、そう。」

「だからお風呂みんなと入りたくない。」

「わかった。」

子犬のような目でそう言って私を見つめる京にそれ以外の答えをする事なんて出来なかった。

「美空は僕のこいひと。」

「恋人ね、、、じゃなくて!んーー。まぁ恋人か。」


今まであんまりそう言うことに足を踏み入れなかったので反応にこまる。普通の女子ならここで飛び跳ねて喜ぶのだろうか。

そんなことを脳みその表面で考えてみる。
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