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十一話 よろしく、マオウさん

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「じゃあ、さっさと魔王城へ行くぞ」

 魔族たちの希望が途絶えたのか。
 魔法障壁が崩れ始めた。

 その隙を見てドラはもう一度、飛行状態に戻る。
 そして翼をはためかせてまた、ものすごいスピードで魔王城へ直線で飛び始めた。

「そういえば何故、魔王様が来ないんでしょうか? これほど音がなれば魔王様が直々に来てもおかしくないでしょう?」

 そうゴブくんが聞くとドラは苦笑いをした。

「あの方は子供みたいな方だからな…………着いたぞ」

 魔王城の屋上。空を飛ぶ魔族のためだろう。
 開けた着陸場所のようなところにドラは降りた。
 俺たちを手に乗せ、地面に足をつけたのを確認したドラは人型の大きさに戻る。

「じゃあ行こうか。こっちだ」

 ドラは先頭きって歩き始めた。
 俺とゴブくんはちょこちょことその後ろをついていく。


 十分後――

「ギャアアア!」
「ウワアアアアァァァ!」
「シャアアアァァ!」

 断末魔が休むことなく聞こえてくる。
 俺はその原因であるドラを見ながらため息をつく。
 そして俺の気持ちを代弁するようにゴブくんが口を開ける。

「はぁ。ドラはどれだけ嫌われていたんですか」
「いやぁ。多分俺だと気づいて――」
「現実逃避はやめましょう。虚しくなるだけですよ」
「やめて? お願いだからこれ以上俺を傷つけないで?」

 見回りの魔族が出合い頭に本気で俺たちを攻撃してくるのだ。
 いや、訂正しよう。
 ドラめがけて攻撃してくるのだ。
 普通なら侵入者である俺たちのはずなのだが、俺たちはあっさりスルーされる。

「ドラのファンがまた来たよ」
「いや、それも意外と傷つくよ?」

 俺は通路の奥から叫びながら突進してくる魔族を見ながら言う。
 またか、とドラはつぶやきく。

「くそ龍人族ドラグニートがぁ! 死ねぇい!」
「もう! なんで⁉ 俺こんなに嫌われてなかったよね⁉」

 突撃してくる熊のような魔族をドラはぺしっと叩き、一撃で気絶させる。

「よいしょっと」

 ドラは気絶させた魔族を黒い霧みたいなの中に放り込む。
 これは【インベントリ】という魔法で進化した際に覚えたそうだ。
 ユニコーンの角とヴァッファローの角もここに入れさせてもらっている。

「そろそろ着くぞ」

 それは俺も分かっていた。
 ちょっとずつ何かオーラのようなものが強くなってきている。
 でも不愉快なものではない。別に心地よくもないが。

「…………行きたくない。帰りたい帰りたい」

 ゴブくんは少し身体を震えさせながらそう何度も何度も連呼する。
 ドラはだらしないな、とゴブくんの背中を軽く叩き、鼓舞しようとするが、流石にここまでの状態ではもう、鼓舞も意味がないだろう。

 外で待っておくか。と俺が提案したものの、従者が主だけ危険な目にあわせるわけにはいかない。と言って結局ついてくることになった。

「うわあぁ! でっかい扉だ!」

 今までこんな大きな扉は見たことがなかった。
 ましてや、俺が住んでいた家と同じ大きさぐらいかもしれない。

 ドラはその扉の前で止まり背中を向けたまま言う。

「俺もできるだけ手助けはするが、もし戦いになったら俺は瞬殺される。出だしが重要だから本当に慎重に――」
「えいッ!」

 目の前にあったボタンがどうしても押してみたかったので俺はボタンを押した。
 すると、

 ゴゴゴゴゴゴゴ!

 大きな扉が地響きを鳴らしながらゆっくりと開いた。
 そして、火がついていない灯に手前から火がつきはじめる。

「慎重にって言ったばっかりなのに…………」
「あーあ。もう僕はここで死んでしまうのか。神様。どうか来世はもっと平凡な暮らしをさせてく――」
「はいはい。行くよ」

 俺はドラとゴブくんの腕を引っ張りながら魔王の部屋であろう部屋の中へと入っていく。

 そして少し歩くと一人、ものすごいオーラをはなっている魔族が仁王立ちで待ち迎えていた。

「やっと来たか勇者! 我は『極悪の魔王』だ! さぁ決着を………………ん? 子供?」
「あなたがマオウさんですね! これからよろしくお願いします!」
「………ん? んんん!?」

 俺は魔王に深々と頭を下げながらそう言った。


 俺と魔王がこれから本当の親子同然になることをまだ誰も知らない
 
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