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16章 成長2

211話 妨害

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「では長距離走を始めます!」

 試験官の合図により十キロほどの持久走が始まった。
 受験生は各々自分のペースで走り始める。
 そのペースは明らかに遅めだ。
 攻撃者などとは違って弓使いはあまり走ることがない。ただ遠くからねらって撃つだけだ。
 そんな偏見が新人たちの成長過程を阻害する。

「今回も優秀な生徒は少ないな」

 試験官は受験生の様子を眺めながら口にした。
 弓使いだから体力はいらない? それは大いに間違っている。
 弓使いだからこそ体力がいるのだ。特に自衛する術が少ない弓使いだからこそ他の観点にも力を入れなければならない。
 その点を理解した者だけが上のクラスへと進めるわけだ。

「その中で使えそうなのは……レルベアとラクシアか」

 受験生の集団の中でも群を抜いていたのが二人である。
 レルベアについてはもともと試験官も目にかけていたが、ラクシアという男は名前すら聞いたことがなかった。
 今のところ弓術を除けば満点の結果である。

「まぁ次の試験の準備をして帰ってくるのを待つか」

 試験官は受験生たちの背中が見えなくなると、次の弓術試験の準備を始めたのだった。





 
「「はぁ、はぁ、はぁ」」

 ラクシアとレルベアの二人は先頭で小競り合っていた。
 二人とも呼吸は荒れ、姿勢も崩れかけ始めている。
 競い合うことになったため、想定より体力を使っているのだ。
 ラクシアは体力の限界が近いため無我夢中で走っていた。
 それはレルベアも同様であるが、彼にはラクシアにはない余裕がある。

(よし、誰も見てないな)

 レルベアがこのような無謀な走り方をした理由。それは誰からも自分の行動を見られないようにするためだ。
 そう、今から行う不正が誰にもバレないようにするためである。

「土の加護のもとに……【落とし穴《ホール》】」

 レルベアは隣にいるラクシアに聞こえないように小声で魔法を行使した。
 この魔法は知識と少しの練習でも出来るお遊びのような魔法である。よく子供たちが使う初級の下、いわゆる魔法とは言われない部類だ。
 そのため、魔法に特化していない弓使いでも使えるというわけである。

(あっはっは。これで俺の勝ちだ)

 所詮落とし穴。軽い妨害にしかならない魔法だ。
 だが、この限界状況ではその魔法はかなりの決定打になりうる。

「……えっ!?」

 ラクシアが走る延長線上に設置されていた魔法が、ラクシアが踏むことで発動した。
 抉られるように穴が開き見事にラクシアはその穴に落ちてしまう。

(あくまで俺は気づいてない)

 ネタ晴らしをする必要もないと考えたレルベアは気づいてないという設定で歩みを続ける。
 E級の昇級試験だ。わざわざ魔法の痕跡を調べたりもしないため、完全犯罪を可能としている状況である。

「よし! これで俺が一位だ!」

 レルベアの背後には人の気配など一切ない。完全に独走状態である。
 彼は最後にペースを落とし、余裕があるように見せかけて首位でゴールしたのだった。
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