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神獣の過去

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 あれはテイマー一族が栄え初めて来たときの頃。

 俺っちはラッキーという名でテイマー一族の中では人間としての扱いだった。
 流石に最初から獣の姿をした人間です。なんて言えばどうなるかは結果が見えている。
 でも、ペトラは自信があった。長年同じ村で獣たちと一緒に暮らしてきた仲間たちだ。毛もが進化をして人型になると知っても誰も俺っちのことを責めないと、怯えないという自信が。

 俺っちの正体を隠し続けることはペトラにとってストレスだったのだろう。
 ということで一族の皆に説明することにした。

「今まで隠してすみませんでした! ラッキーは人間ではないんです!」
「はい…………俺っちは獣人なんです」

「「「…………なッ!」」」

 あの時のどよめきは今でも鮮明に思い出せる。
 今まで積み上げてきたものが一瞬で崩れるような感覚は忘れることが出来ないだろう。

「この村から出て行けえええぇぇぇ!」
「化け物が出たわああぁぁぁ!」

 お前たちをまとめ上げたのは誰だ? 率いてくれたのは! 原初のテイマーとして思ってに立ってくれたの誰だと思ってる!

 俺っちは何度も言った。抗議した。出ていくなら俺っちだけだと。
 でも、元凶はペトラだと誰もが聞いてくれなかった。

 結局、これで俺っちたちは二度目の追放を味わうことになる。
 そして…………

「なッ! 魔獣だな!」

 人間は信じられないから魔族の世界に住む。などとペトラが言い出したため俺っちたちはディルガイナに向かおうとした。ほぼ自殺行為だ。
 しかし、そこでも今度は魔獣として忌み嫌われたのだ。

「……………………ごめんね。ラッキー」

 人間、魔族、親族、仲間。全てに嫌われたペトラは病んでしまった。
 誰もが敵。誰もが私の感情を理解してくれない。
 ペトラは何度も何度も呪いのようにこの言葉を言っていた。

 それもつかの間。

「…………ぺ、ペトラ?」

 俺っちがいつものようにペトラの代わりにダンジョンで仕事をして、帰ってきたときに事件は起きる。
 ペトラは笑いながら風呂場で出血死していたのだ。その笑顔は皮肉にも笑顔とは言えない腐りきった笑顔だった。

「うわあああああああああぁぁぁぁぁぁ!」

 ここから俺っちの人生は崩壊する。異世界転生なんてしなければよかった。



 人間なんてすべて死んでしまえ。
 すぐに人を裏切る薄情な奴らだ。恩人であるペトラを一瞬で追放するんだから。

 魔族もクソだ。戦闘しか能のない馬鹿なんじゃないのか。

「ああ…………そうか!」

 もう、この世界ごと滅ぼしてしまえばいいんだ! 何もかもすべてを!

 いつの間にか俺っちはそんな発想に縛られるようになった。
 何百年かけて獣人を育成し、自分のためだけに動く兵隊にする。
 どうせ、異世界。人も魔族も全てNPCだ。そんな風に俺っち思っていたのだろう。

 こうして殺戮に溺れた神獣が完成した。










「これが俺っちの過去の話さ」
「…………」

 僕は話を聞き終えた後何も言い返せなかった。
 当然、神獣の行為は間違っている。人殺しなんて容認してはいけない。

 でも、どこか今の自分に重なっていたのだ。
 父を失って悲しみに暮れた僕と…………

「一つ聞いていいですか?」
「何だい?」
「アレンのこと…………あの少年の出自はご存じで?」
「知ってるさ。魔王の息子なんだってね」

 僕は話の内容から一つのことが確定されたと思っている。
 それはペトラがアレンの先祖にあたるということだ。

 だが、そのことにラッキー…………いや、神獣は気づいていないらしい。

「この話を踏まえてランドロフ君…………君はこっち側に来てくれると思うんだけどな。俺っちに手を貸してくれないかい?」

 神獣は全ての感情入り交じった表情で僕に手を差し伸べてくる。
 正直、全く揺るがないと思っていた僕の心は少しだけ揺らいだ。
 でも…………

「すみませんね。僕の主は決まってるんですよ」

 パチンッ!

 僕はその手をさわやかな笑顔を向けたままはたいた。
 その光景を見て神獣は更に悲しみを深める。

「そうか…………残念だよ」
「…………ッ!」

 急に飛んでくる殺気に警戒し、僕は一瞬で後方に跳躍した。
 
 僕はもう誰も裏切らない。負けると分かっていても挑まなければならない。出ないとあの小さな主に顔向けできないから。

「じゃあ…………戦争の続きをしようか」
「望むところです!」

 こうして僕と神獣の対決が始まったのだった。
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