PITTO

ナツメユウマ

文字の大きさ
上 下
14 / 24
第二章

発明

しおりを挟む

「ワシは間違いなくアーノルドや。
この姿は、ワシがPITTOで世話になってた武蔵っちゅう人間の姿なんや。飲んだくれの中年オヤジやけど、めっちゃええ奴でなぁ。武蔵は二年前に死んだんや、急アルで。」

武蔵は俺の腹に異常が無いことを確認すると、安心したように俺の肩を二回叩いた。

「ワシ医者や言うたけど、医者でもあり発明家でもあんねん。簡単に言うと、死者の姿になれる発明をしたんや。死んだ奴の血液さえあえば、その姿になれるねん。後遺症として、喋り方とか仕草までそのまんまになってしまうんやけど、そこまで不便はないわ。」

喋る度に揺れる目の前の出っ腹を見ていると、この武蔵という中年オヤジの中身は実はアーノルド、という事実が素直に入ってこなかった。

俺の信じられない、という目を見て、武蔵は薄ら笑いを浮かべた。

次の瞬間、大きい爆発音と共に部屋中が煙で包まれた。真っ白な煙は視界を奪ったが苦しくはなかった。
有害な煙ではなさそうだ。

「シュナウザー、驚かせてすまない。」

白い煙の中からアーノルドの声がした。徐々に薄くなっていく煙の中から、金色に輝く髪が見えた。


「この世界では武蔵の姿の方がよく馴染むみたいだからね、ついそのまま武蔵の姿で現れてしまったよ。シュナウザーのピンチで慌てていたんだ。」


金色がさらに透けたような頭髪、銀と青が混じった瞳、細身の長身にすらりと伸びた手足、真っ白な宇宙飛行のような格好。
確かにアーノルドの姿でこの辺を歩けば次の日には噂になるくらい目立つ。
しかし、武蔵のような浮浪者みたいな風貌も、悪い意味で目立つのではと思った。

「…なんで俺がピンチだって分かったの…。」

「シュナウザーがピンチの時はすぐに分かるさ、長年親友だからね。勘が働くんだよ。」

きっとアーノルドはずっと俺を見張っていたに違いない。ヤスダが帰るタイミングでまた乗り込んでくる予定だったんだ。俺は身震いした。


「また俺を殺しに来たんだな…。」


アーノルドを睨み、精一杯低い声で言った。
そんな俺を見てアーノルドは悲しそうな顔をした。

「シュナウザー、誤解しないでくれ。僕は君を殺したりなんかしない。たった一人の親友にそんな事するはずないだろう。それより僕は今の君を見ていると悲しくなるよ。」

「なにがだよ…」

「PITTOのシュナウザーは頭は悪かったが、とても勇敢で強かった。話も聞かずに逃げたり、人を疑ったり、そんなことは絶対にしない人だったんだよ。馬鹿だけど、勇敢で強くて心優しい、そんなシュナウザーが僕は大好きだった。皆、シュナウザーのことが大好きだったんだ、彼は愛されていた。僕の、大親友なんだ。」

アーノルドから哀れみの目を向けられ、一気に急所を突かれたような感覚がして俺はいたたまれない気持ちになった。

「……俺だって嫌だよ、こんな自分。なんで同じ人間なのに、そのシュナウザーって奴と俺はこんなにも違うんだよ。俺は臆病だし弱いし人のこと信じれないし誰からも愛されてないよ。シュナウザーとは全然違うんだよ…。なんでだよ、なんで…。」

俺には命懸けで助けてくれる親友なんか一生できない。
親にすら、見放されている。
ずっと一人だった。
きっとこれもからもそうだ。

そう思うと涙が溢れ出てきて、止まりそうにもなかった。

「なれることならなりたいよ、シュナウザーに…けど死ぬのは嫌だ…俺は臆病で弱虫だから、怖いんだ…死ぬのは、怖い…。」

 膝に顔を埋めて啜り泣く俺に、アーノルドは優しい声でシュナウザー、と呼んだ。

「PITTOに行っても、君は死なないよ。死ぬのは僕だけだ。」

「でも…シュナウザーに俺の身体、あげるんだろ…。」


アーノルドは膝をつき、目線を合わせ真っ直ぐな目で俺を見た。

瞳の中の銀と青がキラキラと反射して光を放っているように見えた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

スキルが【アイテムボックス】だけってどうなのよ?

山ノ内虎之助
ファンタジー
高校生宮原幸也は転生者である。 2度目の人生を目立たぬよう生きてきた幸也だが、ある日クラスメイト15人と一緒に異世界に転移されてしまう。 異世界で与えられたスキルは【アイテムボックス】のみ。 唯一のスキルを創意工夫しながら異世界を生き抜いていく。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

処理中です...