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第二章
悪夢再び
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レオの小さな手が俺の左手の小指を掴んだ。
恐怖で固まる身体を必死に動かそうとし、やっとの思いで立ち上がろうとした時。
木の枝が折れるような音がした。
小指に激痛が走り、一瞬で体中に脂汗が吹き出る。
レオは本当に木の枝を折るように、いとも簡単に俺の小指を折った。
外側に九十度曲がった自分の小指を見てしまい、俺は地面に転げまわりながら絶叫した。
「シュナウザー、ボクがやめてと言ったらやめないとダメだよ?ボクの身体は危険を感じると勝手にレオナルドの姿に変わっちゃうんだよ。安全装置みたいなものだね。武蔵の姿の時は特に、その安全装置が作動しやすんいんだよ。なんてったって武蔵はもう中年だからね、疲れやすんいんだろうねー。」
地面に転がり汗だくで悶絶寸前の俺を見下しながら言うレオの目は、やはり恐ろしい程に冷たかった。
「でも丁度よかったよ!シュナウザー、昨日よりもやる気満々みたいだし!レオの姿でも大丈夫だよね!」
息も絶え絶えの俺の腰辺りに楽しそうに座るレオの体重はとても軽く、こんなに恐ろしくともやはり子供なのだなと呑気にも思ってしまった。
「だっ、大丈夫じゃない…ごめんなさい…もう絶対に言うこと聞くから、武蔵に変わって…お願い…。」
「シュナウザー!指が変な方向に曲がってるよ!?大丈夫!?今直してあげるからね!」
レオは当たり前かのように俺の言葉を無視し、さっき自分で折った俺の小指をもう一度捻った。
九十度曲がった小指は元の角度に戻った。
今にも意識が飛びそうな痛みに、機械音のような悲鳴をあげながら涙を流す俺を見て、レオは本当に楽しそうに手を叩いて笑っている。
レオの笑顔は無邪気で輝いていた。
「シュナウザー、ボクは万能な薬を色々出すよね。すぐに傷が塞がるテープとか、ドリンクタイプのものとかね。今思い出したんだけどね、骨をくっつける薬なんて、開発したことなかったなぁって!あは!折る前に思い出すべきだったよね!PITTOに帰ったら、骨をくっつけるような薬を開発しようかなぁ~、いや、でもその前にボク死刑だよね!」
俺の頭の中はこれからどう逃げようかという事でいっぱいだった。
走っても追い付かれる、腕力でも敵わない。
どうすればいいのか?
俺の頭は指の痛みでパニックになっていた。
「…ぁ、アーノルド…いいのかよ…シュナウザーの身体、ぼろぼろになるぞ…下手したら、死ぬぞ…いいのかアーノルド…早く弟を引っ込めたほうがいい…。」
「あのねぇ、ボクがシュナウザーを殺すはずないじゃん。なんの為に、こんなくだらない低俗な世界に来たと思ってるのさ。破壊的にバカのくせに、ボクに指図しないでくれる?」
「てめぇ完全にレオナルドだろ…アーノルドは絶対に…そんな事言わない…。」
「心配しなくてもボクはちゃんとアーノルドだよ。さぁ、そんなことよりも!立って!特訓だ!」
レオは地面に転がる俺の首根っこを両手で掴み上に強く引っ張る。
皮膚をちぎられては困るので、立てと言うレオの言葉に素直に従った。
「昨日も言った通り、ちゃんとボクを見るんだよ、シュナウザー。ボクの動きを見て何処に攻撃がくるかを読むんだ。相手の次の動きまでを読んで、避けつつ、こっちからも攻撃しないと!やられっぱなしになるよ?さっきも言ったけどね、ボクは骨をくっつける薬なんて持ってないんだ。もうそれ以上骨を折るのはやめてよね?」
レオは自身が着ている服のサスペンダーの長さを調節しながら言った。
そういえば、武蔵は俺のジャージを着ていたはず。
目の前のレオは、濃いブラウンのチェックのハーフパンツにサスペンダーをしていて、上は真っ直ぐにアイロンされた白のブラウスを着ている。
最初にレオを見た時と同じ格好だ。
変身すると服装まで変わるようだ。
白の品のいいハイソックスは、ハーフパンツから見える細い足によく似合っていた。
武蔵の不潔なハイソックス姿とは雲泥の差だった。
ハーフパンツと靴下の間に見えるピンク色の膝が、桃のように柔らかそうだった。
その時、あの桃のような膝なら俺にも
折れるかもしれないと思った。
自分の思考が恐ろしくも感じたが、俺の本能がレオの細い膝を折れと強く俺に訴えかけている。
目の前の化け物に勝つにはそれしか方法は無いと。
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