122 / 142
神獣
しおりを挟む
「ここは…………」
「俺っちの大切な場所さ…………」
僕はその神獣の表情に少し戦慄を覚えた。
今まで残虐な、憎悪に駆られた表情とは全く違う。とても優しそうな面持ちだったのだ。
僕たちの目の前には広大な庭園が広がっていた。
そして、その中心には花たちに囲まれた一つの墓石が視界に入る。
「……………………」
神獣はその墓石の前で跪いて両手を合わせ、拝み始めた。
一瞬、本当に神獣なのか疑ってしまいそうになったが、僕は今は操られているのだ。神獣と同じように拝む。
「…………ペトラ。もうすぐだから…………」
「…………ッ!」
僕は更に神獣の様子を見て唖然とすることしか出来なかった。
神獣が墓石の前で涙を流していたのだ。殺戮など余裕でする神獣がだ。
その神獣の背中はまるで今の僕のような…………
そのまま数分間僕たちは拝み続けていた。
「よし。じゃあ少し話そうか、ランドロフ君。君が俺っちの魔法に抵抗しているのは気づいてるからさ」
「…………分かりました」
一瞬、どうにかして【テレポート】で逃げようかと考えたが、詠唱中に殺されて終わりだ。
ここに来た時点で分かっていたことだが僕が出来ることは神獣について知ることだけである。
そしてもし、アレンの兄であるリンクと繋がりがあると分かったなら僕はすぐにでも神獣に牙を向けるだろう。
もう、帰ってこない父の復讐のためなら何でもする。アレンの考えは美徳であろう。しかし、僕はそんなに器も大きくない。
流石に殺しはしないが、リンクには百回ほど死んでもらう苦しみは絶対に味合わせる。
「ちょっと俺っちの昔話を聞いてくれるか? まだあの子供も死んでないみたいだから」
もし、バレているのならばあの場面で魔法を解除しやすくするべきだったかもしれない。
だが、あのアレンだ。どんなピンチだろうとどんな危機だろうとまた周りを唖然とさせるようなことをして乗り越えてくれるはずだ。
僕の期待など容易く超えてくれたのだから。
僕と神獣は花に囲まれたところにある椅子に座った。
一か所だけが擦れている跡がある。よく、一人で神獣はここに来るのだろう。
「ここってどこだか分かるかい?」
「墓地でしょうか…………でも、神獣様に親族がいるとは聞いていませんでしたが」
こうして神獣と話をしたことはある。だが、あの時は洗脳されていたため、記憶には残っていない。
今回はどう洗脳をかけようと魔王様の加護がある。もう二度と洗脳にはかからないのだ。
「無理して様付けしなくてもいい…………うん。俺っちには家族はいない。でも、家族同然の人はいたんだ」
「…………人?」
確か歴史書によれば神獣は初めて獣から獣人に進化した個体だと言い伝えられている。
今の容姿は竜のような容姿であるが、もともとはただの犬だったらしい。
神獣になった際に強力な種族に変わったそうだ。
まぁ要するに神獣より先に獣人になった人物はいないということだ。
「そうだ。ペトラは人間だった」
僕はそんな事実に頭を抱えそうになってしまう。
神獣が人間をここまで大切に墓地で埋葬している? 何の冗談だ。
未だって何千人も何万人も死んでいるかもしれないというのに。
「あれは三百年前…………」
こうして僕は神獣の過去を聞くことになった。
「俺っちの大切な場所さ…………」
僕はその神獣の表情に少し戦慄を覚えた。
今まで残虐な、憎悪に駆られた表情とは全く違う。とても優しそうな面持ちだったのだ。
僕たちの目の前には広大な庭園が広がっていた。
そして、その中心には花たちに囲まれた一つの墓石が視界に入る。
「……………………」
神獣はその墓石の前で跪いて両手を合わせ、拝み始めた。
一瞬、本当に神獣なのか疑ってしまいそうになったが、僕は今は操られているのだ。神獣と同じように拝む。
「…………ペトラ。もうすぐだから…………」
「…………ッ!」
僕は更に神獣の様子を見て唖然とすることしか出来なかった。
神獣が墓石の前で涙を流していたのだ。殺戮など余裕でする神獣がだ。
その神獣の背中はまるで今の僕のような…………
そのまま数分間僕たちは拝み続けていた。
「よし。じゃあ少し話そうか、ランドロフ君。君が俺っちの魔法に抵抗しているのは気づいてるからさ」
「…………分かりました」
一瞬、どうにかして【テレポート】で逃げようかと考えたが、詠唱中に殺されて終わりだ。
ここに来た時点で分かっていたことだが僕が出来ることは神獣について知ることだけである。
そしてもし、アレンの兄であるリンクと繋がりがあると分かったなら僕はすぐにでも神獣に牙を向けるだろう。
もう、帰ってこない父の復讐のためなら何でもする。アレンの考えは美徳であろう。しかし、僕はそんなに器も大きくない。
流石に殺しはしないが、リンクには百回ほど死んでもらう苦しみは絶対に味合わせる。
「ちょっと俺っちの昔話を聞いてくれるか? まだあの子供も死んでないみたいだから」
もし、バレているのならばあの場面で魔法を解除しやすくするべきだったかもしれない。
だが、あのアレンだ。どんなピンチだろうとどんな危機だろうとまた周りを唖然とさせるようなことをして乗り越えてくれるはずだ。
僕の期待など容易く超えてくれたのだから。
僕と神獣は花に囲まれたところにある椅子に座った。
一か所だけが擦れている跡がある。よく、一人で神獣はここに来るのだろう。
「ここってどこだか分かるかい?」
「墓地でしょうか…………でも、神獣様に親族がいるとは聞いていませんでしたが」
こうして神獣と話をしたことはある。だが、あの時は洗脳されていたため、記憶には残っていない。
今回はどう洗脳をかけようと魔王様の加護がある。もう二度と洗脳にはかからないのだ。
「無理して様付けしなくてもいい…………うん。俺っちには家族はいない。でも、家族同然の人はいたんだ」
「…………人?」
確か歴史書によれば神獣は初めて獣から獣人に進化した個体だと言い伝えられている。
今の容姿は竜のような容姿であるが、もともとはただの犬だったらしい。
神獣になった際に強力な種族に変わったそうだ。
まぁ要するに神獣より先に獣人になった人物はいないということだ。
「そうだ。ペトラは人間だった」
僕はそんな事実に頭を抱えそうになってしまう。
神獣が人間をここまで大切に墓地で埋葬している? 何の冗談だ。
未だって何千人も何万人も死んでいるかもしれないというのに。
「あれは三百年前…………」
こうして僕は神獣の過去を聞くことになった。
0
お気に入りに追加
2,356
あなたにおすすめの小説
異世界召喚されたら無能と言われ追い出されました。~この世界は俺にとってイージーモードでした~
WING/空埼 裕@書籍発売中
ファンタジー
1~8巻好評発売中です!
※2022年7月12日に本編は完結しました。
◇ ◇ ◇
ある日突然、クラスまるごと異世界に勇者召喚された高校生、結城晴人。
ステータスを確認したところ、勇者に与えられる特典のギフトどころか、勇者の称号すらも無いことが判明する。
晴人たちを召喚した王女は「無能がいては足手纏いになる」と、彼のことを追い出してしまった。
しかも街を出て早々、王女が差し向けた騎士によって、晴人は殺されかける。
胸を刺され意識を失った彼は、気がつくと神様の前にいた。
そしてギフトを与え忘れたお詫びとして、望むスキルを作れるスキルをはじめとしたチート能力を手に入れるのであった──
ハードモードな異世界生活も、やりすぎなくらいスキルを作って一発逆転イージーモード!?
前代未聞の難易度激甘ファンタジー、開幕!
異世界あるある 転生物語 たった一つのスキルで無双する!え?【土魔法】じゃなくって【土】スキル?
よっしぃ
ファンタジー
農民が土魔法を使って何が悪い?異世界あるある?前世の謎知識で無双する!
土砂 剛史(どしゃ つよし)24歳、独身。自宅のパソコンでネットをしていた所、突然轟音がしたと思うと窓が破壊され何かがぶつかってきた。
自宅付近で高所作業車が電線付近を作業中、トラックが高所作業車に突っ込み運悪く剛史の部屋に高所作業車のアームの先端がぶつかり、そのまま窓から剛史に一直線。
『あ、やべ!』
そして・・・・
【あれ?ここは何処だ?】
気が付けば真っ白な世界。
気を失ったのか?だがなんか聞こえた気がしたんだが何だったんだ?
・・・・
・・・
・・
・
【ふう・・・・何とか間に合ったか。たった一つのスキルか・・・・しかもあ奴の元の名からすれば土関連になりそうじゃが。済まぬが異世界あるあるのチートはない。】
こうして剛史は新た生を異世界で受けた。
そして何も思い出す事なく10歳に。
そしてこの世界は10歳でスキルを確認する。
スキルによって一生が決まるからだ。
最低1、最高でも10。平均すると概ね5。
そんな中剛史はたった1しかスキルがなかった。
しかも土木魔法と揶揄される【土魔法】のみ、と思い込んでいたが【土魔法】ですらない【土】スキルと言う謎スキルだった。
そんな中頑張って開拓を手伝っていたらどうやら領主の意に添わなかったようで
ゴウツク領主によって領地を追放されてしまう。
追放先でも土魔法は土木魔法とバカにされる。
だがここで剛史は前世の記憶を徐々に取り戻す。
『土魔法を土木魔法ってバカにすんなよ?異世界あるあるな前世の謎知識で無双する!』
不屈の精神で土魔法を極めていく剛史。
そしてそんな剛史に同じような境遇の人々が集い、やがて大きなうねりとなってこの世界を席巻していく。
その中には同じく一つスキルしか得られず、公爵家や侯爵家を追放された令嬢も。
前世の記憶を活用しつつ、やがて土木魔法と揶揄されていた土魔法を世界一のスキルに押し上げていく。
但し剛史のスキルは【土魔法】ですらない【土】スキル。
転生時にチートはなかったと思われたが、努力の末にチートと言われるほどスキルを活用していく事になる。
これは所持スキルの少なさから世間から見放された人々が集い、ギルド『ワンチャンス』を結成、努力の末に世界一と言われる事となる物語・・・・だよな?
何故か追放された公爵令嬢や他の貴族の令嬢が集まってくるんだが?
俺は農家の4男だぞ?
クラス転移から逃げ出したイジメられっ子、女神に頼まれ渋々異世界転移するが職業[逃亡者]が無能だと処刑される
こたろう文庫
ファンタジー
日頃からいじめにあっていた影宮 灰人は授業中に突如現れた転移陣によってクラスごと転移されそうになるが、咄嗟の機転により転移を一人だけ回避することに成功する。しかし女神の説得?により結局異世界転移するが、転移先の国王から職業[逃亡者]が無能という理由にて処刑されることになる
初執筆作品になりますので日本語などおかしい部分があるかと思いますが、温かい目で読んで頂き、少しでも面白いと思って頂ければ幸いです。
なろう・カクヨム・アルファポリスにて公開しています
こちらの作品も宜しければお願いします
[イラついた俺は強奪スキルで神からスキルを奪うことにしました。神の力で学園最強に・・・]
落ちこぼれの烙印を押された少年、唯一無二のスキルを開花させ世界に裁きの鉄槌を!
酒井 曳野
ファンタジー
この世界ニードにはスキルと呼ばれる物がある。
スキルは、生まれた時に全員が神から授けられ
個人差はあるが5〜8歳で開花する。
そのスキルによって今後の人生が決まる。
しかし、極めて稀にスキルが開花しない者がいる。
世界はその者たちを、ドロップアウト(落ちこぼれ)と呼んで差別し、見下した。
カイアスもスキルは開花しなかった。
しかし、それは気付いていないだけだった。
遅咲きで開花したスキルは唯一無二の特異であり最強のもの!!
それを使い、自分を蔑んだ世界に裁きを降す!
俺が死んでから始まる物語
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
パーティのお荷物と言われて追放されたけど、豪運持ちの俺がいなくなって大丈夫?今更やり直そうと言われても、もふもふ系パーティを作ったから無理!
蒼衣翼
ファンタジー
今年十九歳になった冒険者ラキは、十四歳から既に五年、冒険者として活動している。
ところが、Sランクパーティとなった途端、さほど目立った活躍をしていないお荷物と言われて追放されてしまう。
しかしパーティがSランクに昇格出来たのは、ラキの豪運スキルのおかげだった。
強力なスキルの代償として、口外出来ないというマイナス効果があり、そのせいで、自己弁護の出来ないラキは、裏切られたショックで人間嫌いになってしまう。
そんな彼が出会ったのが、ケモノ族と蔑まれる、狼族の少女ユメだった。
一方、ラキの抜けたパーティはこんなはずでは……という出来事の連続で、崩壊して行くのであった。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる