追放された【助言士】のギルド経営 不遇素質持ちに助言したら、化物だらけの最強ギルドになってました

柊彼方

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17章 始まり

228話 陰に住む者

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 時を遡ること約二時間。
 ロイドが食事を済ませ、ミクとともにスラム街へ向かおうと雲隠のギルドを出た後のことだ。

「姉さま。どこか違和感がありませんでした?」

 レイは食器を片付けながらセリーナに聞く。

 流石にロイドたちの前でレイがセリーナに様をつけるわけにはいかない。
 そのため、セリーナはレイに自分のことを姉さまと呼ばせているのだ。ロイドには上下関係のようなものだと伝えている。
 自分が言われたいという気持ちがセリーナにないわけでもないが。

「ロイド様のこと? そういえば、昨日から少し様子が変だったわね」

 既に雲隠の隊員たちはダンジョンへと向かった。この場には彼女たちしかいない。
 いつも礼儀正しく、マナーの見本とも思われるセリーナはソファにぐでーんと寝っ転がっていた。

「姉さま。私は今まで何百人もの人間を社会から追放しました」
「そうね。それがどうかしたの?」

 レイは今まで太陽の化身の邪魔となる者をこの国から抹消してきた。
 中には殺すギリギリまで追い詰めたこともある。
 しかし、彼女は殺しはしなかった。拷問も犯罪もしてきたが、殺人だけは絶対にしなかった。
 それは彼女の太陽の化身時代の役割が大きな理由である。

「私は追放した人間の情報をすべて覚えています。その結果、人間の行動基準や理由を少しぐらいは分かるようになりました」

 レイには相手の情報を盗むという役割もあった。
 彼女は相手の人生を知る必要があったのだ。
 結婚したばかりの者、愛する息子がいる者、理由があって罪を犯した者。
 これらを知った上で暗殺できる者など、どこにいるというのだろうか。レイも流石に暗殺の命令だけは従えなかった。
 しかし、任務を遂行しなければ信頼を失う。そこで彼女は今まで多くの者を国外追放させてきた。

「あんな目をした人間は大概何かしでかします。絶対に昨日何かあったんですよ」
「そりゃ何かあったのかもしれないわね。でもロイド様よ? 私たちが心配する必要なんてないと思うのだけれど」

 レイとは異なり、セリーナは特に大事ではないと思っているようだ。

「むぅ……」

 しかし、レイの意見は変わらないようでセリーナに熱い視線を送った。
 そんな彼女の根気に負けたセリーナは渋々首を縦に振る。

「はぁ……そこまで言うならロイド様の監視をしてきてもいいわよ」
「え、いいんですか!?」
「今日の仕事は私がしておくわ。といっても【陽炎】で分身体にやらすのだけれどね」

 レイはセリーナから許可が下りるとパッと表情を明るくした。
 そんな彼女を見てセリーナは苦笑を漏らす。

「レイもいつの間にかロイド様にぞっこんになってるわね」
「なっ!? そ、そんなことありません! た、ただ……」
「ただ?」

 セリーナにとってレイの心境の変化はとても微笑ましいものだった。
 最初はロイドそのものを否定して入っていたにもかかわらず、今ではこうして彼を心配するほどだ。

 レイは少し顔を赤くしながら口にする。

「カイロスのように驕りもしないし、誰にでも手を差し伸べる優しさを持っている。私はそんなロイド様の人柄を好いているんです」
「ほら、やっぱり好きじゃない」
「そ、そ、そういうのじゃないんですって! 彼にはエリス様がいますし……でも、私は覚悟を決めました」

 レイはロイドと接することで、セリーナの教育を受けることで考え方が変わった。
 ロイドは気づいていないだろう。だが、ここにも彼のおかげで正しい道を進めるようになった者がいる。

 彼女は笑みを浮かべ、心に固く誓うように告げた。

「私たちの分までロイド様には輝いていてほしいんです。だから私はずっとロイドの影であり続けます」

 レイは赤くなった表情を隠すようにせっせと準備をして、ロイドの後を追った。




 ギルドに一人残ったセリーナはにんまりと笑みを浮かべてボソッと呟く。

「それを人はプロポーズって言うのだれけどね~」

 暗部という闇で生き続け、人の心を失いかけていた彼女が、ここまで人間らしくなったのだ。
 今の彼女を誰も暗殺者を生業にしていたなどと思わないだろう。
 そんな彼女の成長を見て、セリーナは師として嬉しく、しかし、どこか嫉妬するように言った。

「でも、私もそっち側に戻りたかったわ……」
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