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間章 過去2

235話 覚悟

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 リーシアはロイドを起こさないように朝早く起き、教会へと向かった。

「おはようございます。神父様」
「あら、リーシアさんではありませんか。こんな朝早くにどういった御用で?」

 神父はにっこりと笑顔を浮かべてリーシアを部屋へと受け入れる。
 そんな彼の表情を見てリーシアはプルプルと拳を震わせた。

「……ください」
「ん? 聞こえなかったのでもう一度――」
「うちの兄を返してください!」

 リーシアは感情を爆発させるように吠えた。
 そんな彼女を見て神父は目を丸くするが、すぐにいつもの笑顔に戻す。

「言っている意味が分からないのですが。カイロスさんがどうかなされましたか?」
「とぼけないでください! 兄がここで働いているのは知っています!」

 カイロスの態度を不思議に思ったリーシアは数か月前から兄の行動を観察していた。
 そのため気がついたのだ。毎日カイロスはいつもの職場ではなく協会に向かっていることに。

「まぁまぁ、落ち着いてください。カイロスさんはこの職場で働いているのは事実です。しかし返してくださいとは? いつもカイロスさんは家に帰っているでしょう?」
「スキルは先天的な者と努力で得られるものがあるのはご存じですよね?」
「ええ。それが何か?」

 リーシアは分かっていながらもとぼけ続ける神父を見てふつふつと怒りの感情がわく。
 神父は彼女を舐め過ぎていたのだ。
 
 ――彼女の眼は神父よりも優れている

「なんでうちの兄が【改造】なんてスキルを身につけてるんですか!」
「…………」
「それにあなたもです!」

 通常の鑑定なら相手の能力値までしか見ることが出来ない。
 しかし、Bクラスを超えると話は変わってくる。
 Bクラスは相手のスキルを見れるようになり、Aクラスで相手の熟練度を知ることが出来る。

 そして、今の彼女の眼、Sクラスの【鑑定】は新たなユニークスキルを発現させる。

「神父なのに改造士? ふざけてるんですか!」
「いやはや、何の冗談を――」
「私の【心眼】でなら見えます! あなたたち、裏で実験してるでしょ!」

 彼女の前では何の偽装も意味を持たない。
 神父たちが行っていることは全て筒抜けだったのだ。

 すると神父の表情が一瞬で別人のように変わった。

「あっはっは! ばれてたのか! いや何でそんなに急成長してんだよ? それ、おかしいよな?」
「……ッ!」

 先ほどまでの優しい笑みから一瞬で歪な笑みに変わる様はリーシアを震えさせるほどだった。
 
「あぁそうさ! 俺たちは人体実験してるさ! それが何か?」
「そんなこと許されるはずがないでしょ!」
「だってカイロスが自分からやらせてくれって言ってるんだよ? 人って愚かだよな。金があれば何でもするんだから」

 神父はリーシアを見て嘲笑うように言う。

「そして、妹の君も愚かだ。君は剣も持ってきていない。通報もしてない……ってことは答えは一つだよなぁ?」

 もともと気づいていたリーシアなら国に通報することも可能だった。
 しかし、この場に衛兵が来ていないことが彼女が通報していないことの証明である。
 
「お前のスキルをあいつら二人に譲渡してくれ。そう頼みに来たんだろ!」

 神父はにんまりと笑みを浮かべながら尋ねた。
 そんな彼の問いにリーシアは顔を歪ませながらもゆっくりと首を縦に振る。

「……その通りです」
「やっぱりなぁ! 本当に人間のすることは愚かで見ていて面白いよ! 僕の予想通りに話が進み過ぎて面白くて仕方がないね」

 神父は彼女が金袋を持ってきている時点で何か勘づいていた。
 流石に彼女の【鑑定】がそこまで成長しているとは想像もしていなかったが、何か頼み事だろうなとは思っていたのだ。

「いいさ。やってやるよ。その代わりきっちり代償はもらうよ?」
「えぇ。私が持っている物であれば何でも」
「じゃあ命もらうわ~カイロスが出勤してくる前に済ませたいからさっさと終わらせるよ」

 冗談ともとれる言葉にリーシアは首を縦に振り、了承した。
 それほど彼女は覚悟をしてここに来ていたのだ。
 それもこれも全ては家族である二人の人生を明るくするため。

 【上級剣技】があればカイロスは力を得ることが出来る。ダンジョンで金を稼ぐことも容易であろう。
 ロイドのスキル【万能者】はすぐに限界が来る。賢いロイドであれば【鑑定】を上手く使いこなし、多くの者を導いてくれるだろう。

「二人には私はダンジョンで死んだといってもらえますか?」
「あっはっは! これじゃあ僕が狂ってるんじゃなくて君たちが狂ってるみたいだ!」

 神父は笑いながら彼女を地下へと案内する。
 そんな彼を追いながら彼女は、今ここにいない二人を想った。

(どうか、二人が笑っていられるような未来が訪れますように……)


 こうして彼らの人生は崩壊したのだった。
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