【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー～今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い～

二十話 脳筋先輩との戦闘訓練

　俺は目の前に迫ってきている鍵爪を短剣で勢いをそらしながらグレーと肉薄する距離まで近づく。
　当然勢いをそらされたグレーは体が前のめりになり重心がぶれ、倒れかけている。
　俺はその背後にまわる。完全に死角だ。
　俺は少しにんまりと口角を上げながら短剣を軽く振りかざす。

「んな、俺は弱くねぇぞ？　失望させんなよ？」
「…………なッ！」

　信じられない光景が目の前で起こった。
　グレーは犬のようなふさふさの尻尾で俺の短剣を防いだのだ。
　俺はその光景を見て唖然としてしまい、少し硬直してしまう。　
　しかし、その一瞬のミスが敗因に繋がるのだ。

「…………うッ！」

　グレーは後ろまわし蹴りで俺の腹をえぐる。
　その衝撃で俺はまるで現実ではないような速さでこの施設の壁まで飛ばされた。
　全身の骨が嫌な音をたてて砕ける。
　しかし、すぐに俺の周りに眩い光が発現し、俺の全身が修復されるのが分かった。

「アレン…………なんでお前はこのクラスに来た？」

　俺のもとへ足音をたてて怪訝な表情をしたグレーが近づいてくる。
　その足音に俺は恐怖を覚えた。
　魔王なんて比べ物にならないほどの窮屈勘と窒息感。そんなオーラが漂ってくる。

「さっさと見せろ。お前の実力を」
「【テレポート】ツインズ！」

　【テレポート】を行使して俺はまた、グレーの背に回り込む。
　そしてもう一度奇襲を――

「学べよ。馬鹿か？」
「…………え？」

　俺が短剣を振りかざそうとするとそこにはもうグレーはいなかった。
　そして、俺の後ろから急に殺気が伝わる。

　俺はその行動を見て歪な笑みを浮かべた。

「そりゃあ俺だって学ぶさ」
「…………なにッ！」

　グレーの鍵爪は空中を舞う。
　そこにいるはずだった俺はグレーの背後にもう一度【テレポート】で転移し背中を蹴飛ばした。
　グレーは顔面から地面にぶつかりかけるが急な体の方向転換でバク転で受け身をとった。

　どんな運動神経してんだよ。

　俺は心の中でそう毒づきながらもう一度短剣を構える。
　グレーは先ほどのつまらなそうな表情から少しニヤッと笑みを浮かべた。
　そして、もう一度、俺たちが接近しようとした時、

「ストーップ！　ほんの少し待ってぇ！」

　サテラが大声を上げて俺たちの戦闘を中断させる。

「待って！　アレン君、魔法の連続行使したよね⁉　それどこで覚えたの⁉」」

　目に血を走らせながら叫ぶサテラに俺は唖然としてしまう。
　その横でグレーが小さな声で教えてくれた。

「あいつは魔法オタクなんだ。ああなったら止まらないからさっさと教えてやれ」

　さて、どう言い訳をしようか。
　魔王に教えてもらったなど言うのは論外だ。
　そもそも人前では【テレポート】を使はないつもりだったのについ、使ってしまった。
　まぁ殺されそうだったのでしょうがない。と俺は自分に言い聞かせながら口を開ける。

「俺のお父さんに教えてもらったんですよ。後で教えましょうか？」
「あ、お願いします。師匠！」

　サテラは満面の笑みで喜んでいる！

　こういう時は相手にとって有益な情報を提示してやればいい。
　そう深海の深魚族ヴァースキに教わったのを思い出して口にしてみたが、効果は絶大のようだ。

「よし！　続きやるぞ！　【装飾展開フルアームズ】！」
「…………は？」

　グレーが少し離れたとこでそう叫んだ。
　その瞬間、グレーの体がぼこぼこと膨れ上がり、俺と同じぐらいの身長だったはずが、今ではおれの三倍以上の大きさになった。

「俺の勘だが、アレンがこのクラスに入った理由は魔法じゃない。違うか？」

　先ほどより野太くなった声でグレーは俺に聞く。
　俺は少し冷や汗をかきながら正直に答えた。

「俺、魔力測定でゼロだったんですよ」

　俺がそう言った瞬間、間抜けの声が三つ帰ってきた。

「「「……………………は？」」」
「しかも、測定石壊しちゃったし…………」

　その俺の言葉を聞いてサクヤが訂正するように声をだす。

「いや、それは――」
「ああ。もういいや。戦えば分かるだろ」

　巨大なグレーは戦闘態勢に入って言った。
　俺もそのグレーの殺気ですぐさま戦闘態勢になる。

「ちなみに、本気出さなかったら連続で殺されまくる訓練な！」
「言ってることが怖いですよ！」

　笑顔で口にしたグレーに俺はツッコミを入れてしまう。

「…………オラッ！」
「…………うッ！」

　こうして第二ラウンドが幕を開けた。