【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方

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自覚するべき時

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「せやああぁぁ!」

 エリーナは鬼のような気迫で上段から俺を切りかかろうとしてきた。
 なので、俺は今まで通りエリーナを近づける。
 そして、

「…………【転送】!」
「…………それはさっき見ました!」
「……………………えッ!?」

 エリーナは一瞬で横に跳躍し、俺の【転送】の効果範囲に逃げた。
 そして、俺が動揺した瞬間にエリーナは横からまた、一瞬で俺との距離を詰める。
 そのままエリーナは上段から長剣を振り下ろした。

 カキンッ!

「……………………くッ!」

 女性のはずなのにずっしりとした重みがある剣に俺は少し苦し声を出してしまう。
 しかし、所詮女性の剣だ。グレーとはレベルが違う。

「…………ふッ! 【テレポート】!」

 俺はエリーナの剣を弾き飛ばし、すぐに背後に転移した。
 そして、右手に構えている短剣で後ろから心臓めがけて一撃、繰り出そうと右手を振り切る。
 これでいつもなら俺は勝ててた。

 しかし、

「…………せいやっ!」
「…………うッ!」

 エリーナはそれを予測していたように右足を後ろに振り上げ、俺右手を正確に蹴り飛ばす。
 当然、短剣はその衝撃で地面に落ちてしまった。
 そして、エリーナはバク転するかのように一回転した後すぐに振り向き、俺が短剣を拾おうとした瞬間、左足で俺の頬を蹴飛ばそうとする。

「【テレポート】!」

 俺はエリーナが右足を大きく振り切るのを見切って、エリーナの背後頭上に転移した。
 そして、素早く【インベントリ】を開き、短剣を取り出しながらエリーナに向かって切りつける。
 だが、エリーナは、

「風の加護のもとに我を庇護せよ! 【エアリール】!」
「…………なッ!」

 エリーナは触れるだけで肌が切れるような鋭い風を纏う。
 そのため、切りかかった短剣は弾き飛ばされた。
 そして、エリーナは肉弾戦の距離から一転、最初の転移場所まで戻り、俺と大きく距離をとる。

「明瞭たる知能をここに限り、魔の根源たる深淵を封じる…………」

 すると、エリーナは長剣を目の前で構え、まるで騎士の敬礼のような恰好をしてから魔法詠唱を始めた。
 俺は、少し嫌な予感がしたため、その空いた距離を一瞬で詰める。

「【テレポート】!」

 エリーナの背後に転移した俺は目を閉じ、詠唱に集中していたエリーナに切りかかる。
 先ほどの威力ではまた【エアリール】に弾かれる。
 なので、今回は全力だ。

 この世界では詠唱中は攻撃禁止、換装中は攻撃禁止などそんなルールなどない。
 まぁ心が痛まなくもない。だって俺は詠唱しなくていいんだもん。

 そんなことを考えながらエリーナに切りかかろうとすると、

「…………ッ! 並行詠唱か!」

 エリーナはごにょごにょ詠唱しながら俺の短剣から逃げるように走り始めた。

 普通、詠唱中は全ての感覚を研ぎ澄まし、集中しなければならなないため必然的にその場に止まらないといけない。
 しかし、稀にこの世界には並行思考ができる者がいる。
 そのような者が魔法を極め、使うことがほんの一握りいると言われているのが並行詠唱。
 ちなみに、リーシャがその技術を持っているため、俺は知っていたのだ。

 そして、知っている。それが十分厄介であることも。

「…………くそッ!」

 エリーナは転移した場所を予測しているのか、俺が転移した瞬間、地を駆け、攻撃を避け続けている。
 まるで鬼ごっこのようだ。
 そして、鬼である俺は逃走者を捕まえることが出来なかったようだ。

「…………【魔法封鎖アンチマジック】!」

 エリーナの腕から半透明の鎖が具現化され、俺を捕まえるように飛んでくる。
 俺は短剣で切り刻もうとするも、それをすり抜けるように俺の四肢に絡みついた。

「……………………あれ?」

 特に鎖に絡まれたからと言って影響が見当たらないため、俺は突拍子もない声を出してしまう。
 すぐに鎖は視界から見えなり、拘束感から解かれる。
 そして、その代わりに映ったのはエリーナだった。

「せやッ!」

 一瞬で空いていた距離を詰めたエリーナは【エアリール】の風を上乗せした長剣で俺を上から切り裂こうとする。
 普通ならはじき返すことも容易だろうが、今のエリーナの長剣をまともに対抗すれば、短剣の方が叩き折れてしまう。

 なので、俺はいつも通り魔法で転移しようと、

「【テレポート】…………え?」

 先ほど食らった魔法のせいだろう。
 魔法を行使しようとしたが、何故か発動することが出来なかった。
 だが、その現実を確認する間もなく、エリーナの長剣は俺めがけて振り落とされる。

「…………ああああああああぁぁぁぁ!」

 俺は反射的に横によけようとしたが少し遅かったようだ。

 ボトッ

 肩からくっきり俺の右腕は鈍い音をたてて床に落ちる。
 そして、俺のその接続部からは赤い彼岸花のような鮮血で出来た花が咲いたのだった。
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