PITTO

ナツメユウマ

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第二章

やり残したこと3つのこと

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「約束する。君を絶対に死なせたりしない。君は、シュナウザーの中で生き続けるんだよ。シュナウザーが今度こそ寿命を全うするまで、君も生き続ける。君の意志も、生き続ける。何も心配はいらないんだ。」


正直、アーノルドの言っている意味はよく分からなかった。一つの身体で人格が二つになるのか、完全にシュナウザーになって俺はやはり死んでしまうのか。

けれど目の前の銀と青に光り輝く綺麗な目を見ていると、アーノルドが嘘をついてるようには思えなかった。
アーノルドが何も心配いらないと言うのなら、俺はそれを信じてみたくなった。不思議と、そういう気持ちになった。

それに、俺にはこの世界に未練など無い。
親にも愛されていない、親友もいない。
どうせ自ら絶とうしていた命だ。
大勢に愛されている人間に渡した方がいいに決まっている。

「…わかったよ。いいよ。アーノルド、一緒にシュナウザーの所に行こう。」

俺の言葉を聞いた瞬間、アーノルドは俺を思い切り抱きしめた。

「シュナウザー、ありがとう…!断られたらどうしようかと思っていたよ!他の平行世界にもいくつか行ったんだ。だけど、どの世界のシュナウザーも皆死んでいたんだよ。もう、本当に君しかいなかったんだ。本当にありがとう。」

アーノルドは震え声で言った。顔は見えないが、きっと泣いているのだろうと思った。

「俺って短命な運命なのかな…。」

他の世界の俺は既に皆死んでいる。
俺はアーノルドに会わなかったら、そう遠くない未来に本当に自殺していたかもしれない。毎朝毎朝、死にたいと願いながら起きるのだ。今思えば、いつ本当に死んでもおかしくない状況だった。

「他の世界のシュナウザーの死因は様々だったよ。打ち上げ花火を打ち上がる前に覗き込んだり、海パン一丁でシャチと泳いだり。いやぁ、どれもシュナウザーらしい死に方でね、笑わせてもらったよ。」

「めっちゃ馬鹿じゃん…」

ある意味自殺が一番、賢い死に方かもしれない。
でも俺の事だから、自殺しようとしても上手く死ねずに結局馬鹿な死に方をしてしまうんだろう。
きっと、俺はそういう運命だ。

アーノルドは涙を拭い立ち上がり、襟元についてあるファスナーを下におろし宇宙飛行のような服を脱ぎ始めた。

「シュナウザー、何か着るものを貸してくれないか。この世界に馴染むようなものがいいな。この格好はPITTOでは主流なんだけどね、ここでは目立つみたいなんだよ。」

恐らくアーノルドが目立つのは服装のせいだけではないのだが、自覚のないアーノルドにそれを伝えるのは癪に障るので言わないでおいた。

「なんで着替えるんだよ…すぐに行かないのか?PITTOに。」

「PITTOに行く前に、シュナウザーにはここでやり残した事を全てしてほしいんだ。僕も、もう少しここに居てこの世界のことが知りたいしね。」

アーノルドは下着一枚になり、俺に微笑みかけた。PITTOに帰ればアーノルドは処刑されるのに、この世界のことを知ってどうなるというんだろう。

「別にやり残したことなんてない。あったらPITTOに行かないし。」

俺はクローゼットに入っていた、自分が持っている中で一番大きいサイズのTシャツとジーパンをアーノルドに渡した。

「小さな事でも、なんでもいいんだ。何かしてみたいことを言ってみたらどうだ。」

アーノルドは俺が渡した服を着ながら言った。ジーパンの裾が短く、足首が見えてしまっていた。

この世界に未練なんて無いけれど、アーノルドの言葉を聞いてふと思い浮かんだ人がいた。

「…稲葉と、斎藤と…あと、親かな…少し気になるのは。」

「彼らと、何がしたいんだ?」

 Tシャツに腕を通すアーノルド。真っ黒のTシャツはアーノルドの白い肌によく似合っていた。


「稲葉とは…そうだな、ずっとやられっぱなしだったから、最後くらいは、あいつをぶん殴ってやりたいかな。」


「いいじゃないか。こっちのクリステルはかなり凶暴みたいだから、少しくらい成敗してやらないとな。」

アーノルドは部屋の全身鏡で自身の格好を見て満足そうに笑みを浮かべている。

「あと…斎藤っていう同じ学校の女子がいるんだけど…その子ともっと話してみたいかな…。」

「シュナウザーはこっちでは好きな子がいるんだな、素晴らしいことだよ。その子と是非会ってみたいよ。シュナウザーが好きになる子はきっととても素敵な子なんだろうね。」

俺はアーノルドに斎藤と会ってほしくなかった。きっとすぐに斎藤はアーノルドの事を好きになってしまうだろう。俺も女なら、多分とりあえず惚れていたと思う。
アーノルドは俺のサイズの合わない服を着ていても、とても格好良かった。

「…親とも最後くらいは、少し話したいかな。一応、親だし。」

俺に一切興味が無く、なかなか顔を合わせない両親でも、もう二度と会えないかと思うと不思議と心残りがあった。

アーノルドは俺の言葉を聞いて、深く頷いた後にベッドに腰掛け足を組んだ。


「シュナウザー、まずは特訓だ。」



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