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13章 緑山VS碧海

194話 融合魔法2

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「【水式秘術アクアベルク】! 三式! 【水之殲滅斧アクアブレイカ】!」

 ローレンはにんまりと笑みを浮かべて咆哮するように告げる。
 彼が肩に担いでいた斧を媒体とし、水の加護によって百倍以上の大きさへと変貌した。
 水で出来た巨大な斧。このステージを埋め尽さんとするほどの大きさだ。

 観客たちはその異次元な光景に目を見開いて驚愕する。

「な、なんだあの巨大なやつは!?」
「でかすぎだろ!? あんなのどうやって防ぐんだよ!」
「これがローレンの【水式秘術アクアベルク】……こんなのまともに食らえば木っ端微塵だぞ!」

 まるで夢かと考えてしまうほどの大きさ。それこそ絵に描くような光景である。
 こんな技を構えられれば誰もが戦意をなくしてしまうだろう。この先にあるのは『死』のみである。
 だが、そんな状況でも笑っていられる例外がこの場に一人だけいた。

「ふっふっふ……」

 ミントはこの状況、この立場、この展開。全て上手くいく流れに歪な笑みを浮かべる。
 
(ロイドはこの状況を予想してたってわけね)

 ロイドと出会う前のミントであればここで棄権していた。
 【水式秘術アクアベルク】に対抗する魔法など物理的に人間では行使できないためである。
 だが、人間を辞め、化け物になったミントでは話が違う。

(ここで私が【水式秘術アクアベルク】を破壊する。これこそがロイドの視た光景ね)

 ロイドならミントの他の能力値を向上させることも出来ただろう。それが助言士アドバイザーとしてすべき指導である。
 しかし、彼は普通の指導を行わなかった。当たり前の指導を行わなかった。
 彼が彼女に与えたのは窮地から逆転するための『反逆の刃』である。

「双方術式展開! 【岩の加速槍レールランサー】! 【拡大ラージ】!」

 ミントは甲高く自分の魔術を誇示するように叫んだ。
 彼女の左右には何重にも重ねられた巨大な二つの術式が展開される。

 ローレンの【水之殲滅斧アクアブレイカ】に見惚れていた観客たちの視線はすぐにミントへと集中した。

「おい……おいおいおい!? 術式展開はオルタナしか使えなかったんじゃねぇのかよ!?」
「そのはずだ! ってか双方術式展開!? なんだそれ!」
「しかもあの【岩の加速槍レールランサー】って魔法……オリジナル魔法じゃないか!?」

 観客たちの驚愕の波は収まりをみせない。
 術式展開はオルタナしか使えない技術である。それをミントは先ほどの戦闘を見ただけで覚えたのだ。
 術式を行使すると巨大な魔法を一瞬で使えるという効果がある。
 詠唱を必要としない彼女には必要ないと思うかもしれないが、それは大いに間違っている。

(ローレン。あなたのミスは私が近接戦闘をした理由を知ろうとしなかったことよ)

 術式を簡単に言うのであれば作り置き。 
 ミントは近接戦闘を行っている時に【岩の槍ロックランサー】と【風の波動ウインドウェーブ】の術式を完成させ、同時並列思考で【岩の加速槍レールランサー】を作り上げていたのだ。
 彼女はそんな融合魔法にさらに魔法を融合させようとしているわけだ。

「むぐぅ……出来た!」

 今回は術式を作り時間をかけていたため、高度な技術でも融合させることが出きた。
 実際、術式には思考を必要としないため、融合させるということだけに三つの思考を使えるのだ。

(次から術式使お)

 こうしてミントは着実と化け物の階段を上っていくが彼女自身、気づくことはない。

「融合術式展開! 【巨大岩の加速槍ラジレールランサー】!」

 ミントは融合させた術式を展開させて巨大な魔法を顕現させた。
 このステージを埋め尽くさんとする巨大な岩の槍と制御された暴風。
 そんな【水之殲滅斧アクアブレイカ】並みの魔法を見て観客たちはただただ驚きをあらわにする。

「おいおいおい!? なんだあの魔法!」
「魔法が合体したぞ!? しかもあの大きさ! 【水之殲滅斧アクアブレイカ】と同じぐらいだ!」
「魔法が融合なんてありえないはずだ! なんでこんなことが……」
「これが本物のA級……こんなのやばすぎだろ!」

 観客たちは怪獣の頂上決戦を見ているような気分で二人の試合を見ていた。
 そして、その頂上決戦はすぐに幕を閉じる。

 二人は全力を出しきるように咆哮した。

「打ち砕けえええええええぇぇぇぇぇ!」
「貫ぬけええええええええぇぇぇぇぇ!」
 
 ローレンは巨大な斧をミントめがけて振り下ろし、ミントは巨大な槍をローレンめがけて放つ。
 双方の魔法は巨大な爆発音をたてて衝突したのだった。


****
補足説明
 ・詠唱は魔法を行使するために必要な作業。詠唱破棄や短縮を持っている例外も存在する。
 ・術式展開は脳内で全て詠唱なしに作り上げる高度な技術。その分、無詠唱のようにすぐに使え、行使時に思考をする必要がないため、魔法の行使時と同時に別の行動もとれる。
 ・今回のミントに関してはまず近接戦闘中に【岩の槍ロックランサー】と【風の波動ウインドウェーブ】の術式を作り置きする。そして、作り終えて思考に余裕ができると、余った二つの思考で融合させて【岩の加速槍レールランサー】の術式を作る。
 ・融合魔法の術式となると二つ以上の思考を必要とする。融合魔法の融合魔法となると三つにもなる。
 ・【岩の加速槍レールランサー】の術式と【拡大ラージ】の術式を展開させて、三つの思考を全部融合に使うことで【巨大岩の加速槍ラジレールランサー】が完成する。
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