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反逆の狼煙に似たただの煙

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「威勢だけあっても実力差が明確なんだから意味がないんだよね」

 獣人は僕を嘲笑うように地面を見ながら言った。
 その獣人の視線の先には腹を向けて戦意を無くした灰色狼がいる。

 僕の手持ちの契約獣で、陸上で戦える獣はもういない。
 ということは、もう僕はほぼ勝てる可能性がない。ということだ。

「……うっ……ぐっぐ……逃げ…………て……あな…………た」
「…………ちッ!」

 今でも少しずつ獣人の腕に力が加わりシャルロッテの表情が険しくなっていく。

 何が天才だ。何が神童だ。
 こんなところで大切な人を助けれなくて、何が次期族長だ。

「ああああああああああぁぁぁ!」

 僕の奥底に眠る天才カリスマの実力を全て叩き起こす。
 今まで自然にセーフティーをかけていた実力をさらけ出そうと僕には似つかわしくない声を上げる。

 こんな場面でもアレンならどうにかできるだろうか。
 アレンならどうするのだろうか。

「…………お前らそれでも誇り高き狼種かぁ!」

 僕は握っている長剣で左手の動脈を切り裂く。
 当然、そこから、どばどばと僕の血液が腕を浸って地に流れ落ちる。

「あッはッは! なんです? それじゃあ自滅しますよ?」
「……………………なに……ッ……して」

 二人は馬鹿な奴を見るような目で僕を見ていた。
 しかし、その言葉を遮るように一つの叫び声が上がる。

「ワオォーン!」
「…………なッ! 言霊魔法を自力で解除しただと⁉」

 寝転がっていたはずの灰色狼の一匹がこちらへ疾走するように戻ってきて血だまりをなめ始める。
 あれは、あの灰色狼たちのリーダー的存在だった奴だ。
 その光景を見て獣人は余裕ぶっていた状態から口を開けて驚いた。

(意外とこれ…………しんどいな)

 脳がくらくらし始めた。貧血だろう。
 しかし、早々に傷を塞けば、何も意味がない。また、獣人の目の前でひれ伏すだけだ。

(もう少し……もう少しで、何か……何かが変われる気がするんだ)

 手の中から零れ落ちそうな自分の気を歯を食いしばって保たせる。
 獣人はその光景を興味深そうに見ていた。そのため、少しシャルロッテの表情が和らいだように見える。
 今すぐシャルロッテを殺すということはないだろう。

 そんなことを気にすることなく、一匹の灰色狼は僕の血をなめ続ける。

 頼む、一分でも早く、一秒でも早――

「……………………はぁ。やっとか。【ヒール】」

 僕はため息交じりに安堵しながら出血部を回復魔法で塞ぐ。
 そしてくらくらとする頭を押さえながら尻もちをついた。

「………………まさか…………この光は」

 獣人は先ほどよりも驚いたような表情でその光景を見ている。

 そう。先ほどまでペロペロと僕の血をなめていた灰色狼が神々しい光を発し始める。
 それは、まさに奇跡。そう思わせるような光だった。
 思わずその光景を目の前で見惚れてしまう。

 そして、光が収まり始めたころ、唐突に見知らぬ声が聞こえた。

「よし。第二ラウンドだ。主をこんな目に合わせた奴をボコボコにしてやろうぜ!」

 その光の中心地から一人の好青年が出てくる。
 それはまるで、先ほどの灰色狼のような…………

「「「「ワン(了解)」」」」

 寝転がっていたはずの四匹の灰色狼がこちらに戻ってきた。

(……………………うッ!)

 今まで通りの灰色狼たちの声。しかし、まるでそう言っているかのように意図が聞き取れた。
 それと同時に、昔、魔物と契約した時と同じような症状に陥る。
 魔力欠乏だ。

 だが、前回に一度経験しているためか、ギリギリ意識を保つことが出来ている。

「…………何だと⁉ 今進化したっていうのか? トリガーは血か!」
「……………………え?」
 
 僕は進化という言葉に驚いてしまう。
 あわよくば戦闘に対する意思を持ってくれたらいいと思っていた出血作戦。
 まさか、進化なんてするとも思っていなかったし、進化できるなんてことも知らなかった。

「…………主も苦しそうだからさっさと終わらさせてもらうよ」
「…………ちッ。相手が獣人じゃ…………」

 先ほどまでの余裕っぷりは何処に行ったのやら。
 蜥蜴のような獣人は動揺しながら戦闘態勢に入ろうとする。
 しかし、
 
「おらよッ! 白と黒は後ろカバーしろ!」
「「ワン(了解)!」」
「赤と黄はどんどん攻撃を仕掛けろ」
「「ワン(りょーかい)」」

 先ほど進化したと思われる灰色狼の獣人が灰色狼たちに命令する。
 それを聞いた四体の灰色狼がすぐに行動を始めた。

「さぁ。反逆の狼煙を上げるぞ!」
「「「「ワン(おお!)」」」」
「…………ちッ! このままじゃヤバイ」

 にんまりと口角を上げて灰色狼の獣人は口角を上げる。
 僕はその背中を見て初めて頼もしいという感情が芽生えたのだった。




















































「…………なーんてな!」
「……ぐはッ!」
「「「「……キュンッ!」」」」

 四方から蜥蜴の獣人に仕掛けた攻撃が一瞬で防がれ、反撃される。

 四体の灰色狼はきれいに吹っ飛ばされ、戦闘不能になった。
 そして、獣人に進化した灰色狼も横腹に蹴りをいれられ、その場でうずくまってしまう。

「あッはッは! ざまぁねぇな! 進化しても獣人は姿が魔族みたいに変わんないから分かんなかったかもしれねぇが」

 一瞬誰が喋ったのか分からなかった。
 雰囲気、話し方など、全く変わった蜥蜴のような獣人が上から目線で僕たちを見て嘲笑っている。

「俺は二段階者なんだよぉ! 言っただろ! 最初から実力者は明確だって!」

 ポキッ

 この瞬間、僕の中で何かが折れた気がした。
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