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ランキング戦開幕

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 ランキング戦開幕



「…………なんなんですかね。これ」

 俺は教室に届けられた数十通の封筒を見て言った。
 
 その封筒の中身はクラス対抗ランキング戦の願い届である。
 この封筒にサインすれば、すぐにでもランキング戦を始めることが出来る。

「はぁ。毎年こうなんだよな。かと言って俺たちには先生がいねぇしな」

 グレーはため息をつきながら教卓に置かれた封筒の中身を覗く。

 ランキング戦の内容、招待はクラスの担任が決めることが出来る。
 また、断ることが出来るのも担任だけだ。
 そのため、我がXクラスはいつも数で勝敗が決められるような種目を何十回と一年間繰り返させられ、ポイントを搾り取られるのだ。

「うわ。Dクラスはまた、旗取りじゃねぇか。あのクラスの担任、本当に性格悪いよな」

 グレーは中身を少しだけ覗き、封筒をポイっと教卓に戻す。
 その様子を見て女性陣二人は机に伏せたままダルそうに言う。

「またぁ? 私はもう嫌だよ。グレーが一人で行ってきなさいよ」
「そうなの。体力馬鹿のグレーなら一人でも大丈夫なの」
「俺の扱いヒドクナイ? なぁアレン」

 グレーは半泣きの表情で俺を見てくる。
 
(いやいや、俺に振られても困るんだけど)

 なんて俺のは心の中で毒づきながら苦笑いで励ますように言葉を返した。

「大丈夫ですよ。俺も付き合いませんから」
「…………ん? 俺の聞き間違い……だよな⁉ 聞き間違いだよな⁉」

 そんな他愛もないやりとりを繰り広げているとそれを中断するように音が鳴る。

 コンコンコン

「はぁ、またかよ」

 グレーは本当に疲れた様子を顔に浮かべながら教室のドアへと赴く。
 またランキング戦、招待の封筒が来たのだろ。
 しかし、グレーは教室の戸を開けると。

「あ、ゴブ先輩! どうしたんですか? こんなところにいらしゃって! 来るなら言ってくださいよ! お迎えに上がったのに」
「……………………は?」

 急にテンションが爆上げになったグレーにも驚いたが、俺が一番驚いたのはその言葉の中身だ。
 ゴブ先輩だと?

「こ、こちらの方は?」
「俺はドラだ。一応、魔王幹部の一人で今日からは先生になるぞ」
「……………………んん?」

 俺の聞き間違えだろうか。
 うん。聞き間違えだろう。
 最近、ドラに会ってなかったから無意識のうちに恋しくなっていたのかも――

「「おはようございます。アレン様(我が主)」」
「………………………」

 二人は下を向いてにやにやと口角を上げているように見える。
 俺の目の前で跪いている二人から視線をそらし、俺は歯を噛み締めた。

(ねぇ! なんで!? なんで二人がいるの!? これからの俺の青春を最初からぶっ壊す気なの!?)

 思春期ってやつなのだろうか。
 俺は一年間共にしていた、まるで保護者のようなゴブくんやドラと学校では離れてしまう。

 最初は不安だったものの意外とこれが楽しいものである。
 独り立ち? そのような感じだろうか。
 しかし、その高揚感は今日で終了だそうだ。

「はぁ。顔を上げてよ…………で、先生ってどういうこと?」
「それはですね…………」

 俺はため息を吐きながら聞く。

 どれだけ朝のことを根にもとってるのだろうか。
 立ち上がったゴブくんが少し嬉しそうにこれまでの経緯を教えてくれた。

 まず、俺がXクラスに入ったと聞いて、魔王はそんなクラスを知らなかったため学校側に問い詰めたらしい。
 そして、Xクラスの実態を聞き出し、激怒。かといって学校側には余っている教師はいない。
 そこで暇を持て余していたゴブくんとドラに目をつけたそうだ。

 一緒に学校に行こうって俺が誘った時には忙しいと断っていたくせに。
 などと思いながらも俺は話を聞き終えた。

「グレー。これがそのランキング戦の招待状か?」
「ああ…………ん? どうするつもりだ?」

 何故、ドラはタメ語なのかは突っ込まないでおこう。
 何か、人の機嫌を悪くさせる匂いでも出してるのだろうか。そう思うくらいドラは人から好かれることがない。

 顔は少し強面だが、結構かわいいところもあるんだよ?
 ドラはいつも夜遅くにわざわざ【気配探知】の魔法を使ってまで、一人になる。
 何してるんだろうな? と思って魔王と探ってみたら満面の笑みでプリンを食べていた。
 ほらね? 可愛いでしょ?

「こうするんだ」

 ボンッ!

「「「「……………………あ」」」」

 俺たち生徒はその光景を見て唖然としてしまう。
 ドラは口から小さな火を吐き、十をも超える茶封筒を全て跡形もなく燃やしたのだ。
 そして、ドラは教卓まで移動し、にんまりと笑う。

「じゃあ。ホームルーム始めるぞ。内容はランキング戦の項目だ」

 俺はこの時、その横でゴブくんもにんやりと口角を上げていたことに俺は気づいていかなかった。
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