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神獣

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「ここは…………」
「俺っちの大切な場所さ…………」

 僕はその神獣の表情に少し戦慄を覚えた。
 今まで残虐な、憎悪に駆られた表情とは全く違う。とても優しそうな面持ちだったのだ。

 僕たちの目の前には広大な庭園が広がっていた。
 そして、その中心には花たちに囲まれた一つの墓石が視界に入る。

「……………………」

 神獣はその墓石の前で跪いて両手を合わせ、拝み始めた。
 一瞬、本当に神獣なのか疑ってしまいそうになったが、僕は今は操られているのだ。神獣と同じように拝む。

「…………ペトラ。もうすぐだから…………」
「…………ッ!」

 僕は更に神獣の様子を見て唖然とすることしか出来なかった。
 神獣が墓石の前で涙を流していたのだ。殺戮など余裕でする神獣がだ。
 その神獣の背中はまるで今の僕のような…………


 そのまま数分間僕たちは拝み続けていた。




「よし。じゃあ少し話そうか、ランドロフ君。君が俺っちの魔法に抵抗レジストしているのは気づいてるからさ」
「…………分かりました」

 一瞬、どうにかして【テレポート】で逃げようかと考えたが、詠唱中に殺されて終わりだ。
 ここに来た時点で分かっていたことだが僕が出来ることは神獣について知ることだけである。
 そしてもし、アレンの兄であるリンクと繋がりがあると分かったなら僕はすぐにでも神獣に牙を向けるだろう。
 
 もう、帰ってこない父の復讐のためなら何でもする。アレンの考えは美徳であろう。しかし、僕はそんなに器も大きくない。
 流石に殺しはしないが、リンクには百回ほど死んでもらう苦しみは絶対に味合わせる。

「ちょっと俺っちの昔話を聞いてくれるか? まだあの子供も死んでないみたいだから」

 もし、バレているのならばあの場面で魔法を解除しやすくするべきだったかもしれない。
 だが、あのアレンだ。どんなピンチだろうとどんな危機だろうとまた周りを唖然とさせるようなことをして乗り越えてくれるはずだ。
 僕の期待など容易く超えてくれたのだから。

 僕と神獣は花に囲まれたところにある椅子に座った。
 一か所だけが擦れている跡がある。よく、一人で神獣はここに来るのだろう。

「ここってどこだか分かるかい?」
「墓地でしょうか…………でも、神獣様に親族がいるとは聞いていませんでしたが」

 こうして神獣と話をしたことはある。だが、あの時は洗脳されていたため、記憶には残っていない。
 今回はどう洗脳をかけようと魔王様の加護がある。もう二度と洗脳にはかからないのだ。

「無理して様付けしなくてもいい…………うん。俺っちには家族はいない。でも、家族同然の人はいたんだ」
「…………人?」

 確か歴史書によれば神獣は初めて獣から獣人に進化した個体だと言い伝えられている。
 今の容姿は竜のような容姿であるが、もともとはただの犬だったらしい。
 神獣になった際に強力な種族に変わったそうだ。

 まぁ要するに神獣より先に獣人になった人物はいないということだ。

「そうだ。ペトラは人間だった」

 僕はそんな事実に頭を抱えそうになってしまう。
 神獣が人間をここまで大切に墓地で埋葬している? 何の冗談だ。
 未だって何千人も何万人も死んでいるかもしれないというのに。

「あれは三百年前…………」

 こうして僕は神獣の過去を聞くことになった。
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