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可能性

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「えっと…………あなた達はただ、狐族との関係を作るためにこの里に来たと」
「ええ。主はなんの根拠もなく他種族は殺しませんから」

 俺は今、先程命をかけて戦っていた男と優雅に椅子に座って会話をしている。
 え?椅子はどこから?
 もちろん、俺がそんな必需品を【インベントリ】に入れてないわけないだろう。

「私のレン様がそんな行動するはずがありません!」

 男の隣に座っている魔術師メイジの女性は自信ありげに言った。

 正直に言おう。俺はこの二人を信用してはいない。
 人間の俺が言うのもなんだが、それは二人が人間だからだ。

 別に魔族だって悪い奴はいる。だが、人間のように用意周到するようなことはない。
 だが、特にこの男の仲間を大切にする気持ちは本当だったように見える。

 リーシャに【念話リークス】で聞いておいたが、誰一人も殺してはいないらしい。
 もし、その事実を伝えていなければ、この男はここに止まることはしなかっただろう。

 ちなみに俺の仕事はこの人間たちの足止めだ。
 ラン君とリーシャは狐族の里に言った。リールとテールはこちらに向かって来ているようだ。

「ちなみに狸族の里を滅ぼした人たちに心当たりは?」
「……………………」

 俺が男に向かって聞くと、男は黙り込んでしまった。
 その代わりに女性がゆっくりと口を開く。

「それは私たちも探っているところです。レン様の予想では裏切り者の仕業だと考えています」
「…………ん? ちょっとよく話が見えないんだけど」

 その女性の言葉足らずなのか、それとも俺の脳が幼く理解できないのか分からない。
 だが、俺にはその言葉の真意が全く理解できなかった。

 人間の裏切り者? なら何故獣人を殺す? いや、魔族へ寝返ったという可能性もあるのか。

「まだ誰が主導とは確定していないので名前は出しませんが、獣人側に着いた人間が何十人もいると考えています」
「なら何故狸族を滅ぼすなんて…………」

 俺は不思議そうな表情をして聞く。
 すると、男性が仮面をかぶっている状態にもかかわらず、憎悪が垣間見える表情で答えてくれた。

「それは君が言っていたことだよ。負の連鎖さ」
「いや、本当に意味が分からないんですけど」
「その考えに至らないってことは君はやはり悪人ではないんだね」

 男性は少しホッとしたような、気を許したような雰囲気を漂わせる。

「……………………」

 その雰囲気が俺の脳裏の何かに重なる。
 やはり、この男はどこかで出会ったことがある。どうしても仮面を剥がしたいという気持ちが抑えられない。
 そのため、俺は少したどたどしくしながら男に聞いた。

「あの…………仮面って外さないんですか?」

 男は仮面を外すことを忘れていたのか、自分の顔をぺたぺたと触りはじめる。
 そして、その俺の意見に女性も賛同してくれた。

「あ…………別に今はいいか」
「そうですね。特に周りに気配もないですし」

 男はそう言ってゆっくりと仮面を外し始める。

 ドクンドクン!

 ただ人間の顔を見るだけだ。それも、もしかしたら一度も会ったことがない人の。
 なのになぜこれほど胸が高鳴るのだろうか。



 すると男は仮面を自分の膝の上に置き、微笑を浮かべて頭を下げた。

「改めてよろしく。僕の名はキール、、、。この女性はエリスだ」
「……………お、お、お」

 俺はその光景を見てバグのような声を出してしまう。

 この男、いや、キールは俺が何度も見てきた顔をしていた。
 そしてその顔に、その優しげな表情に何度も救われてきた。
 
 この男は俺が祖父以外の人間で唯一会いたかった、もしかしたらもう一生会えないと思っていた男だ。
 自分の心の奥にたまっていた色々な感情が溢れ出てくる。

「…………え? どうしたんですか」
「キールが何かしたんじゃないですか?」
「いやいや、僕は特に何も…………」

 俺の涙腺からダムが決壊したように涙が溢れる。
 その俺の様子に二人はどうしていいか分からないようだ。

 だが、俺も分からない。
 何から話すか、何から喋ろうか、何からすればいいのか。

 だからもう考えないことにした。もう自分の動きたいままに動こう。

「お、お、お兄ちゃん!」

 俺は何ふり構わず、椅子を蹴り飛ばしてテーブルの上を飛ぶ。
 そして、俺の憧れの兄であるキールに抱き着いたのだった。
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