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獣人と手を

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「……………………やっぱり獣とは仲良くなれないね」

 俺は少し消沈気味に言う。
 獣人とはあれから気軽に話せる間柄まで親睦を深めることが出来た。
 だが、やはり獣は別だ。俺が近づくと怯えるようなそぶりを見せる。

「…………でも別に今はいっか」

 俺は本当ならどうにかしてでも獣と仲良くなりたいと行動していただろう。
 獣人とも仲良くできた。それなら獣とは仲良くなれない。なんてことはあるまい。

 だが、別に今の俺はそこまでその問題を重要視していなかった。
 なぜなら、

「…………やばい。可愛すぎるだろ」

 今、俺はランドロフの家にいる。
 どうやらこれからもう一度、話し合いを行うため数時間ほど待っていてほしいとのことだ。
 先ほどの餌付け作戦で幹部の獣人たちも少しは心を許してくれたらしく、一時的な村への滞在を認めてくれた。
 まぁ今はそんなことは置いておこう。

「「……………………ん? どうしたんだ? です」」

 今俺は胡坐をかくような姿勢で床に座っており、その両足に双子の獣人が頭をのせてスヤスヤと寝ているのだ。
 俺がまじまじと視線を送っていたため、起きてしまったのだろう。

「なんでもないよ」
「「分かった。です」」

 俺がそう答えると二人はまた瞼をゆっくりと閉じた。

 どうやら二人の語尾につける『です』は敬語を使っているつもりらしい。
 それが一層、可愛らしさを惹きたてているのだ。

(ここは天国だよね?)

 俺は起こさない程度に獣耳を触ったり頬をつついたりしてにやけている。

 あれ? これ犯罪者にならない?

 などと気づいても止められないのが現実である。
 こうして俺が獣人の二人を堪能して一時間が経った。

「アレン。君の話し合いが終わったよ。来てくれるかな?」
「…………………………………………うん」
「え? 何その長い間?」
「俺の中で悪魔と天使が戦ってたんだよ。そんなことどうでもいいからさっさと行こ」
「……………………?」

 その俺の言葉にランドロフは理解していないような表情をしている。

 俺は眠っている双子を起こさないようにソファーに寝かせて歯をかみしめながら言った。
 どうにか、双子を放すことに成功したものの、俺の本能が早くここ帰りたいと何度も命令している。

 うん。可愛いって罪だね。

 俺はそんなことを思いながらランドロフの家を出た。




「アレンさん。あなたは獣人たちが話し合った結果、関わってもいい人間だと判断されました」

 族長の間に行くと元族長と呼ばれているおじさんが早速俺の前で言う。
 周りにいる幹部たちもその意見に賛同するように頷いていた。

「あなたがテイマーだと知った時は絶対に許せるはずがないと思っていましたが、どうやらテイムしているのは魔族。しかも相互理解の基づきによるものだと族長に教えてもらい、自分たちの方が固定観念に縛られた無知な生き物だったと思い知らされました。本当に申し訳ありませんでした」

 おじさんはそれはそれは記者会見レベルの真剣な表情で頭を下げ続けた。
 その真面目なトーンでの謝罪に俺は慌てながら言葉を探しながら返す。

「いやいや、頭を上げてください。俺たち人間…………いや、全種族が獣人のことを理解してませんでした。なのでお互い様です。知らなかったことならしょうがないでしょ」

 俺はおじさんの頭を上げさせて言った。
 どこかで見たことのある顔だと思ったらどうやらランドロフの父のようだ。
 隣にいるランドロフに視線を向けると苦笑いをしていた。

 どうやら、俺についてはもう話は終了したと考えてよさそうなので、俺は本題を元族長に振る。

「あの。早速で悪いんですけど力を貸してくれませんか?」
「ランドロフから話は聞いています。戦争を止めたいんだとか…………ですが申し訳ございません。この一族が参戦しないことは出来たとしても止めることは難しいです。同じ実力同士が戦えば当然犠牲は出ま……………………どうかしましたか?」

 俺が不思議そうな表情で元族長を見ていたためだろう。
 元族長は言葉を止め、そんな俺に問う。

 その問いに俺は当たり前のことを言うかのように口を開いた。

「なんで皆さんはいつも……………………力で解決しようとするんですか?」
「「「……………………ッ!」」」

 その純粋無垢な言葉に獣人たちは息をのんだのだった。


**********************

報告!

なんと@kageazuma 様にアレンを描いていただきました!
え?俺なんかの作品に絵を描いてくれるの?神なの?笑
ちょっと嬉しすぎて涙ぐんでます!
その絵は表紙絵にしたのでよかったら見てみてください!可愛いですよね!笑
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