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第二章
必死の抵抗
しおりを挟む「ホント?じゃ、やろうシュナウザー!」
レオは俺の言葉に嬉しそうな表情を浮かべて、俺の胸から飛び降りた。その際、顔面を思い切り踏みつけられたがあまり気にならなかった。
きっと極度の恐怖のせいだろう、正常な判断が出来なくなっている。
その証拠に、俺はこの期に及んでまだ正々堂々と戦おうとは思えなかった。
次は、武器を使おう。
恐らくだがレオは、俺が正々堂々と戦えば骨を折ったりはしないと思う。絶え間なく殴られはするだろうが、俺が卑怯な真似をしない限り骨は折らないでいてくれるだろう。
しかし俺は体力的にも精神的にも限界だった。
今すぐにもこの特訓と称したリンチをやめさせたかった。
そうするにはレオの動きか息を止めるしかなかった。
ここに銃があればまた穴だらけにしてやるのにとさえ思った。
俺は立ち上がり、辺りを見渡した。
なにか武器になりそうなものは無いだろうか。
この小さな人間一人殺せるような武器は。
その時、小さな砂場に小さなスコップがあるのが見えた。
持ち手の所が鮮やかな赤色で、それは砂場に雑に刺さっていた。きっとこの公園で遊んでいた子供が忘れて帰ったのだろう。
俺は精一杯、あの小さなスコップでレオの頭をぶっ刺し頭蓋骨を割るイメージをした。
角度を間違えなければ大丈夫だ、いける。
レオの身体は紛れもなく八歳児の身体で、大人の頭より数段柔らかいはず。
躊躇なく一点に集中し全力で振り落とせば、頭に刺さるはずだ。
さすがのレオも脳を攻撃されれば動けなくなるだろう。
と言うよりも、死ぬだろう。
俺はレオに距離を取りつつ、ゆっくりと気付かれないように砂場に近付く。
「ほらほら、いつでも来ていいよ!ボクは準備万端だ!かかってこ~い!」
レオはぴょんぴよん飛び跳ねながら俺に笑いかけた。
まるで父親に遊んでもらっている子供のようだった。
殺意が薄れてしまわないように、俺はあまりレオの顔を直視しないようにした。
全然距離を詰めない俺に痺れを切らしたのか、レオはこちらに走って向かってきた。
俺の身体に拳を出してくるが、寸前のところで後方に避けた。レオはまた拳を出してくる、俺はまた後方に避ける。こうしてる間に徐々に砂場へ近付いて行く。
緊張で額から流れる汗が、顎先から落ちた。
殺す、絶対に殺してやる。
俺はレオの動きをよく見て寸前の所で拳を避けていく。そんな俺を見て、レオは顔を輝かせて笑っている。
「シュナウザー!凄いよ!ボクの攻撃、避けれているよ!その調子だ!シュナウザーも遠慮なくボクに攻撃してきいいんだよ!さぁ!」
レオは興奮した様子で俺に言う。
そうは言っても俺はレオの攻撃を避けるので精一杯だった。息もかなり上がっている。酸欠になりそうだ。
その時、レオは急に拳を出すのをやめ、その代わり俺の膝を思いっきり蹴った。
突然の変化球の技に当然避けられる筈もなく、レオの蹴りをもろに食らった俺は、喉奥から声にならない音を出しそのまま後ろへと倒れてしまった。
硬い地面とは違う柔らかい感触が身体を包む。
俺が倒れた先は目的としていた砂場だった。
「惜しい!今の避けれたら完璧だったねシュナウザー!でもね、ホントすごくいいよ!よくなってきたじゃんか!」
レオに蹴られた膝辺りの脈が波打っていて、ハーフパンツからは徐々に赤黒く変色していっている膝が見えた。
俺は恐怖で自分の膝から目を背けた。
その代わり、すぐそばに落ちている赤いスコップに目を向けた。手を伸ばせばすぐ届くところにある。
「さ、シュナウザー立って!もう避けるのは完璧と言っていい程だよ!次はボクに攻撃してくるんだ!おもいっきりパンチしていいよ!」
レオはまた俺の胸の上に飛び乗り、鼻先と鼻先が付きそうなくらいに顔を近づけて言った。
その瞬間、俺は手を伸ばしスコップを取り、レオの頭部に目掛けて力の限りスコップをふり落とした。
わずかに尖っていたスコップの先端が、レオの頭に少しだけ埋まった。
想像していたよりも手応えがなく、俺が期待していた程、スコップ自体には威力が無いのだと思い知らされた。
数秒遅れてレオの額に一筋の血が流れた。
流れる血はどんどん増えていき、
俺の顔にも滴り落ちてきた。
レオは笑顔のまま動かない。石にでもなったみたいだ。
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