追放された【助言士】のギルド経営 不遇素質持ちに助言したら、化物だらけの最強ギルドになってました

柊彼方

文字の大きさ
上 下
122 / 123
20章 決戦前夜

262話 弱点

しおりを挟む
「はぁ、はぁ、はぁ」

 何度も血がローレンの頬を伝って滴る。
 何分耐えただろうか。何十分ヘルの攻撃を防いでいただろうか。
 自分の中の時計が曖昧になるほどまでローレンは消耗していた。
 それでも未だに彼は地に膝をつけていない。

「まだ立っていられるの? 人間じゃないわね」

 そんな不屈のローレンを見てヘルは眉をひそめる。
 今までヘルが殺してきた人間たちは誰もが攻撃が当たらないと知った時点で諦めた。表情を絶望に染め、生に縋ることを放棄したのだ。
 だからそれでも抵抗してくるローレンには久しぶりに高揚感を覚えた。
 しかし、その高揚感も徐々に終息を見せている。

「クソがっ!」
「うわっ、なに!? やけくそになってるの?」

 ローレンは地面に転がっているいくつもの瓦礫の破片を手でわしづかみ、ヘルめがけて投げつけた。
 ヘルは彼の奇行に驚きながら咄嗟に体をよじって避ける。

「はぁ、本当に死ぬ前の人間って醜いわよね。まぁ諦めるよりはましか」

 ヘルはローレンを見て憐れむように嘆息する。
 彼なら自分の好敵手になりうると思った。自分の全力をぶつけれる相手だと思った。
 しかし結局はこうして醜く生に縋っている。そんな現状にヘルはただただ呆れていたのだ。
 
 そんなヘルの言動に対して、ローレンは急に腹を抱えて笑い始めた。

「ふっふっふ……あっはっは!」
「……っ!? 急にどうしたの? そんな自信ありげな表情をして」
「お前の弱点が分かったからな。お前は確実に細かい攻撃には弱い!」

 ローレンの言葉にヘルは遅れて、あっ、と反応する。
 あの細かい瓦礫の目くらましのような攻撃。
 やけくそになったのでも奇行でもなく、ローレンの計算通りだったわけだ。
 今までローレンがヘルの攻撃を受け続けてきたのも、反撃が不可能だったからというのもあるが、本心はヘルをじっくり観察したかったからという点が一番大きい。

「ちっ、何してんのよ私……」

 上手く誘導されていた自分自身をヘルは叱責する。
 だが、すぐにヘルは平常を装って口にした。

「それで? 分かったところで何になるの?」
「は?」
「だってローレンは物理攻撃だけしか使えないわよね。いくらその斧で私を切って叩いたところで私の【無効イニテット】に限界は来ない」

 ヘルの能力。それは【無効イニテット】と呼ばれるスキルによるものだった。
 これはヘルの主であるノワールによって付与されたスキルである。
 効果は単純明瞭で何かを無効化するというもの。
 その効果を自分自身に付与することで、自分が無効化が付与され、ほぼ無敵でいられるのだ。
 もちろんローレンの言う通り、無効化でいられる限界や制限もある。

「事前に情報が筒抜けになっていた時点で、ローレンの負けは確定していたのよ」

 主であるノワールから既にヘルは自分が戦う男が巨躯な斧使いだと聞かされていた。
 だからこそ最初からあれほどの余裕でいられたのだ。
 そしてそれは今もなお変わらない。

 すると、ローレンがボソッと口にした。

「なぁ、一つ教えてくれよ」
「なに?」
「いつから俺が魔術を使えない・・・・・・・と思い込んでいた?」
「え?」

 ローレンは構えていた斧を背中にかけなおす。
 そしてその代わりに腰に差していた杖を構えた。

 巨躯の身体にはあまりにも似つかない子供用の小さな杖。
 だが、その杖にはローレンのいくつもの想いが込められている。

「【水の加護】」

 ローレンはいつものように、まず【水の加護】を行使した。
 効力は水の完全操作。水を使用することなら何でもできるというチートスキルである。
 そしてすぐにローレンはヘルめがけて魔術を放った。

「【ウォーターボール】!」

 魔術にしてはかなりゆっくりの速さで【ウォーターボール】がヘルに放たれる。
 たった一発の魔術。それも初級だ。
 ヘルが無効化しなくとも何のダメージも入らないだろう。

「ぷっ、なに初級魔術で粋がっちゃってるの?」 
「あぁ、俺には大将のように賢くもないし、あの方のように魔術も使えない。だが――」

 ロイドのように事前に策略を練り、計画通り行動も出来ない、
 エリスのように規格外な魔術を使えるわけでもない。
 だからこそ自分は戦闘で覚える。一度失敗したことは二度と繰り返さない。

「【細分化・超加速】!」
「っ!?」

 放たれていた【ウォーターボール】は急に空中で数百に小さく分裂した。
 その大きさはローレンからギリギリ目に見える程度。小指の一関節分ぐらいだろうか。
 そしてそれらは急に加速し、ヘルめがけて集中砲火を食らわせる。

「うぐっ!」

 四方から細分化された【ウォーターボール】がヘルの身体を一気に貫いた。
 一つ一つは攻撃は針のように小さい。大したダメージにはならないだろう。
 けれど、その数は百を超える。致命傷にはならずともヘルに危機感を持たせることは出来る。

「あ? 無敵じゃなかったのか?」
「ちっ、小賢しい真似を……」

 ヘルは体中を押さえ、ローレンを睨みながら唸る。
 魔人の再生の能力によって空いていた穴も既に塞がりかけていた。
 だが、そんな魔人の身体に一瞬でも百を超える穴が開いたのも事実。
 先ほどまであったヘルの余裕は既になくなっていた。

 ローレンは背後に数百もの細分化した【ウォーターボール】を待機させながら、不敵に笑った。

「俺は脳筋だが、もともと器用でな。小手先の技には自信があるんだ」
しおりを挟む
感想 625

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が死んで満足ですか?

マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。 ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。 全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。 書籍化にともない本編を引き下げいたしました

【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~

柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」  テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。  この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。  誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。  しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。  その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。  だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。 「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」 「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」  これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語 2月28日HOTランキング9位! 3月1日HOTランキング6位! 本当にありがとうございます!

冤罪だと誰も信じてくれず追い詰められた僕、濡れ衣が明るみになったけど今更仲直りなんてできない

一本橋
恋愛
女子の体操着を盗んだという身に覚えのない罪を着せられ、僕は皆の信頼を失った。 クラスメイトからは日常的に罵倒を浴びせられ、向けられるのは蔑みの目。 さらに、信じていた初恋だった女友達でさえ僕を見限った。 両親からは拒絶され、姉からもいないものと扱われる日々。 ……だが、転機は訪れる。冤罪だった事が明かになったのだ。 それを機に、今まで僕を蔑ろに扱った人達から次々と謝罪の声が。 皆は僕と関係を戻したいみたいだけど、今更仲直りなんてできない。 ※小説家になろう、カクヨムと同時に投稿しています。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました

kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」 王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。

私に姉など居ませんが?

山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」 「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」 「ありがとう」 私は婚約者スティーブと結婚破棄した。 書類にサインをし、慰謝料も請求した。 「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

側妃は捨てられましたので

なか
恋愛
「この国に側妃など要らないのではないか?」 現王、ランドルフが呟いた言葉。 周囲の人間は内心に怒りを抱きつつ、聞き耳を立てる。 ランドルフは、彼のために人生を捧げて王妃となったクリスティーナ妃を側妃に変え。 別の女性を正妃として迎え入れた。 裏切りに近い行為は彼女の心を確かに傷付け、癒えてもいない内に廃妃にすると宣言したのだ。 あまりの横暴、人道を無視した非道な行い。 だが、彼を止める事は誰にも出来ず。 廃妃となった事実を知らされたクリスティーナは、涙で瞳を潤ませながら「分かりました」とだけ答えた。 王妃として教育を受けて、側妃にされ 廃妃となった彼女。 その半生をランドルフのために捧げ、彼のために献身した事実さえも軽んじられる。 実の両親さえ……彼女を慰めてくれずに『捨てられた女性に価値はない』と非難した。 それらの行為に……彼女の心が吹っ切れた。 屋敷を飛び出し、一人で生きていく事を選択した。 ただコソコソと身を隠すつまりはない。 私を軽んじて。 捨てた彼らに自身の価値を示すため。 捨てられたのは、どちらか……。 後悔するのはどちらかを示すために。

【完結】「異世界に召喚されたら聖女を名乗る女に冤罪をかけられ森に捨てられました。特殊スキルで育てたリンゴを食べて生き抜きます」

まほりろ
恋愛
※小説家になろう「異世界転生ジャンル」日間ランキング9位!2022/09/05 仕事からの帰り道、近所に住むセレブ女子大生と一緒に異世界に召喚された。 私たちを呼び出したのは中世ヨーロッパ風の世界に住むイケメン王子。 王子は美人女子大生に夢中になり彼女を本物の聖女と認定した。 冴えない見た目の私は、故郷で女子大生を脅迫していた冤罪をかけられ追放されてしまう。 本物の聖女は私だったのに……。この国が困ったことになっても助けてあげないんだから。 「Copyright(C)2022-九頭竜坂まほろん」 ※無断転載を禁止します。 ※朗読動画の無断配信も禁止します。 ※小説家になろう先行投稿。カクヨム、エブリスタにも投稿予定。 ※表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。