【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー～今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い～

二一話 俺の本業

「おい。そろそろ本気出してみろよ」

　俺が殺されて何回経っただろうか。
　グレーは俺が苦しまないように一撃で殺してくる。

　正直に言おう。俺は絶対にグレーには勝てない。
　圧倒的な実力の差がある。
　これは今どう頑張ったからと言って埋めれるものではない。

　その証明に、俺は最初の【テレポート】を活用した蹴り以外一度も攻撃を加えることが出来ていない。

　俺が言うのもなんだが普通ならもう止めろと同情して言ってくるはずだ。
　しかし、誰も止めろとは口にしない。いや、口にしようとしない。
　何か俺に期待でもしているのだろうか。

「なぁアレン。お前戦闘系の役職か？　魔術師メイジなら魔法を使えよ」
「言いましたよね。俺は魔力ゼロだって。正直に言うと俺、空間魔法以外が使えな…………何だあれ？」

　この訓練室が急に暗くなったため空を見上げると、そこには黒い何かの大群がいた。
　その俺の問いを二階にいるミーナが答えてくれた。

「あれは『雷電鳥』という魔獣なの。渡り鳥だからこの時期になったら大群でこの国の上を飛ぶの」
「あれって強いんですか？」

　俺がそう聞くとミーナは首を縦に振った。

「一体だけならまだしも、あそこまで多く集まっていれば流石の脳筋のグレーでもぼこぼこにやられるレベルなの」
「おい、なんで俺の名前を出した！」

　俺はその返答を聞いて歪な笑みを浮かべた。
　何故忘れていたのだろう。何故思いつかなかったのだろう。
　俺の本業がテイマーだということに。

「グレー先輩。俺の役職はテイマーなんだけどその、契約した子に戦ってもらうとかありなんですか？」

　俺がそう聞くとグレーはすぐに首を縦に振る。

「ああいいぞ！　だが、アレンが俺に勝てない間はその契約した魔獣も俺には勝てないだろうな！　あッはッは！」

　俺がいた元一族の言う獣は魔大陸では獣は魔獣へと進化したようで魔力を保持しているらしい。
　魔獣と魔物、魔族は全く別のもので魔獣はただの害獣でしかない。
　そのための、この国の近衛騎士たちなのだ。
　まぁ北国、魔王の息子の国の侵攻から守るという仕事もあるが。

　話がそれたので戻そう。　
　俺はもう何が何やら分からないので、魔力があると仮定しておこう。
　ゴブくんたちは獣は俺の魔力量に怯えて契約できないと言っていた。

　なら魔獣はどうだろう。
　魔力を保持している魔獣なら器も多きいはずだと俺の脳がそう訴える。

「…………大いなる契約に基づき、その強固たる糸を借りたもうと願う。その見返りをもってこの場の力の譲渡を願う」

　俺は自分の奥底、根源であるモヤモヤを開放して詠唱を始める。
　このモヤモヤが魔力なのだろう。
　後で測定石について魔王に聞くなりして調べてみようと思う。

「ほう…………面白そうじゃないか」

　この魔法は詠唱から発動までの時間がかかる。
　本番、ましてや一対一の時に使うのは不可能に近い。
　しかし、今のグレーは油断しているため、また、勝負を楽しみたいため絶対にグレーから先に仕掛けてこないのは確証していた。

「…………【集団仮契約オールフェイクリンク】！」

　この魔法は書庫から調べて詠唱だけかっこいいからと覚えていただけで、今だ一度も成功したことのない魔法だ。
　俺がその魔法の名を叫んだのと同時に巨大な魔法陣が展開する。

　そして、その魔法陣は雷電鳥を覆いこむようにして消えた。

「何をしたんだ？」

　その様子を見た巨大なグレーが興味深そうに聞いてくる。

「先輩のお相手をリングに招待しただけですよ」

　俺は軽く、そんなことを答えながらも心の中では両手を合わせて神に土下座している。
　
（お願いします！　神様！　三体ぐらいいればどうにかなるんで！）

　一度も成功したことない魔法で三体とは強欲かもしれないが、それぐらいしないとグレーは倒せない。
　そして俺はゆっくりと空を見上げ――

「あ…………ミスった」

　キュル、キュル、キュル、キュル！」

　鳥の鳴き声がこちらに向かって飛んできた。
　その声は軽々と三体を超えている。

「な、ななななんだとぉ⁉」

　その総数、軽々五百。ほぼ全ての雷電鳥が威嚇のような鳴き声を浴びせながらグレーに向かって突進してきた。