追放された【助言士】のギルド経営 不遇素質持ちに助言したら、化物だらけの最強ギルドになってました

柊彼方

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15章 ミク

204話 不審者

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「絶対に私は謝らないんだから!」

 私、明日香は猛烈に怒っていた。
 私が気遣ってあげたにもかかわらず美玖にあのような態度を取られるとは思ってもいなかったのだ。
 だが、そんな感情の表面の裏には微細な優越感がある。
 もちろんそんな感情に自分で気づいてしまえば自分のことを嫌いになるだろう。気づかぬうちに私はそんな感情に蓋をかける。

「今日はさっさと帰ろう!」

 明日香は早歩きで自転車を押す。

(私は……なんてひどい女なんだろ)

 一人になってしまえば考えたくないことも考えてしまう。

 正直に言おう。私は美玖に憧れていたのだ。
 自分の意思を絶対に曲げない芯を持った私のヒーロー。
 美玖は忘れていたようだが、私がこうして皆から頼られるようになったのは美玖のおかげなのである。
 幼少期に美玖が私に手を差し伸べてくれたから。私の背中を押してくれたから今の私はここにいる。

 そんな彼女に私は恩返しをしたかった。だから先ほど少し攻めすぎたというのもある。
 その裏には私の憧憬に関わって上げれるのは私だけだと言う優越感もあったが。

「今回は美玖が悪いんだからね!」

 私はそう自分に言い聞かせながら田舎道をひたすら歩く。
 そんな時だ。

「ねぇ嬢ちゃん。少しお話ししないかい?」
「ッ!?」

 急に左肩に置かれた手とその野太い声に私は身震いした。
 ゆっくりと振り返るとそこには黒いフードをかぶったおじさんがいる。
 私は瞬時に理解した。

(不審者!? ど、どうしよ……)

 見た目と言葉で早急に判断するのはいかがなものかと私も思う。
 だが、そんな疑心暗鬼な私の感情は次の言葉で確定する。

「ほんの少しだけでいいからさ。おじさんとあっちでお話しないかい?」
「す、すみません。私これから用事があって……」

 出来るだけか弱い部分をみせまいと私はおじさんに頭を下げて自転車にまたがる。
 流石に自転車を漕ぎ始めればおじさんもついてこないだろう。
 そんな私の確証のない安心は一瞬でかき消される。

「ちょっと、なんで逃げるの?」
「ひっ!?」

 私は強い衝撃とともに自転車から転げ落ちてしまう。どうやら裾を掴まれたようだ。
 顔を上げるとそこにはにんまりと笑みを浮かべたおじさんの表情が広がっていた。
 
 ――恐怖

 圧倒的な恐怖が私を襲う。四肢が言うことを聞かず、脳は恐怖一色で埋め尽くされる。
 
「ねぇ、なんで逃げるの? お話しするだけだろう?」
「ち、近寄らないで!」
「拒絶するの? なんで? なんで!」

 私が近づこうとしてくるおじさんの手を振り払うとおじさんの表情は憤怒に染められた。
 首根っこに手をかけられ、私は無理矢理立たされる。
 女など男の前では非力だ。どうあがこうと拘束から逃れることが出来そうにない。

(怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い)

 涙を流す私を押さえつけているおじさんはにんまりと笑みを浮かべた。
 苦しんでいる姿を見るのが好きなのだろうか。私が涙をこぼすたびに更に口角は上がっていく。

「こういう全てが上手くいっているような奴が一番嫌いなんだよなぁ!」
「うぐっ!」

 おじさんは私の首の拘束を更に締め付け、至近距離で叫んだ。
 その男の視線はどこか私ではない誰かを見据えているように見える。八つ当たりのようなものかもしれない。

(あ、私死ぬんだ……)

 私は朦朧とする意識のなか、そう悟った。
 視界は徐々に暗闇に包まれ意識は手の中からこぼれる寸前である。
 あと数十秒もすれば意識を失い、私の体はこの男に玩具として弄ばれるだろう。
 それならいっそ死んだほうがましである。

(最後ぐらい美玖と仲良く話したかった……)

 最後にそんな事を考えた私の意識は、手の中から零れ落ちようとした。
 しかし、そんな状況を打破するように、人影が勢いよく左側から現れる。

「わ、私の友達に何してるのよ!」
「ぐはっ!」
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