86 / 123
17章 始まり
228話 陰に住む者
しおりを挟む
時を遡ること約二時間。
ロイドが食事を済ませ、ミクとともにスラム街へ向かおうと雲隠のギルドを出た後のことだ。
「姉さま。どこか違和感がありませんでした?」
レイは食器を片付けながらセリーナに聞く。
流石にロイドたちの前でレイがセリーナに様をつけるわけにはいかない。
そのため、セリーナはレイに自分のことを姉さまと呼ばせているのだ。ロイドには上下関係のようなものだと伝えている。
自分が言われたいという気持ちがセリーナにないわけでもないが。
「ロイド様のこと? そういえば、昨日から少し様子が変だったわね」
既に雲隠の隊員たちはダンジョンへと向かった。この場には彼女たちしかいない。
いつも礼儀正しく、マナーの見本とも思われるセリーナはソファにぐでーんと寝っ転がっていた。
「姉さま。私は今まで何百人もの人間を社会から追放しました」
「そうね。それがどうかしたの?」
レイは今まで太陽の化身の邪魔となる者をこの国から抹消してきた。
中には殺すギリギリまで追い詰めたこともある。
しかし、彼女は殺しはしなかった。拷問も犯罪もしてきたが、殺人だけは絶対にしなかった。
それは彼女の太陽の化身時代の役割が大きな理由である。
「私は追放した人間の情報をすべて覚えています。その結果、人間の行動基準や理由を少しぐらいは分かるようになりました」
レイには相手の情報を盗むという役割もあった。
彼女は相手の人生を知る必要があったのだ。
結婚したばかりの者、愛する息子がいる者、理由があって罪を犯した者。
これらを知った上で暗殺できる者など、どこにいるというのだろうか。レイも流石に暗殺の命令だけは従えなかった。
しかし、任務を遂行しなければ信頼を失う。そこで彼女は今まで多くの者を国外追放させてきた。
「あんな目をした人間は大概何かしでかします。絶対に昨日何かあったんですよ」
「そりゃ何かあったのかもしれないわね。でもロイド様よ? 私たちが心配する必要なんてないと思うのだけれど」
レイとは異なり、セリーナは特に大事ではないと思っているようだ。
「むぅ……」
しかし、レイの意見は変わらないようでセリーナに熱い視線を送った。
そんな彼女の根気に負けたセリーナは渋々首を縦に振る。
「はぁ……そこまで言うならロイド様の監視をしてきてもいいわよ」
「え、いいんですか!?」
「今日の仕事は私がしておくわ。といっても【陽炎】で分身体にやらすのだけれどね」
レイはセリーナから許可が下りるとパッと表情を明るくした。
そんな彼女を見てセリーナは苦笑を漏らす。
「レイもいつの間にかロイド様にぞっこんになってるわね」
「なっ!? そ、そんなことありません! た、ただ……」
「ただ?」
セリーナにとってレイの心境の変化はとても微笑ましいものだった。
最初はロイドそのものを否定して入っていたにもかかわらず、今ではこうして彼を心配するほどだ。
レイは少し顔を赤くしながら口にする。
「カイロスのように驕りもしないし、誰にでも手を差し伸べる優しさを持っている。私はそんなロイド様の人柄を好いているんです」
「ほら、やっぱり好きじゃない」
「そ、そ、そういうのじゃないんですって! 彼にはエリス様がいますし……でも、私は覚悟を決めました」
レイはロイドと接することで、セリーナの教育を受けることで考え方が変わった。
ロイドは気づいていないだろう。だが、ここにも彼のおかげで正しい道を進めるようになった者がいる。
彼女は笑みを浮かべ、心に固く誓うように告げた。
「私たちの分までロイド様には輝いていてほしいんです。だから私はずっと光の影であり続けます」
レイは赤くなった表情を隠すようにせっせと準備をして、ロイドの後を追った。
ギルドに一人残ったセリーナはにんまりと笑みを浮かべてボソッと呟く。
「それを人はプロポーズって言うのだれけどね~」
暗部という闇で生き続け、人の心を失いかけていた彼女が、ここまで人間らしくなったのだ。
今の彼女を誰も暗殺者を生業にしていたなどと思わないだろう。
そんな彼女の成長を見て、セリーナは師として嬉しく、しかし、どこか嫉妬するように言った。
「でも、私もそっち側に戻りたかったわ……」
ロイドが食事を済ませ、ミクとともにスラム街へ向かおうと雲隠のギルドを出た後のことだ。
「姉さま。どこか違和感がありませんでした?」
レイは食器を片付けながらセリーナに聞く。
流石にロイドたちの前でレイがセリーナに様をつけるわけにはいかない。
そのため、セリーナはレイに自分のことを姉さまと呼ばせているのだ。ロイドには上下関係のようなものだと伝えている。
自分が言われたいという気持ちがセリーナにないわけでもないが。
「ロイド様のこと? そういえば、昨日から少し様子が変だったわね」
既に雲隠の隊員たちはダンジョンへと向かった。この場には彼女たちしかいない。
いつも礼儀正しく、マナーの見本とも思われるセリーナはソファにぐでーんと寝っ転がっていた。
「姉さま。私は今まで何百人もの人間を社会から追放しました」
「そうね。それがどうかしたの?」
レイは今まで太陽の化身の邪魔となる者をこの国から抹消してきた。
中には殺すギリギリまで追い詰めたこともある。
しかし、彼女は殺しはしなかった。拷問も犯罪もしてきたが、殺人だけは絶対にしなかった。
それは彼女の太陽の化身時代の役割が大きな理由である。
「私は追放した人間の情報をすべて覚えています。その結果、人間の行動基準や理由を少しぐらいは分かるようになりました」
レイには相手の情報を盗むという役割もあった。
彼女は相手の人生を知る必要があったのだ。
結婚したばかりの者、愛する息子がいる者、理由があって罪を犯した者。
これらを知った上で暗殺できる者など、どこにいるというのだろうか。レイも流石に暗殺の命令だけは従えなかった。
しかし、任務を遂行しなければ信頼を失う。そこで彼女は今まで多くの者を国外追放させてきた。
「あんな目をした人間は大概何かしでかします。絶対に昨日何かあったんですよ」
「そりゃ何かあったのかもしれないわね。でもロイド様よ? 私たちが心配する必要なんてないと思うのだけれど」
レイとは異なり、セリーナは特に大事ではないと思っているようだ。
「むぅ……」
しかし、レイの意見は変わらないようでセリーナに熱い視線を送った。
そんな彼女の根気に負けたセリーナは渋々首を縦に振る。
「はぁ……そこまで言うならロイド様の監視をしてきてもいいわよ」
「え、いいんですか!?」
「今日の仕事は私がしておくわ。といっても【陽炎】で分身体にやらすのだけれどね」
レイはセリーナから許可が下りるとパッと表情を明るくした。
そんな彼女を見てセリーナは苦笑を漏らす。
「レイもいつの間にかロイド様にぞっこんになってるわね」
「なっ!? そ、そんなことありません! た、ただ……」
「ただ?」
セリーナにとってレイの心境の変化はとても微笑ましいものだった。
最初はロイドそのものを否定して入っていたにもかかわらず、今ではこうして彼を心配するほどだ。
レイは少し顔を赤くしながら口にする。
「カイロスのように驕りもしないし、誰にでも手を差し伸べる優しさを持っている。私はそんなロイド様の人柄を好いているんです」
「ほら、やっぱり好きじゃない」
「そ、そ、そういうのじゃないんですって! 彼にはエリス様がいますし……でも、私は覚悟を決めました」
レイはロイドと接することで、セリーナの教育を受けることで考え方が変わった。
ロイドは気づいていないだろう。だが、ここにも彼のおかげで正しい道を進めるようになった者がいる。
彼女は笑みを浮かべ、心に固く誓うように告げた。
「私たちの分までロイド様には輝いていてほしいんです。だから私はずっと光の影であり続けます」
レイは赤くなった表情を隠すようにせっせと準備をして、ロイドの後を追った。
ギルドに一人残ったセリーナはにんまりと笑みを浮かべてボソッと呟く。
「それを人はプロポーズって言うのだれけどね~」
暗部という闇で生き続け、人の心を失いかけていた彼女が、ここまで人間らしくなったのだ。
今の彼女を誰も暗殺者を生業にしていたなどと思わないだろう。
そんな彼女の成長を見て、セリーナは師として嬉しく、しかし、どこか嫉妬するように言った。
「でも、私もそっち側に戻りたかったわ……」
21
お気に入りに追加
8,493
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

婚約破棄された令嬢が記憶を消され、それを望んだ王子は後悔することになりました
kieiku
恋愛
「では、記憶消去の魔法を執行します」
王子に婚約破棄された公爵令嬢は、王子妃教育の知識を消し去るため、10歳以降の記憶を奪われることになった。そして記憶を失い、退行した令嬢の言葉が王子を後悔に突き落とす。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました

愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
【完結】魔物をテイムしたので忌み子と呼ばれ一族から追放された最弱テイマー~今頃、お前の力が必要だと言われても魔王の息子になったのでもう遅い~
柊彼方
ファンタジー
「一族から出ていけ!」「お前は忌み子だ! 俺たちの子じゃない!」
テイマーのエリート一族に生まれた俺は一族の中で最弱だった。
この一族は十二歳になると獣と契約を交わさないといけない。
誰にも期待されていなかった俺は自分で獣を見つけて契約を交わすことに成功した。
しかし、一族のみんなに見せるとそれは『獣』ではなく『魔物』だった。
その瞬間俺は全ての関係を失い、一族、そして村から追放され、野原に捨てられてしまう。
だが、急な展開過ぎて追いつけなくなった俺は最初は夢だと思って行動することに。
「やっと来たか勇者! …………ん、子供?」
「貴方がマオウさんですね! これからお世話になります!」
これは魔物、魔族、そして魔王と一緒に暮らし、いずれ世界最強のテイマー、冒険者として名をとどろかせる俺の物語
2月28日HOTランキング9位!
3月1日HOTランキング6位!
本当にありがとうございます!

私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」

家の全仕事を請け負っていた私ですが「無能はいらない!」と追放されました。
水垣するめ
恋愛
主人公のミア・スコットは幼い頃から家の仕事をさせられていた。
兄と妹が優秀すぎたため、ミアは「無能」とレッテルが貼られていた。
しかし幼い頃から仕事を行ってきたミアは仕事の腕が鍛えられ、とても優秀になっていた。
それは公爵家の仕事を一人で回せるくらいに。
だが最初からミアを見下している両親や兄と妹はそれには気づかない。
そしてある日、とうとうミアを家から追い出してしまう。
自由になったミアは人生を謳歌し始める。
それと対象的に、ミアを追放したスコット家は仕事が回らなくなり没落していく……。
見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる
グリゴリ
ファンタジー
『旧タイトル』万能者、Sランクパーティーを追放されて、職業が進化したので、新たな仲間と共に無双する。
『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる』【書籍化決定!!】書籍版とWEB版では設定が少し異なっていますがどちらも楽しめる作品となっています。どうぞ書籍版とWEB版どちらもよろしくお願いします。
2023年7月18日『見捨てられた万能者は、やがてどん底から成り上がる2』発売しました。
主人公のクロードは、勇者パーティー候補のSランクパーティー『銀狼の牙』を器用貧乏な職業の万能者で弱く役に立たないという理由で、追放されてしまう。しかしその後、クロードの職業である万能者が進化して、強くなった。そして、新たな仲間や従魔と無双の旅を始める。クロードと仲間達は、様々な問題や苦難を乗り越えて、英雄へと成り上がって行く。※2021年12月25日HOTランキング1位、2021年12月26日ハイファンタジーランキング1位頂きました。お読み頂き有難う御座います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。