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1巻
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しおりを挟むプロローグ
『助言士』。それは僕が作り出した特別な職業。
ただ鑑定だけをする鑑定士とは異なり、鑑定結果に基づいて指導や教育を行う。
「最近はどうだい? 槍使いになって一週間経ったけど」
「それが物凄く調子がいいんです! 弓使いの時と比べ物にならないぐらい!」
僕の隣で、その青年、ブラムは嬉しそうに話す。
彼はもともと弓使いだった。それも、冒険者を始めてから五年間もずっと。
「本当にロイドさんは凄いですね! まさか僕に槍の才能があったなんて! 自分でも気づきませんでしたよ!」
そう、彼は弓よりも槍の方に才能があったのだ。
【鑑定】と【心眼】のスキルを持つ僕の眼には、それが明白に映っていた。
スキルを活用して相手の才能を見抜き、成長するための最適解を見出す。
それが僕の、助言士の仕事だ。
「ごめんね、今日は買い物に付き合わせちゃって」
「いえいえ、こんなことお安い御用です! これからもどんどん、こき使ってください!」
僕、ロイドは、冒険者ギルド『太陽の化身』で助言士をしながら、第一部隊と呼ばれる一団をとりまとめていた。今日は、隊員のブラムを連れて、鍛冶師ギルド『隻眼の工房』を訪れていた。
第一部隊の部隊長として、隊員たちには良い武器を使ってもらいたい。だからこうして彼らの武器を揃えに来たのだ。
「ブラム。これから『太陽の化身』はどうなると思う?」
「国内一のギルドになると思います! カイロスさんの頭脳とロイドさんの眼。お二人がいる限りこのギルドの快進撃が止まることは絶対にないです!」
カイロスというのは、『太陽の化身』のギルドマスターだ。
ブラムの言葉には不安や心配など一点もなくて、そんな彼の信頼が、僕の心をいつも突き動かしてくれる。
「そうか、なら僕も頑張らないとね」
「俺は一生ロイドさんについていきます! ロイドさんは『太陽の化身』に必要不可欠な存在ですから!」
ブラムは頬を緩めて言った。
彼や今の仲間となら、国内一のギルドになるという夢物語も実現出来るだろう。
そのために、僕は助言士として『太陽の化身』を導かなければならない。
「今日はこの装備を買って帰……ん?」
僕たちが装備を見ていると、近くを少女が横切る。
なぜか僕はその少女に引き付けられ、目で追いかけてしまった。
少女は艶やかな金髪に可愛らしい顔立ちをしている。鍛冶師ギルドではあまり見ない類の女性だった。
「あれは……」
彼女の瞳は光を失っていて。どこか虚ろな目をしていて。
生きる理由を見失っていると言えばいいだろうか。
その原因はなんとなく見当もつく。だって傍から見ただけでも彼女にはこの場は似合わないと分かるから。
「ブラム、この装備を一式、二十人分買っておいてくれるかい?」
「分かりました。ロイドさんはどこに?」
「少し気になった子がいてね。すぐ戻るから」
僕はそう言って彼女の後を追った。
服装から、この鍛冶師ギルドで下積みをしている新人だということが分かる。
僕は背後からこっそりと彼女を鑑定した。
「やっぱり、鍛冶師の才能なんて一ミリもない……」
鑑定結果にはそう明確に記されていた。それに、鍛冶に対する向上心がないことも。
僕は彼女を呼び止める。
「あの、ごめん? 一ついいかな?」
「わ、私ですか……?」
「うん、君に一つだけ聞きたいことがあるんだけど……」
助言士は、暗い未来が待ち受ける人でさえも、自らの言葉で明るい未来へと導ける。
たとえそれがおせっかいと言われようと、当の本人にとっては絶対に利益になることだから。
「【ウォーターボール】は好き?」
だから今日も、僕は助言をする――
一章 水姫
それから三年後。
「ロイド。お前はもう用済みだ」
「……え?」
唐突なカイロスの言葉に、僕は唖然としてしまった。
ここは冒険者ギルド『太陽の化身』。そのマスターであるカイロスの部屋だ。
金で作られた掛け時計に高級ソファ、大理石を敷き詰めた床など、この部屋にある物全てが一級品。どれも、そこらの冒険者では買えない高価な代物ばかりだ。
「目星をつけた人材はおおよそ確保した」
カイロスは冷たくそう続けた。
『太陽の化身』は僕とカイロスの二人で始めた小さなギルドだった。
今ではこのフェーリア王国、随一のギルドと謳われるほど勢力を拡大させている。
「お前のスキル【鑑定】は、このギルドにはもう必要ないのだよ」
カイロスは僕に蔑むような視線を送ってきた。用済み、必要ない……つまり出ていけということか。
このギルドが急激に成長出来たのは、僕のスキルを彼が上手く利用したから。
僕のスキルの一つ、【鑑定】はあらゆる能力値を鑑定出来るというものだった。
[名前] カイロス(30)
[肩書] 太陽の化身・ギルドマスター
[能力値] 体力 D/B 魔力 D/C 向上心 S/S
統率力 D/D 知力 A/A
[スキル] 上級剣技 B/B
[固有素質] なし
これが目の前にいる灰色の髪を持つ男、カイロスの鑑定結果である。能力値とスキルにある分母が能力の限界値、分子が現在の能力値を表している。
【鑑定】は呪文の詠唱や発動条件もないため、僕にとってはとても便利なスキルであった。
しかし、【鑑定】は戦闘には全く意味をなさないため、不遇スキルと称されることが多い。
別に今まで不遇であることを憎んだことはなかった。だけど、いきなり追放だなんて酷すぎる。
「僕の幹部の席はどうなるんだ?」
僕は今までこのギルドが躍進出来るように陰ながら支え続けてきた。
カイロスの命令通り、能力値の限界がオールB以上の冒険者を毎日探し続けた。
候補を全て勧誘し終えたら僕は用済み? 何の冗談を言ってるんだ。
「アレン君。入りたまえ」
「はっ! 失礼します!」
カイロスは顔色一つ変えず、一人の青年をこの部屋に呼び入れた。
銀色の目立つ短髪に整った顔立ち。すらっとした体つきながら筋肉質。いわゆるイケメンと称される部類の人間。
僕は二人にバレないようにこっそりと【鑑定】を使った。
[名前] アレン(21)
[肩書] 太陽の化身・B級冒険者 期待の新人冒険者
[能力値] 体力 B/S 魔力 B/S 向上心 B/A
統率力 B/A 知力 B/S
[スキル] 勇者の刃 B/S 勇者の指揮 D/A
[固有素質] なし
アレンは僕が一年前ほどに見つけてきた逸材である。もともとはオールCという平凡な能力値であったが、限界値が軒並みオールA以上という成長の可能性を見せていた。
僕の想像通り、実力とその顔立ちによって、このギルドの看板冒険者となるまでに成長し、現在は第二部隊の一員として活躍中だ。
「今日から幹部の席はアレン君に任せようと思う」
「ありがたき幸せ! これからも努力を怠らず精進します!」
「うむ。いい心がけだ」
二人は僕を放って勝手に会話を進め始めた。何がありがたき幸せだ。自分を見つけてくれた男が追放されているのに、そんな反応、よく出来るな。
「僕がいなければアレンだって――」
「ロイドさんがいなければ? 何を言ってるんですか?」
アレンは僕の言葉の意味が理解出来ていないようで、首をひねっていた。
そこに説明を付け加えるようにカイロスが口を開く。
「今更、幹部から退くのが嫌で言い訳をしているのだよ。本当に私たちを見習ってほしいものだ」
「俺はまだまだですけど、カイロス様は本当に素晴らしい方です! 埋もれていた俺を見つけてくれたんだから!」
アレンは心の底からカイロスに感謝を示すように言った。
その物言いでは、まるでカイロスが優秀な冒険者を見つけたようで……
「君を初めて見た時から何かを感じていたのだよ。これからも君はもっと成長する」
「本当ですか⁉ カイロス様に言ってもらえると安心出来ます!」
「は?」
僕は二人の会話に、ただ呆然としてしまった。
二人は何を言ってるんだ? もしかして僕の方がおかしいのか?
「いくらでも代わりがいる鑑定士ならこの所遇も分かる! でも僕は『助言士』だ! これからだって僕の力は必要になるはずだろ!」
僕は鑑定士ではない。助言士としてこのギルドで働いている。
助言士という職業は僕だけのオリジナルだ。僕のもう一つのスキルがあるから成り立つ職業である。それがどういうスキルなのかまでは教えていないが、カイロスだって僕が【鑑定】以上の力を持っていることに気づいていたはずだ。
それに、たとえ優秀な人材をあらかた見つけ終わっていたとしても、隊員たちに助言し、教育するという仕事が残っている。
今までだって僕は何人もの冒険者を育ててきた。才能を開花させてきた。
なのに、二人はとぼけるように口々に言う。
「助言士? そんな職業あったんですか?」
「ないぞ? こやつの妄想だ。ロイド、幹部だからといって、言って良いことと悪いことがあるのが、分からないのか?」
その瞬間、僕の中で何かがプツンと切れた気がした。
どれだけ努力しようが、どれだけ実績を残そうが、結局は非戦闘職。まともな評価など期待したのが間違いだったのかもしれない。
そう考えると、追放されるのではないかと焦っていた先ほどまでの自分が馬鹿らしく思えてきた。
そんな瞳から光を失った僕を見て、カイロスは優越感に浸っているんだろう。歪な笑みを浮かべながら一枚の紙を差し出してくる。
「親友のよしみだ。雑用でもいいなら雇ってやるぞ?」
カイロスの中で親友とはボロ雑巾のことなのだろう。それなら僕は彼にとって親友に当てはまるのかもしれない。
僕はカイロスを無視して二人に背中を向けた。
「もういい。さっさと出ていけばいいんだろ」
書類にはざっと目を通したが、完全な奴隷契約のような内容だった。
衣食住を提供する代わりに、報酬は全て彼のものになるようになっている。
戦闘職ではない助言士にとっては、良い待遇かもしれない。
ギルドから追放されてしまえば記録に残る。新しく仕事を見つけることは難しい。だったら残った方いい――一般的にはそうだ。
「なっ! ロイド! お前の今の状況、分かってるのか?」
僕が立ち去ろうとしたからか、カイロスからは先ほどまでの余裕がなくなり、少し焦ったような様子を見せる。
僕を幹部の座から引きずり下ろして、さらに雑用として奴隷のようにこき使いたかったのだろう。
だが僕には、そんな罠に易々とはまってやる義理もない。
僕は二人の方へと振り返った。
「今までお世話になりました」
「は? おい! ちょっと待っ――」
僕は心のこもっていない薄っぺらい言葉と共に頭を下げる。
そしてカイロスの言葉を最後まで聞くことなく、この腐りきった部屋を立ち去った。
これから何をすればいいのだろうか。何をするのが正解なのだろうか。
そんな不安を抱えながら僕はギルドを出た……いや、追放されたのだった。
†
「次の方どうぞ」
何の感情もこもっていない言葉、決められた定型文。作られた笑顔。
僕は鑑定士として、ただひたすらに冒険者たちを鑑定していく。
「そこに腰かけてください」
『太陽の化身』から追放されて、一週間ほどが経った。
最初は仕事に就けないのではないかと心配していたが、運良く、僕の【鑑定】はクラスがSと、異常なほどに高い。なので審査など全て飛ばして、初日から鑑定所で鑑定士の臨時アルバイトをさせてもらえることになった。
鑑定所には、一日に数十人ほど冒険者がやってくる。十人以上を鑑定するというノルマさえ達成していれば、給料は日払いでもらえるので、次の仕事までの繋ぎにはちょうど良かった。
「そのまま動かないでくださいね」
助言士の仕事はもちろん続けたかった。
でも聞いたこともないような職業をどこも募集しているわけもなく、雇ってくれるわけもなく。
だから僕はこうして、薄暗い小さな部屋で延々と鑑定し続けている。
「では、今から鑑定しますね」
僕は正面に座っている男性に【鑑定】を使用した。
すると男性の能力値などが、周囲の空間に文字となって表記され始める。
[名前] ロックス(35)
[肩書] 無所属・D級冒険者
[能力値] 体力 D/B 魔力 D/C 向上心 D/D
統率力 D/D 知力 C/B
[スキル] 諸刃の剣 D/C
[固有素質] なし
名前や年齢に続いて、肩書や能力値といったものが並ぶ。
肩書は所属ギルドとそこでの役職、二つ名などが表示される。
能力値はどの職業においても指標となる、『基本の五項目』と呼ばれる要素の成長具合を示した欄だ。体力・魔力・向上心・統率力・知力がその五項目に当たる。
鑑定の基準を表すなら、次のようになるだろう。
Eはダメダメ。Dが少し苦手。C、Bは普通。Aが優秀。Sは天才。そんな感じで分類される。
Sは千人に一人しか見ない逸材だ。そうお目にかかれるものではない。
スキルに関してだが、誰もが必ず一つはスキルを所持している。
僕の場合は【鑑定】。この男性の場合は、窮地に置かれるほど攻撃力が増す【諸刃の剣】であった。
中にはアレンのようにスキルを二つ持っている者もいる。それは先天性のものではなく、努力して手に入れたものだ。
何かをひたすら鍛えたり、集中して取り組んだりすることでスキルを獲得することがある。
「これがあなたの鑑定結果です」
「ありがとうございました」
鑑定結果を記した用紙を差し出すと、ロックスは礼儀良く、僕に礼をしてから部屋を去った。
あのような素直で優しそうなタイプは冒険者には珍しい。
大抵の場合は、成長していない自分の能力値を見て逆ギレするか、鑑定士の間違いだとクレームをつけてくる。それも鑑定士が不人気な職業である一つの原因だろう。
「はぁ……あの人もったいなかったなぁ……」
誰もいない部屋で一人小さく呟く。
僕には【鑑定】を進化させた【心眼】という能力がある。いわば、鑑定の上位互換のようなものだ。
【心眼】では相手の詳細な職業の情報と、彼らそれぞれが持つ特性を知ることが出来る。【鑑定】を誰よりも使い続けたため会得出来た、僕の二つ目のスキルだ。
そして、このスキルが僕を鑑定士ではなく――助言士とさせたものでもある。
[職業] 軽戦士
[個性] 忍耐 D/A 俊敏 E/E 腕力 D/B
これは【心眼】を使用して見たロックスの能力値。『職業』は肩書では見えなかった、より細かい役割のこと。それから『個性』というのが、彼らの持つ特性を示している。人によって、表示される内容が異なる欄だ。
これを見たら一目瞭然だ。ロックスが軽戦士に適性がないことは。
『俊敏』がこれ以上成長しないのに対して、『忍耐』と『腕力』は上位クラスまで成長出来る見込みがある。
鑑定士と助言士の決定的な違いは【心眼】の有無だ。
【心眼】を持っていることで、僕はその人物の資質まで見抜くことが可能になる、その人物が選ぶ職業の最適解を見出せる。要するに、鑑定結果に基づいて助言をすることが出来るのだ。
ちなみに、僕の他に【心眼】を持っている人がいるとは聞いたことがない。
カイロスは上り詰めるためには手段を選ばないところがあったから、万が一の悪用を恐れて、僕は【心眼】のことは教えなかった。
「重戦士になればいいのに……」
僕はそんな言葉を漏らすが、それがロックスに届くことはない。
今の僕は鑑定士であって助言士ではない。たとえその冒険者の進む先が暗闇であっても僕は関与出来ない。それが鑑定士という職業なのだから。
助言したいという感情を押し殺して、僕はひたすら鑑定をしていく。
「次の方どうぞ」
僕がそう言うと、新たに女性の冒険者が入ってきた。
彼女を正面の席に座らせようとするが、
「そこに腰かけて――」
僕の言葉は最後まで言い切られることはなかった。
「な、生ロイド様だ……!」
正面に立つ女性は、目を子供のように輝かせながら視線を送ってくる。
金色の長髪に、整った優しげな顔立ち。すらっとした体形に、大きく豊かな胸。
まるで理想の女性像そのものであった。ここまで美しい女性は初めて見たかもしれない。
「す、すみません。あなたは?」
何百、何千人もの人間を視てきたから分かる。彼女からは初対面のような雰囲気を全く感じない。
心を許していると言えばいいだろうか。どことなく安心しているように見えた。
だからこそ僕はさらに困惑する。
「私はエリスと申します。大きな声を出してしまってすみません。本当にロイド様に出会えたので興奮しちゃって……」
「えっと……エリスさんはどのようなご用件で?」
エリスが送ってくる視線は、まるで英雄に向けるようなそれに似ていて、ただ鑑定を受けに来た者の目ではなかった。
「まずは鑑定をしていただけないでしょうか? 用件はその鑑定結果を踏まえてからで」
エリスに関しては分からないことだらけだ。
なぜ僕のことを知っているのか、さらには「様」付けなどしたのか。
そして何をするために、この鑑定所に来たのか。
まぁエリスの言う通り、彼女を鑑定すれば何か分かるかもしれない。
「分かりました。そのまま動かないでくださいね」
僕はいつものように彼女に【鑑定】を使用した。
[名前] エリス(19)
[肩書] 無所属・D級冒険者
[能力値] 体力 C/A 魔力 S/D 向上心 E/E
統率力 D/B 知力 C/B
[スキル] 剣術の心得 E/D
[固有素質] ウォーターボール
「――は?」
魔力の能力値が限界を超えているように見えるのは、気のせいだろうか。
うん、気のせいだよな。ここ最近【鑑定】を使いすぎていたから、不具合が起きたのかもしれない。
「どうでした?」
エリスは心配そうに尋ねてくる。
「い、いや。すみません。もう一度鑑定させてください」
僕は混乱していた頭を一度落ち着かせてから、再びスキルを発動した。
[名前] エリス(19)
[肩書] 無所属・D級冒険者
[能力値] 体力 C/A 魔力 S/D 向上心 E/E
統率力 D/B 知力 C/B
[スキル] 剣術の心得 E/D
[固有素質] ウォーターボール
「うん、なんも変わらん」
彼女の魔力の限界値はDのはずなのに、能力値の方がSクラスを易々と超えている。さらには【ウォーターボール】という謎の固有素質……いや、どこかで見覚えがある気がするのだが、すぐには思い出せないな……
思い出すのは後にしよう。ともかく、固有素質の欄は大抵の場合、空欄である。固有素質持ちはSクラス並みに珍しいと言っても過言ではない。
ちなみに固有素質は【鑑定】の項目内にあるものの、【心眼】の取得以降に見えるようになった事項だ。【鑑定】だけで固有素質の有無が分かるので、頻繁に鑑定する僕としては助かる。
「どこかおかしなところでもありましたか?」
エリスは混乱している僕を見て申し訳なく感じているのか、しゅんとしていた。
「い、いや。なんでもない、かな?」
いや、正直問題だらけだ。問題しかない。渦巻く疑問を解決するために、【心眼】を使う。
先ほど空間上に映し出された文字を上書きするように、文字が並び始める。
流石に【心眼】までおかしくなっているなんてことは……
[職業] 魔術師
[個性] 俊敏 D/A 耐久 A/A 腕力 E/C
[隠れスキル] ウォーターボール S/S
「は、はあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ⁉」
僕はたまらず、エリスの鑑定結果に大声を上げてしまった。
彼女から見れば、勝手に驚いて騒いでる変人じゃないか。
「きゅ、急に大声を出してしまってすみません」
僕はエリスに向かって深々と頭を下げた。
そして、すぐに視線を目の前に表示されている鑑定結果に移す。
「……?」
エリスは僕の言動に、不思議そうにしていた。
「こ、これは……!」
今更だが、エリスという女性は何者なのだろうか。
魔力の能力値が、Dが限界のはずなのにSになっている時点で嫌な予感はしていた。
それに隠れスキルという今まで見たこともない鑑定項目。これは異常だ。
僕は苦笑を浮かべながら、つい彼女に妙なことを尋ねる。
「つかぬことをお聞きしますが……ここって現実ですか? 夢だったりします?」
「え? 夢だったんですか⁉ やっぱり! ロイド様とお話し出来るなんてあり得ないと思ってましたもん!」
「ん? んんん⁉」
あれ? 普通、そこは否定してくれるところじゃないんですかね?
エリスも自分の頬をつねって、現実か夢か確かめようとしていた。
「うっ、痛い……」
あ……赤くなった頬を涙目でさすっている。痛かったみたい。
やはり現実で間違いないようだ。信じがたい光景が広がっているため、現実逃避の一つもしたくなってしまう。
鑑定結果の話は置いておいて、一つずつ整理していこう。
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