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化け物

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「何なんだあの化け物は…………」
「本当にしっかりしてくださいよ。もうこれで今日は空間魔法使えないんですから」

 僕は地に膝をつき、頭を抱えながらそう口にした。
 それは配下たちも同じようで五人とも唖然としたような表情をしている。

「本当に助かった。他の奴らはどうなんだ?」

 僕はゆっくりと立ち上がりながら魔術師メイジの女性、エリスに向かって聞く。

 あの子供の魔族以外、獣人が三人と魔族が一人いたはずだ。
 あんな子供の魔族があれほどの怪物っぷりだった。他の奴らも怪物である可能性が高い。

 すると、エリスは少しうつむきながら残酷な結果を伝える。

「……………………全員死にました」
「……………………は?」

 僕はそこまで想像できていなかった、いや、信じることが出来ていなかった。
 そのため、素っ頓狂な声を出してしまう。

 まだ戦闘をひっかけてから数分しか経っていない。
 一瞬で負けて帰ってきた僕が言うのもなんだが、そんな簡単に奴らが負けるはずない。
 そして、その中には…………

「おい……シャルは…………シャルはどうしたんだよ!」

 僕はエリスの両肩を押さえるように掴んでブンブンとエリスを揺らしながら聞いた。

 どうか否定してくれ。どうか間違いだと言ってくれ。

 僕はそう懇願するようにエリスに視線を向ける。
 しかし、エリスはゆっくりと首を左右に振った。

「すみません。【テレポート】を使おうとしたら疎外されてしまって」
「…………あ、でもさ! 前回、、みたいに蘇生することだって出来るんじゃ――」
「無理です。あの時は魔族からの戦利品である『魔法術式』が書かれてあった紙を使ったんです。あれで最後って前も言いましたよね?」
「……………」

 僕の最後の可能性もエリスにあっけなく潰されてしまう。
 今のシャルには新たな命が生まれていたのだ。だから僕は最初、シャルが敵に向かうことに反対した。
 しかし、シャルも自分だけ仕事をしないのを気にしたのか、どうしても私も戦う。と言って聞かなかったのだ。

 そしてこの結果だ。シャルは死に。そして新たな僕たちの子も死に。
 僕は何のために生きてるのだろうか。全てがどうでもいいような無気力感に襲われる。

「……………………はぁ」

 僕は全ての感情を吐き出すように溜息をついた。最後に生かしてもらっているという可能性だけ残して。




「レン様のところへ戻りますよ。これはレン様に頼るしか方法はありません」
「…………だけど主は誰もここから通すなって」

 僕が項垂れていてから三分が経った。
 僕たちの主であるレン。別の名を勇者は狐族の里に一人で入っていき、僕たちにその周辺の警護を任せた。
 三十分ほど前に入ったばかりなので、まだ出てくることはないだろう。

 次にあの敵たちに襲われたら僕とエリスでは瞬殺だ。獣人の配下たちも戦意を無くしてしまっている。

 しかし、僕は一つのことが心に引っ掛かっていた。
 それはテイマーの秘術、いや、伝説の体術ともいわれる武術をあの魔族が使ったことだ。
 あれはかのエリートテイマー一族の中でも数人しか知らないはずである。そのため魔族が知っているなんてことはないのだ。

「なんであんな魔族が【契約憑依レゾナンス】なんか…………」

 魔族にはテイムをするという文化はなかったはずだ。
 しかし、あの少年は確かに魔族であった。しかもあの原初のテイマーが使っていたとされる【契約憑依レゾナンス】を確かに行使していた。
 でなければ、あの場面で落下死していない理由が出来ない。

 僕は自分でも理解できないような溢れんばかりの感情を吐き出すように地面に握り拳を叩きつける。

「クソっ! 本当に何なん――」
「ん? 二人だけなんだ。もうラン君たちは先に言ったのかな?」
「「…………なッ!」」

 僕とエリスはその自分たちのではない声に反応し、一瞬で後ろに跳躍する。
 また、空間魔法でここまで追いついてきたようだ。

「まぁリールもテールも契約の繋がりは残ってるし、生きてはいるんだろうけど、本当に強いなんてね」

 魔族の少年は苦笑いをしながら僕を見ている。
 ってかこいつは本当に何なんだ?
 無詠唱に、無尽蔵の魔力。そしてテイマーの秘術と似たような技を使う。
 これほどの化け物を今まで見たことがない。もしかしたらレンでも苦戦するかもしれない。

「君たちは何が目的なんだよ!」

 僕はシャルロッテの分の感情もぶつけるように魔族の子供に向かって吠えた。
 すると、それは俺のセリフだと言わんばかりの表情で魔族の子供も吠える。

「お前らが勝手に殺戮を始めたせいで負の連鎖が始まるんだよ! どっちかが我慢しなきゃならない! 大人ならそれぐらい分かるよね!」
「「……………………は?」」

 戦闘態勢に入っていた僕とエリスはその子供の懸命な思いに変な声を出してしまう。
 殺戮? 負の連鎖? 何かがおかしい。何かがずれている。

 そう思った僕は少しおどおどと剣を構えたまま子供に聞いた。

「僕たちは襲い掛かってきた獣人以外殺していない。狐族だって一人も殺していないんだ」

 普通の魔族ならそんなこと知ったことではない。なに偽善者ぶっているのかという話になる。
 だが、今のこの子供の言葉には確かな重みがあった。
 もしかしたら、話し合える魔族の可能性が高い。僕はそう踏んだのだ。

 すると、魔族の子供はんー。と頭を抱えて考え込んだ。
 その後、少し表情を赤く鹿ながらボソッと呟いた。

「早とちりかも…………ちょっとお話ししませんか?」
「あ…………はい」

 化け物はしゅんとなり、まるで小動物のようになったのだった。
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