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グレーの覚悟

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「「………………………………」」

 グレーとグレードは緑丘にある一つの墓石の前に座って両手を顔の前に合わせていた。
 お互い無言で淡々と拝んでいた。


 そして、数分が経つ――

「正直言って、まだ俺はサーナが亡くなっていたなんて現実感ねぇ」
「まぁあの無邪気な母さんだからな…………もしかしたらどこかで生きてたりするかもしれないよな」

 グレーとグレードは墓石の前で座ったまま話をしている。
 互いにここから離れようとしないため日はもう沈んだというのに二人は、丘の上に座り続けている。
 すると、グレードは草原に仰向けになって倒れこんだ。

「いやぁ。疲れた疲れたぁ! もう色々ありすぎて疲れたわ!」
「俺だってもう帰りのことで頭がいっぱいだよ」
「まぁ少しは俺もガリ魔族に謝ってやらぁ。同胞を救ってくれたんだからな」

 禁止されていたはずの契約魔法をアレンは行使した。
 それが、一体の餓狼族《ヴェアウルフ》を救うためだったとしてもルールを破ったのには違いない。

 あの寛容な魔王だ。最後は許してくれるだろうが、少しは怒られるかもしれない。

 グレーも苦笑いしながらグレードのように仰向けになった。

 親子二人、大の字になって丘で寝っ転がる。
 その間合い、空気が何かが心地よく、夜風がふんわりと気持ちよく肌に触れる。

 そして、グレードはそんな夜にかき消されるような声で独り言のように呟いた。

「はぁ。サーナはもうこの世にはいねぇのか」
「だよね~。なんかそんな設定になってるのよ~」

 しかし、その言葉はかき消されかったようだ。
 その声を聞いて少し涙ぐむようにグレードは言った。

「懐かしいなぁ。サーナの声が聞こえる」
「アハハ。親父も? 俺も今幻聴かと思って無視しようと思ったんだけど」

 グレーも苦笑いしながら、耳をコンコンとする。
 すると、

「本当に二人とも仲良くなってよかったわ」
「「……………………ん?」」

 グレーとグレードは無言で顔を見合わせる。
 二人とも気持ちは同じだろう。

「「いやあああああああああぁぁぁぁ!」」

 寝転がっていたグレーとグレードは抱き合うようにして後ずさった。
 そしてその声の主はその様子を見てくすくすと笑い、先ほどまで二人が拝んでいた墓石を蹴り飛ばす。

「「……………………あ」」

 飛ばされた墓石は綺麗に空を舞い丘下のがけへと落ち、大きい音とともに砕け散った。

「…………なッ! サーナ? サーナなのか⁉」

 グレードはすぐに立ち上がり、こちらに背を向けている女性に向かってそう聞く。

 グレーもすぐに理解した。
 何度も見てきた頼もしいく恋しい背中。
 そして、服から垣間見える半透明の肌。

 すると、その声の主はゆっくりと振り返ってにんまりと笑った。

「ただいま。二人とも」
「「あ、ああ…………あああああぁぁ!」」

 八千を統率する神狼とは思えない泣きじゃくったグレードの顔、そして、その血を引き継いだと一瞬で分かるほどのそっくりな泣き顔をしたグレー。
 その二人はこみ上げてくる感情をさらけ出しながらサーナに飛びつくように抱き着いた。



「落ち着いた? 本当にあなたたちは泣き虫なんだから」
「あのクソガリ魔族! 絶対に一発は殴ってやる!」
「まぁまぁ。母さんを救ってくれたんだから。逆に感謝しないと」

 サーナは死んだ。
 この事実は変わらない。

 だが、ディルガイナに着いたグレーとサーナを最初に見つけたのは魔王だ。
 グレーはあとから、魔王にサーナは助からなかったと聞いていたのだが、実はあれは嘘だったらしい。

 一度死んだサーナを魔王が蘇生魔法を行使し生き返らせたのだ。
 魂がまだ密着していたから出来たのだという。

 なら何故早く教えてくれなかったのか、七年も報告してくれなかったのか。

 それは二の舞にあわないようにするためだ。

 事情をグレーから聞いていた魔王はグレーとグレードの関係が良好にならなければサーナを戻すことが出来ない。そう考えその話をサーナにした。
 そりゃあサーナは二人の母である。魔王は反対を覚悟に相談したらしい。

 しかし、サーナはあっさりと了承し、何もしないのもなんだからと各地を旅していたのだ。

「…………これからは家族で暮らせるんだよな?」
「ええ。グレーはまだ子供だからむずかしいかもしれないけどね」

 それは今までのグレードとは思えないほどの弱弱しい声で、まるで懇願するような声でもあった。

 元々、グレードはさみしがり屋だったのだ。
 しかし、その虚無感を埋めてくれる方法を知っていてもそこまでの過程を知らない。
 だから、このようなやり方をしてしまった。

「……………………頑張らないとな」

 グレーは誰にも聞こえないような声でボソッと言う。

 父を一人にさせないように、そして母を今度こそは守れるように。
 そして、次期族長という運命の重荷を背負う覚悟を持って。

 グレーはそう一人、心の中で誓ったのだった。
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