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18章 成長3
236話 治癒者
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ロイドがノワールによって連れ去られた頃。
「嬢ちゃん。これがスラムの現状さ」
「こ、これは……」
ガジルによって見せられたスラムの現状に私は絶句する。
スラムと聞いていた時点で何となくは想像していた。しかし、この光景は私の考えを凌駕する。
もともと日本という何の危険もない土地でのびのびと生きてきた私には考えられなかったのだ。
(これじゃあ私が馬鹿みたい……)
スラム街の住人は、まともに風呂も入れない。飯も食えない。どうにか足掻いて明日を生きようとしていた。
私はどうだろう。私が悩みだと思っていたことなどすべてがちっぽけに思えてくる。
「今日は嬢ちゃんについててやる。一通り回復魔法をかけていくぞ」
「わ、分かりました」
私は捻挫などで病院に連れてもらっていた。
しかし、ここにいる者は病気でも病院に連れて行ってもらえない。骨が折れていても鎮静剤もないためただ安静にするしかない。
(私が……皆の役に立つんだ!)
私はそう心の中で覚悟を決め、先導してくれるガジルの後をついていった。
「お疲れさん」
「あ、ありがとうございます」
スラム街にある公園のような場所で、ベンチに座り込んでいた私にガジルは飲み物を投げ渡してくれる。
十時間ほど働いただろうか。魔力切れを一、二回起こしたが、思っていたよりは魔力があった。
そして、使えば使うほど自分と同化していくような感覚はとても心地よいものである。
「それにしてもすごいな嬢ちゃん」
「いえいえ、ただ私はガジルさんの言う通りに動いているだけですよ」
「いや、あれはロイド様クオリティだな。ほんと何であの方の下につく者はこう、化け物ばかりになるのやら」
ガジルは苦笑を浮かべながらも私を褒めようと言ってくれる。
今朝、私はただ血を止めること、内出血を抑えること、その程度の治癒魔法しか使えなかった。
しかし、今では折れた骨を修復するぐらいの力は身について来ている。
「ちなみに普通は魔法が成長することなんてないんだぞ」
「え? そうなんですか?」
「あぁ。普通は【高等回復】、【完全回復】って成長していくもんなんだ」
この世の魔法は詠唱が長くなるほど魔法の効力も上がっていく。
そのため、普通の魔術師は【ヒール】を覚えると次は【高等回復】を会得しようとするのだ。
どうやら私はそんな順序を吹っ飛ばして【ヒール】を成長させているらしい。
ロイドも一つを極めることはいいことだと言っていた。私はこれからもどんどん【ヒール】を使っていくつもりだ。
そんな会話をしていると一人の巨躯な男が私たちのもとに近づいてきた。
「ここにおられましたか」
「貴方はあの時の……」
私を探していたのだろうか。男は私を見つけてパッと表情を明るくする。
「先ほどはお世話になりました。動かなかった右腕が動くようになるなど思ってもいませんでした。再び息子を撫でられるなど夢のようです」
この男は腕の骨を折っていたにもかかわらず、処理せず放置してたため、腕が動かなくなっていたのだ。
そこを私の【ヒール】で治療したわけである。
私も最初は不可能だと思っていたのだが、彼の腕が動いているということは治療されているということだろう。
男は座っていた私に向かって深く頭を下げた。
「本当にありがとうございました。聖女様」
「……え? い、いや、私は聖女じゃなくてですね……」
男の言葉に私は急いで訂正するように言う。
今頃聖女であるアスカは何をしているのだろうか。ダンジョンに潜っているのかもしれない。
最初は活躍出来ていいなと思った。期待されていいなと彼女を嫉妬した。
しかし、今は違う。私もこうして誰かを笑顔にすることが出来る。。誰かの役に立つことが出来ている。そう思うだけで嫉妬や復讐の感情など消え失せていた。
「知っています。聖女の称号を持っている者はダンジョンにいると噂を耳にしました」
「ならなんで……」
「そんなこと決まっているじゃないですか。今日だけであなたは何人を治療しました? 百人はざっと超えてるはずです」
男は当たり前だとでも言いたげに私に告げた。
「称号なんて知ったことか。ミクさん。あなたは俺たちにとって光そのもの。それこそ聖女様と呼ぶに等しい存在なんですよ」
こうしてミクは徐々にスラム街を中心に絶大な人気を誇る。
もちろん、これはまだまだ序章に過ぎない。
『荒地の聖女』
世界中にそんな名が広まるのは近い未来の話だ。
***
ご報告。
まずここまで読んでくださった読者様に感謝を。
ロイドたちの物語にお付き合いくださりありがとうございます。
誤字や稚拙な文章も所々目立っていると思います。本当に申し訳ございません。それでもお付き合いしてくださる皆様には日々感謝しています。
そして、ご報告ですが、明日から更新頻度を二日一回としようと思います。
理由としてはいろいろ事情やタスクが増え、本作の更新に割く時間が取れなくなったためです。
本当に更新を楽しみにしていた皆様、本当に申し訳ございません。
これからは更新頻度を落としたため、質を高めていけたらなと思っています。
これからも「助言士」をよろしくお願いいたします。
「嬢ちゃん。これがスラムの現状さ」
「こ、これは……」
ガジルによって見せられたスラムの現状に私は絶句する。
スラムと聞いていた時点で何となくは想像していた。しかし、この光景は私の考えを凌駕する。
もともと日本という何の危険もない土地でのびのびと生きてきた私には考えられなかったのだ。
(これじゃあ私が馬鹿みたい……)
スラム街の住人は、まともに風呂も入れない。飯も食えない。どうにか足掻いて明日を生きようとしていた。
私はどうだろう。私が悩みだと思っていたことなどすべてがちっぽけに思えてくる。
「今日は嬢ちゃんについててやる。一通り回復魔法をかけていくぞ」
「わ、分かりました」
私は捻挫などで病院に連れてもらっていた。
しかし、ここにいる者は病気でも病院に連れて行ってもらえない。骨が折れていても鎮静剤もないためただ安静にするしかない。
(私が……皆の役に立つんだ!)
私はそう心の中で覚悟を決め、先導してくれるガジルの後をついていった。
「お疲れさん」
「あ、ありがとうございます」
スラム街にある公園のような場所で、ベンチに座り込んでいた私にガジルは飲み物を投げ渡してくれる。
十時間ほど働いただろうか。魔力切れを一、二回起こしたが、思っていたよりは魔力があった。
そして、使えば使うほど自分と同化していくような感覚はとても心地よいものである。
「それにしてもすごいな嬢ちゃん」
「いえいえ、ただ私はガジルさんの言う通りに動いているだけですよ」
「いや、あれはロイド様クオリティだな。ほんと何であの方の下につく者はこう、化け物ばかりになるのやら」
ガジルは苦笑を浮かべながらも私を褒めようと言ってくれる。
今朝、私はただ血を止めること、内出血を抑えること、その程度の治癒魔法しか使えなかった。
しかし、今では折れた骨を修復するぐらいの力は身について来ている。
「ちなみに普通は魔法が成長することなんてないんだぞ」
「え? そうなんですか?」
「あぁ。普通は【高等回復】、【完全回復】って成長していくもんなんだ」
この世の魔法は詠唱が長くなるほど魔法の効力も上がっていく。
そのため、普通の魔術師は【ヒール】を覚えると次は【高等回復】を会得しようとするのだ。
どうやら私はそんな順序を吹っ飛ばして【ヒール】を成長させているらしい。
ロイドも一つを極めることはいいことだと言っていた。私はこれからもどんどん【ヒール】を使っていくつもりだ。
そんな会話をしていると一人の巨躯な男が私たちのもとに近づいてきた。
「ここにおられましたか」
「貴方はあの時の……」
私を探していたのだろうか。男は私を見つけてパッと表情を明るくする。
「先ほどはお世話になりました。動かなかった右腕が動くようになるなど思ってもいませんでした。再び息子を撫でられるなど夢のようです」
この男は腕の骨を折っていたにもかかわらず、処理せず放置してたため、腕が動かなくなっていたのだ。
そこを私の【ヒール】で治療したわけである。
私も最初は不可能だと思っていたのだが、彼の腕が動いているということは治療されているということだろう。
男は座っていた私に向かって深く頭を下げた。
「本当にありがとうございました。聖女様」
「……え? い、いや、私は聖女じゃなくてですね……」
男の言葉に私は急いで訂正するように言う。
今頃聖女であるアスカは何をしているのだろうか。ダンジョンに潜っているのかもしれない。
最初は活躍出来ていいなと思った。期待されていいなと彼女を嫉妬した。
しかし、今は違う。私もこうして誰かを笑顔にすることが出来る。。誰かの役に立つことが出来ている。そう思うだけで嫉妬や復讐の感情など消え失せていた。
「知っています。聖女の称号を持っている者はダンジョンにいると噂を耳にしました」
「ならなんで……」
「そんなこと決まっているじゃないですか。今日だけであなたは何人を治療しました? 百人はざっと超えてるはずです」
男は当たり前だとでも言いたげに私に告げた。
「称号なんて知ったことか。ミクさん。あなたは俺たちにとって光そのもの。それこそ聖女様と呼ぶに等しい存在なんですよ」
こうしてミクは徐々にスラム街を中心に絶大な人気を誇る。
もちろん、これはまだまだ序章に過ぎない。
『荒地の聖女』
世界中にそんな名が広まるのは近い未来の話だ。
***
ご報告。
まずここまで読んでくださった読者様に感謝を。
ロイドたちの物語にお付き合いくださりありがとうございます。
誤字や稚拙な文章も所々目立っていると思います。本当に申し訳ございません。それでもお付き合いしてくださる皆様には日々感謝しています。
そして、ご報告ですが、明日から更新頻度を二日一回としようと思います。
理由としてはいろいろ事情やタスクが増え、本作の更新に割く時間が取れなくなったためです。
本当に更新を楽しみにしていた皆様、本当に申し訳ございません。
これからは更新頻度を落としたため、質を高めていけたらなと思っています。
これからも「助言士」をよろしくお願いいたします。
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