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19章 原点回帰
249話 光
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「ロイド様! あなたはあなたです! こうして今、あなたを信じて、集まっている者たちは全て、助言士という職業を評価しているんじゃない! ロイド様自身を評価してるんですよ!」
閉ざしていた僕の心を無理矢理こじ開けるようにエリスは叫ぶ。
だが、沈み冷めきった僕の心はそう簡単に彼女の言葉を受け入れようとはしない。
「僕なんか……【鑑定】がなければ誰からも必要とされない人間だよ」
「私にはロイド様が必要ですよ。【鑑定】なんていりません。あなたという人間が必要なんです」
「僕は……自分じゃ何もできない……皆を守れる実力がない非力な人間だ」
「なら私がロイド様を守ります。私の力はロイド様を守るためにあるんですから」
「僕は……僕は自分が嫌いだよ。結局いつも自分のことしか考えてない」
「いいじゃないですか。私はひたすら真っすぐ突っ切るロイド様が好きです。私に手を差し伸べてくれたように、今度は私があなたに手を差し伸べたい。一緒に隣を歩いて未来へ進んでいきたい」
エリスは再び僕の手を強く握りしめる。
「これは世界一の助言士であるロイド様に贈る助言です」
彼女は下をうつむいていた僕に視線を合わせて微笑んだ。
「どうか私たちを頼ってください」
「――ッ!!」
どこかで聞いた言葉。誰かに言った気がするような言葉。
彼女の言葉は自分の中で何かストンと落ちた気がした。
「で、でも、これは僕の責任なんだ。エリスたちに迷惑をかけるわけには……」
「一人で考え込まないでください。ロイド様の問題は私たちの問題です」
どうして、そこまで慕ってくれるのだろうか。
どうして、そこまで手を差し伸べてくれるのだろうか。
「みんなで補い合えばどんな困難でも乗り越えられる。そう教えてくれたのはロイド様じゃないですか」
「そんな言葉はまがい物だよ……どう足掻いたって過去は変わらないんだ……!」
何をしたって無駄だ。
リーシアは二度と自分のもとへ帰ってこない。リーシアの苦しんだ八年間をなかったことにするのは絶対に不可能だ。
「そうですね。過去はどうしたって変わりません……でも『未来』なら変えられます」
この先の未来に何があるというのか。
僕の目標は、生き甲斐はもうない
もう何も僕には残っていない。未来にも希望を持てない。
「もう僕には――」
「今もリーシアさんは苦しんでいるんですよ?」
「――ッ!?」
エリスの言葉は深く沈んでいた僕を貫く。
そうだ。リーシアは今もノワールのもとにいる。
まだ戦いは終わっていなかった。こうしているうちにも彼女は苦しみ続けているのだ。
「ロイド様。本当ならあなたを慰めて、優しい言葉をかけてあげたい……! でも私は酷い女です。私はそんな言葉を言うつもりはありません」
「ど、どういう――」
意味が分からなかった。今までの言葉が優しくないとでも言いたいのだろうか。
彼女は僕の手を放すことなく、空気を冷たく張るように告げた。
「立ち上がってください」
「――――」
「前を向いていください」
「――――」
「落ち込んでいる暇があったら未来を見てください」
「――――」
エリスの言葉は確かに優しくない。ずっと前を向けとでも言っているようなものだ。
このような状況で落ち込むな? そんなの不可能に決まっている。
しかし、それを彼女は許してはくれない。
「自分自身が嫌い? なら、これから好きになればいいんです。ここからやり直せばいいんです」
エリスの言葉は貪欲で強欲で、無理にもほどがあった。
今すぐに否定したい。弱い自分をあらわにしたい。
だが、そんな僕さえもエリスは許さない。
僕はそんな彼女の言葉をどこかありがたく感じ始めていた。
「私たちはロイド様を支え続けます」
心が熱い。炎々と燃えている。
この感情は言葉には表せない。良いものか悪いものか判断することも出来なかった。
「誰も認めてくれないなら私たちが認めます。だから……」
全身が熱い。冷え固まって動かなかった脚はいつの間にか立ち上がれるようになっていた。
先ほどまで何もなかったはずの胸には今までで一番熱いものが満たしている。
エリスは瞳に涙を貯めながら、それでも無理に口角を釣り上げて告げたのだった。
「再び立ち上がってください! ギルド長!」
僕は何のために生きているのだろうか。
今ならその疑問にも答えられるかもしれない。
僕を信じて慕ってくれるエリスたちの期待に応えるため。
そのために二度と僕は下を向かない――――
「ありがとう――エリス」
閉ざしていた僕の心を無理矢理こじ開けるようにエリスは叫ぶ。
だが、沈み冷めきった僕の心はそう簡単に彼女の言葉を受け入れようとはしない。
「僕なんか……【鑑定】がなければ誰からも必要とされない人間だよ」
「私にはロイド様が必要ですよ。【鑑定】なんていりません。あなたという人間が必要なんです」
「僕は……自分じゃ何もできない……皆を守れる実力がない非力な人間だ」
「なら私がロイド様を守ります。私の力はロイド様を守るためにあるんですから」
「僕は……僕は自分が嫌いだよ。結局いつも自分のことしか考えてない」
「いいじゃないですか。私はひたすら真っすぐ突っ切るロイド様が好きです。私に手を差し伸べてくれたように、今度は私があなたに手を差し伸べたい。一緒に隣を歩いて未来へ進んでいきたい」
エリスは再び僕の手を強く握りしめる。
「これは世界一の助言士であるロイド様に贈る助言です」
彼女は下をうつむいていた僕に視線を合わせて微笑んだ。
「どうか私たちを頼ってください」
「――ッ!!」
どこかで聞いた言葉。誰かに言った気がするような言葉。
彼女の言葉は自分の中で何かストンと落ちた気がした。
「で、でも、これは僕の責任なんだ。エリスたちに迷惑をかけるわけには……」
「一人で考え込まないでください。ロイド様の問題は私たちの問題です」
どうして、そこまで慕ってくれるのだろうか。
どうして、そこまで手を差し伸べてくれるのだろうか。
「みんなで補い合えばどんな困難でも乗り越えられる。そう教えてくれたのはロイド様じゃないですか」
「そんな言葉はまがい物だよ……どう足掻いたって過去は変わらないんだ……!」
何をしたって無駄だ。
リーシアは二度と自分のもとへ帰ってこない。リーシアの苦しんだ八年間をなかったことにするのは絶対に不可能だ。
「そうですね。過去はどうしたって変わりません……でも『未来』なら変えられます」
この先の未来に何があるというのか。
僕の目標は、生き甲斐はもうない
もう何も僕には残っていない。未来にも希望を持てない。
「もう僕には――」
「今もリーシアさんは苦しんでいるんですよ?」
「――ッ!?」
エリスの言葉は深く沈んでいた僕を貫く。
そうだ。リーシアは今もノワールのもとにいる。
まだ戦いは終わっていなかった。こうしているうちにも彼女は苦しみ続けているのだ。
「ロイド様。本当ならあなたを慰めて、優しい言葉をかけてあげたい……! でも私は酷い女です。私はそんな言葉を言うつもりはありません」
「ど、どういう――」
意味が分からなかった。今までの言葉が優しくないとでも言いたいのだろうか。
彼女は僕の手を放すことなく、空気を冷たく張るように告げた。
「立ち上がってください」
「――――」
「前を向いていください」
「――――」
「落ち込んでいる暇があったら未来を見てください」
「――――」
エリスの言葉は確かに優しくない。ずっと前を向けとでも言っているようなものだ。
このような状況で落ち込むな? そんなの不可能に決まっている。
しかし、それを彼女は許してはくれない。
「自分自身が嫌い? なら、これから好きになればいいんです。ここからやり直せばいいんです」
エリスの言葉は貪欲で強欲で、無理にもほどがあった。
今すぐに否定したい。弱い自分をあらわにしたい。
だが、そんな僕さえもエリスは許さない。
僕はそんな彼女の言葉をどこかありがたく感じ始めていた。
「私たちはロイド様を支え続けます」
心が熱い。炎々と燃えている。
この感情は言葉には表せない。良いものか悪いものか判断することも出来なかった。
「誰も認めてくれないなら私たちが認めます。だから……」
全身が熱い。冷え固まって動かなかった脚はいつの間にか立ち上がれるようになっていた。
先ほどまで何もなかったはずの胸には今までで一番熱いものが満たしている。
エリスは瞳に涙を貯めながら、それでも無理に口角を釣り上げて告げたのだった。
「再び立ち上がってください! ギルド長!」
僕は何のために生きているのだろうか。
今ならその疑問にも答えられるかもしれない。
僕を信じて慕ってくれるエリスたちの期待に応えるため。
そのために二度と僕は下を向かない――――
「ありがとう――エリス」
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