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間章 過去
224話 深い眠り
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ロイドの意識は深く、より深く落ちていく。
知らずのうちに閉じ込めていた奥底の記憶まで深く……深く…………
「……イド…………ロイド。もう朝だよ~」
沈んでいた意識を叩き起こすように明るい女性の声が響く。
しかし、僕の本能はそんな声を拒絶した。
「ん……まだ寝たい…………」
「だめ~今日は色々予定があるでしょ~」
睡眠欲が三大欲求ともいわれることだけはある。
昨日までウキウキして眠れなかったにもかかわらず、今では寝る方を優先してしまっているではないか。
昨日さっさと寝ておけばよかった。まぁ今後悔したところでこの欲求が満たされるわけではない。
「あとちょっと……だけ……」
僕は再び意識を沈めようとする。
しかし、今度は許さまいと彼女は物理的に僕の意識を叩き起こそうとする。
「ダメに決まってるでしょぉ!」
「うげっ!」
彼女は僕に覆いかぶさるように飛び乗る。
たとえ軽い女性の体とはいえ、僕は十二歳。五つも年上の女性に飛び乗られたらかなりの痛みが走る。その痛覚は僕の眠気を覚ますには十分だった。
「あら? 美少女が寝込みを襲ってあげてるというのになぜそんな嫌そうな表情をするのかしら?」
僕の腹の上に乗っている彼女はにんまりと笑みを浮かべながら尋ねてくる。
実際彼女は美女に属される女性だ。僕もドキリとしないといえば嘘になる。
しかし、少女ともなれば別の話だ。
「姉ちゃんはもう少女に属す年じゃ――」
「そんなこと言う可愛い弟ちゃんにはお仕置きしちゃうゾ?」
「ぐはっ!」
彼女は満面の笑みを浮かべながら僕の腹に鉄拳を突き刺す。
さて、どこの美少女が鉄拳を繰り出すというのだろうか。僕はそんな美少女知らない。
「おっほん。朝からイチャイチャしないでもらいたいものだ」
そんな僕たちのやり取りを苦笑を浮かべながら男は言った。
「あ、兄さん。もう準備したの?」
「ロイド。実はね。今日を一番楽しみにしてるのはカイロス兄ちゃんなのよ? 恥ずかしいから面には出してないだけで」
「なっ!? リーシア! ロイドの前でなんてことを!」
彼女の言葉を聞き、一瞬で兄さんの表情は真っ赤に染まる。
「兄ちゃんもそろそろロイドにかっこつけるのは止めたら? ロイドが本気で兄ちゃんのこと尊敬しちゃうよ」
「お、俺が尊敬されない人間みたいに言うな。これでも一家の大黒柱だぞ?」
兄さんはこの中で最年長の二十二歳。僕と姉ちゃんを守るために頑張ってくれているのだ。
明日が不安でないのはカイロス兄さんがいるからと言っても過言ではない。
「大丈夫だよ兄さん。尊敬してる人は誰って聞かれたら僕は絶対に兄さんを出すから!」
「ロイド……お前は本当に自慢の弟だ!」
「あはっ、止めてよ兄さん」
姉ちゃんに敷かれていた僕を兄さんは引きずり出し、持ち上げながら褒める。
赤ちゃん扱いされているようで、少し気恥ずかしさもあるが、尊敬している兄さんにそう言ってもらえるのは嬉しかった。
「私のロイドなんだけど。返してくれない?」
姉さんは獲物を取られた気分なのか、頬をむすっと膨らませて僕を兄さんから奪おうとする。
だが、兄さんも対抗するように僕を更に高く持ち上げた。
「いや、これは長男である俺のものだ。リーシアには渡さん」
「なんでよ! まだロイド成分補充できてないんだけど~」
僕に成分なんてあるのか。それを勝手に補充されていたとなると恐怖でしかない。
どうして神はこれほどまでに不公平なのだろうか。
こんな変態美女のどこに需要がある。せめて変態を止める努力をするならまだしも、リーシアの場合悪化しているような気がする。
僕は二人におずおずと告げた。
「二人とも。そろそろ準備しないと間に合わないんじゃ……」
「「そうだった!」」
二人はまるで口裏合わせをしていたかのように息ぴったりに言った。
今日は待ちに待ったスキル測定日である。絶対に遅れるわけにはいかないのだ。
二人は急いで身支度を始める。とは言ってもここはスラム街。
孤児であるため、特に持ち物もなければ飾り付けることも出来ない。
しかし、僕たちは誰一人とこんな状況を恨んだことも悲しんだこともなかった。
たとえ血が繋がっていなくとも僕たち三人は家族。二人がいればどんな壁でも乗り越えていける。
「こんな日が毎日続けばいいのに……」
二人には聞こえない声で小さく呟いた。
しかし、そんな平和な日常は永遠には続かない。それをすぐに僕は思い知らされるのだった。
知らずのうちに閉じ込めていた奥底の記憶まで深く……深く…………
「……イド…………ロイド。もう朝だよ~」
沈んでいた意識を叩き起こすように明るい女性の声が響く。
しかし、僕の本能はそんな声を拒絶した。
「ん……まだ寝たい…………」
「だめ~今日は色々予定があるでしょ~」
睡眠欲が三大欲求ともいわれることだけはある。
昨日までウキウキして眠れなかったにもかかわらず、今では寝る方を優先してしまっているではないか。
昨日さっさと寝ておけばよかった。まぁ今後悔したところでこの欲求が満たされるわけではない。
「あとちょっと……だけ……」
僕は再び意識を沈めようとする。
しかし、今度は許さまいと彼女は物理的に僕の意識を叩き起こそうとする。
「ダメに決まってるでしょぉ!」
「うげっ!」
彼女は僕に覆いかぶさるように飛び乗る。
たとえ軽い女性の体とはいえ、僕は十二歳。五つも年上の女性に飛び乗られたらかなりの痛みが走る。その痛覚は僕の眠気を覚ますには十分だった。
「あら? 美少女が寝込みを襲ってあげてるというのになぜそんな嫌そうな表情をするのかしら?」
僕の腹の上に乗っている彼女はにんまりと笑みを浮かべながら尋ねてくる。
実際彼女は美女に属される女性だ。僕もドキリとしないといえば嘘になる。
しかし、少女ともなれば別の話だ。
「姉ちゃんはもう少女に属す年じゃ――」
「そんなこと言う可愛い弟ちゃんにはお仕置きしちゃうゾ?」
「ぐはっ!」
彼女は満面の笑みを浮かべながら僕の腹に鉄拳を突き刺す。
さて、どこの美少女が鉄拳を繰り出すというのだろうか。僕はそんな美少女知らない。
「おっほん。朝からイチャイチャしないでもらいたいものだ」
そんな僕たちのやり取りを苦笑を浮かべながら男は言った。
「あ、兄さん。もう準備したの?」
「ロイド。実はね。今日を一番楽しみにしてるのはカイロス兄ちゃんなのよ? 恥ずかしいから面には出してないだけで」
「なっ!? リーシア! ロイドの前でなんてことを!」
彼女の言葉を聞き、一瞬で兄さんの表情は真っ赤に染まる。
「兄ちゃんもそろそろロイドにかっこつけるのは止めたら? ロイドが本気で兄ちゃんのこと尊敬しちゃうよ」
「お、俺が尊敬されない人間みたいに言うな。これでも一家の大黒柱だぞ?」
兄さんはこの中で最年長の二十二歳。僕と姉ちゃんを守るために頑張ってくれているのだ。
明日が不安でないのはカイロス兄さんがいるからと言っても過言ではない。
「大丈夫だよ兄さん。尊敬してる人は誰って聞かれたら僕は絶対に兄さんを出すから!」
「ロイド……お前は本当に自慢の弟だ!」
「あはっ、止めてよ兄さん」
姉ちゃんに敷かれていた僕を兄さんは引きずり出し、持ち上げながら褒める。
赤ちゃん扱いされているようで、少し気恥ずかしさもあるが、尊敬している兄さんにそう言ってもらえるのは嬉しかった。
「私のロイドなんだけど。返してくれない?」
姉さんは獲物を取られた気分なのか、頬をむすっと膨らませて僕を兄さんから奪おうとする。
だが、兄さんも対抗するように僕を更に高く持ち上げた。
「いや、これは長男である俺のものだ。リーシアには渡さん」
「なんでよ! まだロイド成分補充できてないんだけど~」
僕に成分なんてあるのか。それを勝手に補充されていたとなると恐怖でしかない。
どうして神はこれほどまでに不公平なのだろうか。
こんな変態美女のどこに需要がある。せめて変態を止める努力をするならまだしも、リーシアの場合悪化しているような気がする。
僕は二人におずおずと告げた。
「二人とも。そろそろ準備しないと間に合わないんじゃ……」
「「そうだった!」」
二人はまるで口裏合わせをしていたかのように息ぴったりに言った。
今日は待ちに待ったスキル測定日である。絶対に遅れるわけにはいかないのだ。
二人は急いで身支度を始める。とは言ってもここはスラム街。
孤児であるため、特に持ち物もなければ飾り付けることも出来ない。
しかし、僕たちは誰一人とこんな状況を恨んだことも悲しんだこともなかった。
たとえ血が繋がっていなくとも僕たち三人は家族。二人がいればどんな壁でも乗り越えていける。
「こんな日が毎日続けばいいのに……」
二人には聞こえない声で小さく呟いた。
しかし、そんな平和な日常は永遠には続かない。それをすぐに僕は思い知らされるのだった。
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