上 下
79 / 142

初めての挫折

しおりを挟む
「治癒の加護のもとに…………【ヒール】」

 俺はマグマに腕を突っ込んだような痛みと熱さに絶叫したいのを我慢しながら回復魔法を行使した。
 本当なら今すぐにでも回復ポーションを使いたいが、ポーションは個人戦の場合認可されている物でなければ禁じられている。
 そして、その認可されている物はこのヒールと同等の効果しかない。

 俺の骨や筋肉が垣間見える接続部に眩い癒しの光がもたらされ、傷跡は生々しいものの、出血は治まる。
 本当なら右腕を拾いたいところだが、先ほど、エリーナに場外に蹴飛ばされてしまった。

 いやぁかわいらしい見た目に反してえげつないことするもんですね。
 何ですか? 魔族ってみんなえげつないんですか?

 回復魔法は二年以上前から必死に勉強していたため、適性はあまりないものの初級魔法程度は使えるようになっている。
 本当に改めて回復魔法は素晴らしいと思う。

 そんなことを考えていると、腕の痛みはそろそろなくなってきた。

「…………はぁ。はぁ。はぁ」

 俺は全身で息をしながら、荒れている呼吸を鎮めようとする。
 しかし、エリーナがそんな余裕を俺に持たせてくれるはずがない。

「風の加護のもとに。相手を打ち抜く弾丸となれ! 【エアロショット】!」

 空気がエリーナの目の前で凝縮され、【エアリール】並みの鋭さになる。
 そして、その幾つもの風の弾丸が俺のめがけて放たれた。

 俺は重い腰を上げるように左手でその弾丸を切ろうとする。
 しかし、慣れない左手に片腕が無くなっているという慣れない重心感。
 今までグレーとの戦闘訓練はほぼ一撃で死んでいたため、このような状況は想定できていなかった。

 そのため、全てを切り落とすことは出来ず、数発俺の肩や足首などに掠れたり、貫通したりしてしまう。
 このまま防戦に徹していればじり貧だろう。

「…………おらあああああぁぁ!」
 
 俺は風の弾丸の雨にさらされながらも短剣を振り回し、エリーナの元へと近づく。

 俺の気力はもうなく、これ以上血を流してしまったら死んでしまう。
 なので、これが最後の攻撃となるだろう。

 俺は左手で持っている短剣をエリーナの首元へ吸い付けるように振りかざした。
 その全気力の攻撃は【エアリール】を裂き、首元まですんなりと…………

「これで、終わり…………………………は?」

 エリーナは俺の短剣を防ごうともせず、にんまりと笑って俺の目の芯を捕らえていた。
 俺はその笑みを見ると背中に何かが走ったような気持ち悪い気分になる。

 更には、エリーナの両手にある爆発寸前の巨大な魔力の塊を見て、ありえないものを見たような声を出してしまった。

 何でしょうかねこれ? 普通にヤバい奴なんじゃないですかね?

 そう思うのつかの間、

「【原子暴発砲アトミックエアロ】!」
「ッ……………………」

 エリーナの両手から巨大な魔力爆発が起き、その爆風が俺のへと放たれた。
 俺は叫ぼうとする隙もなく一瞬で跡形もなく消えてしまう。

「……………………なんだ、つまんないの」

 そして、残されたエリーナは期待外れなような表情を一度してから転移して訓練場を去った。





「……………………」

 俺は一人ブースにあるソファに寝っ転がっていた。
 何も言葉が出ない。何も言葉を出そうとも思えない。

 最初から俺が本気を出していれば勝てていた? 女性だからと言って本気を出せていなかった?
 いや、どれもこれも後付けの言い訳に過ぎない。

 あの魔法封鎖に詠唱省略ではないにしても、脳内での詠唱。
 あれほどの上級魔法を超えた極大魔法。
 数分をかけて詠唱する魔法である。並行詠唱で最初から詠唱を始めていたのだろう。
 ということは二重詠唱も考えられる。

「最初から本気じゃなかったわけか…………」

 あの攻撃の重みも、一回一回の攻撃の速さも全て並行詠唱の付属品だったのだ。
 本気であれば…………想像するだけで怖くなる。

「俺はエリーナの手の上で踊らされていたんだ…………」

 最初から魔法を封じてこなかったのも俺の実力を測るためだろう。

「やっぱり一年生のエースにはあの子でも勝てねぇか」
「あの魔法ヤバすぎでしょ! 流石エリーナちゃん!」
「Sクラスだもんな。戦ったあの子も可哀想だ」

 ドアの外からはそんな声であふれかえっていた。
 先ほどの空気とは一変、俺を盛り上げる勢いが逆に同情するような空気になっていた。
 そう、また・・だ。

 俺はまたエリーナに同情させられるような目をさせられたのだ。

「……………………【テレポート】」

 俺は脱力、無気力の状態で魔法を行使した。
 そして、いつものように視界が真っ暗に染まる。



 自分の部屋に転移した俺はすぐにベットにダイブした。
 そして、枕に顔をつけ、流れる情けない涙を隠し、こみ上げてくる嫌な、汚い気持ちをすべて吐き出すように俺は叫んだ。

「……………………ああぁ…………ああああぁぁ!」

 俺は運が良かったから魔王に拾われた。魔族としてみんなと仲良くできていた。
 もし、配下たちが俺を醜く弱い人間だと知ったらどのように接し方を変えるのだろうか。

『……………………それは、自分で考えろ』
『……………………なんだ、つまんないの』

 グレーとエリーナの言葉が、表情が、空気が、何度も何度も俺の脳によぎる。

 グレーは俺がこうなるのを予想していた。
 そして、それはサテラもミーナも同様だろう。

 エリーナのあの言葉は悪気はなかったはず。
 ということは本心からの言葉だったのだ。
 そう。本当に本心から俺が期待外れだったのだ。

「…………ううっ……………………ううっ」

 俺はひたすら夜になり、声が枯れてでなくなるまで泣き続けた。



 ああ…………結局、俺自身何一つ変わってなかったんだ。
しおりを挟む
感想 89

あなたにおすすめの小説

アイテムボックス無双 ~何でも収納! 奥義・首狩りアイテムボックス!~

明治サブ🍆スニーカー大賞【金賞】受賞作家
ファンタジー
※大・大・大どんでん返し回まで投稿済です!! 『第1回 次世代ファンタジーカップ ~最強「進化系ざまぁ」決定戦!』投稿作品。  無限収納機能を持つ『マジックバッグ』が巷にあふれる街で、収納魔法【アイテムボックス】しか使えない主人公・クリスは冒険者たちから無能扱いされ続け、ついに100パーティー目から追放されてしまう。  破れかぶれになって単騎で魔物討伐に向かい、あわや死にかけたところに謎の美しき旅の魔女が現れ、クリスに告げる。 「【アイテムボックス】は最強の魔法なんだよ。儂が使い方を教えてやろう」 【アイテムボックス】で魔物の首を、家屋を、オークの集落を丸ごと収納!? 【アイテムボックス】で道を作り、川を作り、街を作る!? ただの収納魔法と侮るなかれ。知覚できるものなら疫病だろうが敵の軍勢だろうが何だって除去する超能力! 主人公・クリスの成り上がりと「進化系ざまぁ」展開、そして最後に待ち受ける極上のどんでん返しを、とくとご覧あれ! 随所に散りばめられた大小さまざまな伏線を、あなたは見抜けるか!?

~最弱のスキルコレクター~ スキルを無限に獲得できるようになった元落ちこぼれは、レベル1のまま世界最強まで成り上がる

僧侶A
ファンタジー
沢山のスキルさえあれば、レベルが無くても最強になれる。 スキルは5つしか獲得できないのに、どのスキルも補正値は5%以下。 だからレベルを上げる以外に強くなる方法はない。 それなのにレベルが1から上がらない如月飛鳥は当然のように落ちこぼれた。 色々と試行錯誤をしたものの、強くなれる見込みがないため、探索者になるという目標を諦め一般人として生きる道を歩んでいた。 しかしある日、5つしか獲得できないはずのスキルをいくらでも獲得できることに気づく。 ここで如月飛鳥は考えた。いくらスキルの一つ一つが大したことが無くても、100個、200個と大量に集めたのならレベルを上げるのと同様に強くなれるのではないかと。 一つの光明を見出した主人公は、最強への道を一直線に突き進む。 土曜日以外は毎日投稿してます。

俺が死んでから始まる物語

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。 だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。 余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。 そこからこの話は始まる。 セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕

【しっかり書き換え版】『異世界でたった1人の日本人』~ 異世界で日本の神の加護を持つたった1人の男~

石のやっさん
ファンタジー
12/17 13時20分 HOT男性部門1位 ファンタジー日間 1位 でした。 ありがとうございます 主人公の神代理人(かみしろ りひと)はクラスの異世界転移に巻き込まれた。 転移前に白い空間にて女神イシュタスがジョブやスキルを与えていたのだが、理人の番が来た時にイシュタスの顔色が変わる。「貴方神臭いわね」そう言うと理人にだけジョブやスキルも与えずに異世界に転移をさせた。 ジョブやスキルの無い事から早々と城から追い出される事が決まった、理人の前に天照の分体、眷属のアマ=テラス事『テラスちゃん』が現れた。 『異世界の女神は誘拐犯なんだ』とリヒトに話し、神社の宮司の孫の理人に異世界でも生きられるように日本人ならではの力を授けてくれた。 ここから『異世界でたった1人の日本人、理人の物語』がスタートする 「『異世界でたった1人の日本人』 私達を蔑ろにしチート貰ったのだから返して貰いますね」が好評だったのですが...昔に書いて小説らしくないのでしっかり書き始めました。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

無能な勇者はいらないと辺境へ追放されたのでチートアイテム【ミストルティン】を使って辺境をゆるりと開拓しようと思います

長尾 隆生
ファンタジー
仕事帰りに怪しげな占い師に『この先不幸に見舞われるが、これを持っていれば幸せになれる』と、小枝を500円で押し売りされた直後、異世界へ召喚されてしまうリュウジ。 しかし勇者として召喚されたのに、彼にはチート能力も何もないことが鑑定によって判明する。 途端に手のひらを返され『無能勇者』というレッテルを貼られずさんな扱いを受けた上に、一方的にリュウジは凶悪な魔物が住む地へ追放されてしまう。 しかしリュウジは知る。あの胡散臭い占い師に押し売りされた小枝が【ミストルティン】という様々なアイテムを吸収し、その力を自由自在に振るうことが可能で、更に経験を積めばレベルアップしてさらなる強力な能力を手に入れることが出来るチートアイテムだったことに。 「ミストルティン。アブソープション!」 『了解しましたマスター。レベルアップして新しいスキルを覚えました』 「やった! これでまた便利になるな」   これはワンコインで押し売りされた小枝を手に異世界へ突然召喚され無能とレッテルを貼られた男が幸せを掴む物語。 ~ワンコインで買った万能アイテムで幸せな人生を目指します~

外れスキル?だが最強だ ~不人気な土属性でも地球の知識で無双する~

海道一人
ファンタジー
俺は地球という異世界に転移し、六年後に元の世界へと戻ってきた。 地球は魔法が使えないかわりに科学という知識が発展していた。 俺が元の世界に戻ってきた時に身につけた特殊スキルはよりにもよって一番不人気の土属性だった。 だけど悔しくはない。 何故なら地球にいた六年間の間に身につけた知識がある。 そしてあらゆる物質を操れる土属性こそが最強だと知っているからだ。 ひょんなことから小さな村を襲ってきた山賊を土属性の力と地球の知識で討伐した俺はフィルド王国の調査隊長をしているアマーリアという女騎士と知り合うことになった。 アマーリアの協力もあってフィルド王国の首都ゴルドで暮らせるようになった俺は王国の陰で蠢く陰謀に巻き込まれていく。 フィルド王国を守るための俺の戦いが始まろうとしていた。 ※この小説は小説家になろうとカクヨムにも投稿しています

処理中です...