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あの主人公登場

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「イッヒッヒ! 本当に爽快だな! この景色は!」

 天下のディルガイナが約四万の魔族たちに滅ぼされようとしているのだ。
 あの残虐の魔王の国がだ。
 ランドロフはその光景が、もう滑稽すぎて気持ち悪い笑い方をしている。

「……………………」

 しかし、サルバディはただ茫然と地面にへたり込んでその光景を見ることしか出来なかった。

 四万の魔族、魔獣に加え、気味の悪い狂戦士バーサーカーたちが数百。
 ということは二段階が三万と少し、三段階が七千、準魔王級が数百ということだ。

 サルバディは知っている。魔王軍は幹部クラスでも三段階だということを。
 そして、その三段階者が十人と少ししかいないことも。

 その圧倒的な実力差にランドロフは声を甲高く上げて喜んでいる。

 反乱軍はまだ、少しディルガイナまで数十分はかかる距離だ。
 だが、ここまでは順調。いや、順調でなければおかしいのだ。

 今も、地ならしをしながら、整列を崩さずに魔族と魔獣たちは進行を進めている。

 しかし、

「あッはッは! ざまぁねぇな! この光景を何度夢に見たこ……………………誰だ! そこにいるのは!」

 急に表情を変え、少し警戒するような表情で目を細めて自分の隣の方向を見る。
 すると、何もない荒れ地から一人の少年が現れた。
 透明化の魔法でも使っていたのかもしれない。

「お久しぶりですね。お二人とも」
「…………あん? あの時の子供か?」
「うわッ! どうしたんですか? キャラ変したんですか?」

 そうだ。俺がいるのだ。
 俺は一瞬、ランドロフの変わりように驚くも、わざとらしい咳をして、話を戻す。

「ゴホンッ! では、単刀直入に言います。この魔族たちを止めてください」
「なッ! ……………………アッハッハッハ! とうとう、魔王は子供を使って懇願させに来たのか!?」

 ランドロフは一瞬固まってしまうものの急に腹を抱えて笑いはじめた。
 それはそうだろう。
 こんな、荒れ地に一人、子供が無防備に立っているのだから。

 しかし、サルバディはランドロフに向かって忠告しようとする。

「ね、ねぇ、ランドロフ…………ちょっと嫌な予感がするのだけれど」
「黙ってろって言っただろうが!」
「ご、ごめんなさい…………」

 だが、ランドロフはサルバディの意見など聞く耳を持たない。
 その意見が唯一、生き残る道であるとは知らずに。

「俺、正直言って今、あなた達のせいで貧血で死にそうなんですよ」

 少し青白い肌を見せつけるように俺は言う。
 しかし、当然ながら二人とも心配すらしてくれない。

 俺は、集中するために目にかかっている前髪をかき上げ、真面目な表情に戻しながら口を開いた。

「なので…………手短に終わらせます・・・・・・・・・
「……………………へぇ」

 俺が本気で言っているのが伝わったのだろう。
 先ほどまでの嘲笑うような表情からほんの少しだけランドロフは真剣な表情に変わった。 
 しかし、その表情が九割以上、余裕の笑みであることは変わりはしない。

 俺は手を地面につけ、体中に散らばっている多くのつながりを一つの束にする。
 そして、その束に俺の魔力をありったけ、つぎ込んでいく。
 この束は配下たちと繋がっている証拠でもある魔力経路とも言うものだ。

 俺は詠唱をするなら少しはカッコつけようかなと慣れない、今まで出したことのないような大地に響き渡る声で叫んだ。

「主を保護する守護者たちよ! かの敵をくちゅく・・・・……………………」

 うん。自業自得です。

 噛んでしまったのならしょうがない。
 俺はそれを誤魔化すように一気に魔力を全部つぎ込み、束を顕現させた。

 サテラに詠唱省略のコツを教えてもらっていてよかったと心底思う。


「…………【全体召喚オールコール】!」


 俺は魔法名を全力で叫び召喚魔法を行使する。

 すると、四万の魔族とディルガイナの隙間に巨大な光柱が現れた。
 それは一瞬、神を召喚しているかと錯覚してしまうほど神聖な光である。

 そして、その場所から…………

「オラアアァァ! よくもアレン様を誘拐しやがったなコラァ!」
「アレン様に触れてでもいたら殺すぞボケェ!」
「アレン様ぁ~私、活躍するので見ててくださぁい!」

 今回は本当の戦いになるかもしれなかったので高齢者、子供を除いて、紫電鳥たちから五千人、喰狼族グーラウルフから三千人を召喚した。

 ちなみに全員…………準魔王級・・・・だ。

『さぁ。蹂躙を始めてくれ』

 俺はこめかみに手を当て、少し悪者のような笑みを浮かべて【念話リークス】でそう伝えたのだった。

 そう。俺たちの蹂躙の始まりだ。
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