PITTO

ナツメユウマ

文字の大きさ
上 下
21 / 24
第二章

悪夢再び

しおりを挟む


「 あ 」

レオの小さな手が俺の左手の小指を掴んだ。
恐怖で固まる身体を必死に動かそうとし、やっとの思いで立ち上がろうとした時。

木の枝が折れるような音がした。

小指に激痛が走り、一瞬で体中に脂汗が吹き出る。
レオは本当に木の枝を折るように、いとも簡単に俺の小指を折った。
外側に九十度曲がった自分の小指を見てしまい、俺は地面に転げまわりながら絶叫した。


「シュナウザー、ボクがやめてと言ったらやめないとダメだよ?ボクの身体は危険を感じると勝手にレオナルドの姿に変わっちゃうんだよ。安全装置みたいなものだね。武蔵の姿の時は特に、その安全装置が作動しやすんいんだよ。なんてったって武蔵はもう中年だからね、疲れやすんいんだろうねー。」


地面に転がり汗だくで悶絶寸前の俺を見下しながら言うレオの目は、やはり恐ろしい程に冷たかった。


「でも丁度よかったよ!シュナウザー、昨日よりもやる気満々みたいだし!レオの姿でも大丈夫だよね!」


息も絶え絶えの俺の腰辺りに楽しそうに座るレオの体重はとても軽く、こんなに恐ろしくともやはり子供なのだなと呑気にも思ってしまった。


「だっ、大丈夫じゃない…ごめんなさい…もう絶対に言うこと聞くから、武蔵に変わって…お願い…。」


「シュナウザー!指が変な方向に曲がってるよ!?大丈夫!?今直してあげるからね!」


レオは当たり前かのように俺の言葉を無視し、さっき自分で折った俺の小指をもう一度捻った。
九十度曲がった小指は元の角度に戻った。
今にも意識が飛びそうな痛みに、機械音のような悲鳴をあげながら涙を流す俺を見て、レオは本当に楽しそうに手を叩いて笑っている。
レオの笑顔は無邪気で輝いていた。


「シュナウザー、ボクは万能な薬を色々出すよね。すぐに傷が塞がるテープとか、ドリンクタイプのものとかね。今思い出したんだけどね、骨をくっつける薬なんて、開発したことなかったなぁって!あは!折る前に思い出すべきだったよね!PITTOに帰ったら、骨をくっつけるような薬を開発しようかなぁ~、いや、でもその前にボク死刑だよね!」


俺の頭の中はこれからどう逃げようかという事でいっぱいだった。
走っても追い付かれる、腕力でも敵わない。
どうすればいいのか?
俺の頭は指の痛みでパニックになっていた。


「…ぁ、アーノルド…いいのかよ…シュナウザーの身体、ぼろぼろになるぞ…下手したら、死ぬぞ…いいのかアーノルド…早く弟を引っ込めたほうがいい…。」


「あのねぇ、ボクがシュナウザーを殺すはずないじゃん。なんの為に、こんなくだらない低俗な世界に来たと思ってるのさ。破壊的にバカのくせに、ボクに指図しないでくれる?」


「てめぇ完全にレオナルドだろ…アーノルドは絶対に…そんな事言わない…。」


「心配しなくてもボクはちゃんとアーノルドだよ。さぁ、そんなことよりも!立って!特訓だ!」


レオは地面に転がる俺の首根っこを両手で掴み上に強く引っ張る。
皮膚をちぎられては困るので、立てと言うレオの言葉に素直に従った。


「昨日も言った通り、ちゃんとボクを見るんだよ、シュナウザー。ボクの動きを見て何処に攻撃がくるかを読むんだ。相手の次の動きまでを読んで、避けつつ、こっちからも攻撃しないと!やられっぱなしになるよ?さっきも言ったけどね、ボクは骨をくっつける薬なんて持ってないんだ。もうそれ以上骨を折るのはやめてよね?」


レオは自身が着ている服のサスペンダーの長さを調節しながら言った。
そういえば、武蔵は俺のジャージを着ていたはず。
目の前のレオは、濃いブラウンのチェックのハーフパンツにサスペンダーをしていて、上は真っ直ぐにアイロンされた白のブラウスを着ている。

最初にレオを見た時と同じ格好だ。
変身すると服装まで変わるようだ。
白の品のいいハイソックスは、ハーフパンツから見える細い足によく似合っていた。
武蔵の不潔なハイソックス姿とは雲泥の差だった。


ハーフパンツと靴下の間に見えるピンク色の膝が、桃のように柔らかそうだった。

その時、あの桃のような膝なら俺にも
折れるかもしれないと思った。

自分の思考が恐ろしくも感じたが、俺の本能がレオの細い膝を折れと強く俺に訴えかけている。


目の前の化け物に勝つにはそれしか方法は無いと。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...