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十五話 入学式

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「俺の名前はアレンです。あなたは?」

 俺は言った後でしまったと顔をしかめながら気づく。

 魔王城では特に俺が人間だと知っている人たちが多かったため、俺の実名を言ってもよかった。
 だが、普通は違う。
 今まで聞いてきた魔族たちの名前は全て称号のようなものだった。

 当然長耳族エルフの女性は一瞬驚く。
 だが、すぐに平常心を取り戻し口を開いた。

「…………え? 私は長耳族エルフのエリーナです…………どうしました?」

 俺は一瞬、その言葉を理解するのに時間がかかってしまい、歩く足を止める。
 そして、恐る恐る聞く。

「あの名前って、至高の何とか。とか、影の何とか。みたいな名前じゃないんですか?」

 そう言うとエリーナは少し複雑そうな表情をした。
 ここはあまり触れてほしくない話なのだろう。
 俺はすぐに話をそらす。

「そう言えば学校って何をするところなんですか? 地方から来たばかりでちょっと常識に疎いくて…………」

 こういう設定にしておけば常識外れなことを言ってしまった時の言い訳になる。
 今日帰ったら魔王に名づけについて詳しく聞いておこう。

 俺がそう聞くと複雑そうにしていた表情から元の元気な表情に戻る。

「そうなんですね! 私もここから東にある長耳族エルフの里出身なので似たもの同士です…………そういえばアレン君って種族は何なんですか?」
「え……………………」

 全くそのようなことを考えてなかった。
 魔王にただ魔王と似た疑似魔法をかけてもらっただけなので種族も段階もあるわけがない。
 俺は脳をフル回転させる。

「…………悪魔族デーモンです」

 こんなことになれば魔王の種族も聞いておけばよかった。
 なんとなく見た目で考えた種族だったのだが、エリーナは納得したような表情になる。
 そして俺と息がかかる距離まで近づき上から下まで見始める。

「だからその角と目…………あ! じろじろと見てすみません!」

 他の通行人の視線で気づいたのか顔を真っ赤にして飛びのくように離れる。
 そして少し二人の間に気まずい空気が流れる。

「あ、そろそろ着きますよ!」
「あ、本当だ」

 目の前には魔王城には劣るものの巨大な建物があった。

 ナイスタイミング!

 俺はそんなことを考えながら多くの魔族が通っている門をくぐろうとすると、

「ちょっと待ってください」

 エリーナに腕を引っ張られ止められた。
 エリーナは恥ずかしそうに顔を下げたまま言う。
 
「同時に入りませんか?」
「…………いいですけど」

 隣でも似たような子をしている学生が目につく。
 流行っている儀式のようなものなのだろうか。
 常識に疎い俺はその意味が理解できなかったがどうしてもしたい、というような表情をしていたので俺は頷く。

「いっせぇので!」

 エリーナはまるで子供のようにはしゃぎながら門をくぐる。
 俺のエリーナに合わせるように足を学校の敷地内に踏み入れた。

「改めてよろしくお願いします! アレン君!」
「うん。よろしく。エリーナさん」

 満面の笑みを浮かべたエリーナが差し出した手を俺は改めて握った。

 俺たちは看板の案内通りに足を進める。

「そういえばアレン君って寮暮らしなんですか?」
「いや、俺は家が近いから違うよ……………………あ、父さんが張り切ってこの王都に家買っちったから」
 
 不思議そうな表情をしていたエリーナを見て俺は急いで理由を後付けした。
 流石に魔王城に住んでいるなんて言えるはずもない。

「そうですか…………」

 すると、エリーナは悲しそうな表情をした。しかしすぐに嬉しそうな表情に戻って口を開ける。

「ではいつか、アレン君のお宅にお邪魔させてもらってもいいですか?」
「……アハハ…………いつかね」

 同級生の家に遊びに言ったら魔王城でした。
 …………冗談じゃない。

 出来るだけ固まってしまっている表情を動かすように無理矢理笑いながら話を逸らす。

「あ、集合場所ってここじゃない?」

 俺は歩いていた足を止める。
 視線を前に移すと何千人もの魔族が集合している巨大なホールのようなところがあった。
 魔王城の庭の半分ぐらいの大きさだろうか。

「校長先生の長い話でもあるんでしょうか?」

 そんなことを考えていると俺たちが通った巨大なホールの入口が閉まる。

「あ、あ。聞こえてますか? 私はこのデルターナの学校長を務めている『深海の深魚族ヴァースキ』です」

 拡声の魔法でも使っているのだろうか。
 本人の姿は見えないがどこからか少し低い声がこのホールに響き渡る。

 深海の深魚族ヴァースキと俺は顔見知りだ。
 この一年間、俺に最低限の知識を教えてくれていた人物である。
 また、魔王幹部の一人でもあり、戦闘では策士としてよい働きをすると魔王から聞いたことがある。

「唐突ですが今からみなさんに試験を受けてもらいます。もちろん落ちた場合はこの学校から去ってもらいます」

 その一言でここにいる千人の学生、全員が息をのんだ。
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