【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方

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雨が降らなければ虹は出ない

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「オラオラオラオァ!」
「…………【消失ディスペア】」

 あの蜥蜴の獣人はズカズカと地に転がっている灰色狼の獣人を何度も嬲り蹴っている。
 そのため僕は最後の砦であった灰色狼たちを【召喚】の真逆の性質を持つ魔法【消失《ディスペア》】で召喚される前にいた場所へと戻させた。

 あのまま攻撃を食らっていたら灰色狼たちは死んでいただろう。
 契約獣に命をかけさせてでも自分は生きようとする、その行為はテイマーの恥でしかない。

 僕はゆっくりと膝に手を当て立ち上がり、転がっていた長剣を拾い、中段に構える。

「無理だって、人間如きが俺にかなうわけないだろ?」
「ああああぁぁ!」

 僕は雄たけびを上げながら長剣を獣人に向かって振りかざす。
 しかし、

「…………【止まれ・・・】」
「…………ぐッ!」

 獣人の目の前。あと一秒あれば獣人を切り殺せる距離で僕は硬直してしまう。
 獣人は僕に息がかかりそうな距離でにんまりと笑った。

 その瞬間、何か嫌な予感、背筋が凍るような状態に陥る。
 
 そして、僕のその予感は的中する。

 僕の目の先。手を伸ばすことが出来れば届きそうな距離に獣人はシャルロッテを突き出した。
 右手はがっしりと首元を固定し、左手は…………

 ブチッ!

「…………いやあああああぁぁぁ!」

 獣人は左手でシャルロッテの目立つ金色で艶のある長い髪の毛をむしり始めた。
 
「止めろおおおおおぉぉ!」

 僕は額に血管を浮かばせながらそう叫ぶ。
 しかし、その俺の叫び声は伝わない。

 ブチッ!

「いやああああああぁぁぁ!」

 しかし、獣人も僕と同じように叫び、歪な笑みを浮かべる。

「これがお前ら人間が獣に対してしてきたことだろうが! お前らもやられたって文句言えねぇよな?」

 ブチッ!

「……いやああぁ!」

 ブチッ! ブチッ!

「…………ぁ」
「…………ちッ。もう終わりかよ」

 獣人は全ての髪をむしり終え、物足りなさそうにそう言った。
 シャルロッテの頭部は血で赤く染まっている。
 
「止めろって言ってんだろうがああぁぁ!」

 僕がどれだけ声を荒げても、僕は何も出来ない。
 シャルロッテが嬲られている時も僕はその目の前で何も出来ないまま固まっている。

「じゃあ次は…………これはどうかな」

 ビリッ!

「……………………なッ!」

 シャルロッテが今まで来ていた純白の服を獣人は剥がすように破った。
 そして、その服と同じようにシャルロッテの純白の肌が露出される。

「……………………ッ!」

 その状態にシャルロッテは唇をかみながら羞恥を我慢している。
 当然、唇、頭など、多くのところから血が出ている。

 本当なら気を手放してもおかしくないような痛みに恥じらい。
 しかし、シャルロッテは血反吐を吐きながらも意識を保たせている。

「うわぁ。やっぱり人間って獣より肌きれいだよねぇ」

 獣人はいやらしい目で上から下までシャルロッテの裸体を見始めた。
 シャルロッテは赤い涙を何度も額を浸らせさせる。
 そしてその雫は地面へ落ち、血溜まりへと変わっていった。

「…………頼む…………もう……止めてくれ」
「…………仕方がないなぁ。そこまで言うなら止めるよ」

 思ってもいない反応に僕は少し驚いてしまう。

 そしてすぐに分かった。その止める・・・は別の意味だということを。

「もう痛覚も薄れてきて反応も悪くなってきたし…………殺そっか」

 獣人の歪に歪を極めた笑みに僕は生まれて初めて恐怖を覚えた。

「…………逃げ……て…………あな……た」
「シャル! おい! 止めてくれよ! 僕が何でもするから!」

 僕がすがるように声を出しても実際の体は動かない。
 何もあの獣人を止めるすべがない。

 僕はこの獣人にとって赤子同然なのだ。

 獣人は悲しそうな表情を作りシャルロッテを高く持ち上げた。
 シャルロッテの足が地から離れ、表情が険しくなる。

 獣人は手刀を作り、心臓に狙いを定める。
 そして、獣人は口を開いた。

「じゃあ殺すよ? ちゃんと見ててね?」
「あああああああああああああああああぁぁぁぁ!」
「うるさいなぁ。【静まれ・・・】」
「…………ッッ…………ッ!」

 耳を片手で押さえながら獣人は僕が声を出すことを禁じた。
 僕の額から涙が零れ落ちる。
 それでも、僕の体は硬直し、上段に長剣を構えたままだ。

(お願いだぁぁぁぁ! もう止めてくれええええぇぇ!)

 そして、もう一度、獣人はシャルロッテの心臓に狙いを定める。
 すると、その瞬間シャルロッテと目線があった。
 シャルロッテの険しかった表情が一瞬だけ和らぎ、笑顔になる。
 
 そして

「愛して――」
「サヨウナラ~」

 獣人はシャルロッテの最後の言葉を遮りながら心臓めがけて手刀を突き刺した。
 その手刀はシャルロッテを貫き、獣人は返り血を浴び真っ赤に染まる。
 まるで血の花のように鮮血が飛び散る。

 ボトッ

 そしてシャルロッテは脱力し、獣人が手を離したため、地に鈍い音をたてて崩れ落ちた。
 獣人は真っ赤に染まった顔をこちらに向けてにんまりと笑う。

「聞かせてよ感想……【解除・・】」
「あああああああああああああああああああああああああああぁぁぁぁ!」

 僕は夜空に響き渡るほどの大声で叫び続けた。
 そして僕の意識は手の中から零れ落ちた。












































「じゃあ。お前もこの娘と同じ場所に送ってあげよう」
「うーん。そうなるのは君かな?」
「……………………は?」

 そして、その後にもう一つの血の花が咲く。

「うわぁ。きしゃない…………あ、エリス。あのボロボロの娘よろしく」
「分かりましたわ。その後はどうするんですの? このまま放置しておきますの?」
「………………いや、連れて帰ろう。レン、この男性に興味があるんだ」
「…………え? そっち系ですの?」
「そんな冗談言う暇があったら、さっさと手を動かす!」

「はいはい……………………勇者レン様」
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