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自業自得の襲撃

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「まさかあのクソジジイ! 【テレポート】まで使って逃げたのか⁉」
「…………そうですね、その可能性が一番大きいです」

 【テレポート】。それは空間系統の上級魔法である。当然、消費魔力量も膨大である。
 上級魔術師や宮廷魔導士、かの勇者でさえ命の危険を伴う魔法で、一生に一度しか使えないとまで言われている。
 決死の魔法と言いていいだろう。

 そんな魔法をかの博識高い先代の族長が使ったということは…………

 ドガンッ! ドガンッ!

「何だッ! 何が起きた⁉」

 二回ほど巨大な音が鳴り、まるで地震のように地が揺れた。
 そして、新たに男が一人、この部屋に息を荒げながら入ってくる。

 あの男は私の兄の『カンザス』だ。

「キールとシャルロッテが集落からいなくなりました! それと、キールの家を置き手紙があったのでそれをお届けに参りました!」

 『キール』は私の息子で『シャルロッテ』はキールの妻。私の義理の娘だ。

 キールは本当なら私が庇ってあげなければならなかったのだが、アレンのことを一族の皆がいじめていた時に唯一親身になって相談に乗ってあげていた弟思いの優しい兄だ。

「「……………………えッ」」

 私と妻は同時に素っ頓狂な声を出してしまう。
 
「…………何だとぉ⁉ どいつここいつも!」

 キールは次世代の期待の星であり、次期族長までうたわれた人間だった。
 誰からも慕われ、誰にも優しく、それはアレンにも同様である。

 深海竜ヴァスレアを従えており、海の場所でしか呼び出せないという制約はあるものの当然、あの竜種の末裔だ。そこらの獣とは格が違う存在だ。
 また、他の数十の獣を従えているため、この集落の騎士団長まで上り詰めた。

 そんな男が集落から出ていった。
 となると普通に考えて五百匹を相手するのは難しい。

「…………読ませていただきます。『俺は人殺しの族には属したくない。正直お前たちがその状況に陥ったのは自業自得だ。自分たちで何とかしろ』とのことです」
「どいつもこいつも調子に乗りやがってぇ!」

 この部屋にいる全員が怯んでしまうような声で族長は吠えた。
 隣にいる妻は体を小刻みに震わせながら顔を押さえている。
 息子の不祥事は親も罰せられる。それを妻は恐れているのだろう。

「……………………え?」

 ドスッ

 呆けた声と鈍い音が一つ、この部屋に鳴り響いた。
 私は急いでその方向に視線を移す。
 しかし、そこには一人も人間・・はいなかった。
 
「きゃああああああぁぁぁ!」

 妻が断末魔のような叫び声を上げる。
 私は急いで妻を抱きかかえるようにして近くに寄せる。

 地面にカンザスの首が転がり、胴体は首がついてあったところから鮮血がほとばしっている。
 まるで血の花。そう錯覚してしまうような勢いで舞い上がっていた。

「【召喚コール土蜥蜴つちとかげ! 侵入獣を殺せ!」

 族長は急いで魔法を行使し、竜と錯覚してしまうような巨体の蜥蜴を部屋に召喚した。
 そしてカンザスの物陰から一体、いや一人の獣が出てきた。

「ギャアアアァァ!」

 土蜥蜴は族長の命令に従い、一瞬で命を刈り取るような速さで巨大な尾を薙ぎ払うようにして叩きつけた。
 しかし、

「……………………ギャ?」
「本当に調子に乗らないでもらいたいっすよ。そんな獣風情が獣人の俺に勝てるわけないっしょ?」

 その獣人と名乗る男はまるで白虎のような容姿をしているが、まるで魔族のように的確に人語を話し、二足歩行をしている。
 そして薙ぎ払らいに飛んできた自分の身長より何倍もある巨大な尾を片手で持ち上げていた。

 それだけで分かる。このままでは殺されると。

「【召喚コール】!月隈つきぐま!」

 私は急いで自分が契約している中で一番強い獣を召喚する。
 すると私の目の前には三メートルを超える巨大な黒い熊が現れた。

「行け! 今すぐ排除しろ!」
「むだむだむだぁ!」

 こうして私たちの最後の戦いが幕を開けた。


***********************

 補充説明

 零段階 → 一段階→二段階→三段階 → 準魔王級 → 魔王級


 魔物  →   魔族   →    準魔王  → 魔王
         魔獣   → 魔獣王(八魔獣)→神魔獣
 獣   →   獣人   →    獣王   → 獣神


 人間は獣を、魔族は魔物を肉として食している。
 特に仲間意識はない。
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