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13章 緑山VS碧海

191話 提案

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「ねぇローレン。私から提案があるのだけれど」
「ほ、ほう! ミントが交渉とは珍しい!」

 二人はステージの中心に立ち、視線を交差させた。
 本来であれば既に緑山の頂の勝利は確定している。だが、ミントがローレンをステージに呼び出したのだ。
 ローレンはいつものように明るく振舞っているが、拳はぴくぴくと震え、目頭は赤くなっている。
 彼も陰で苦しんだのだろう。自分が出る前に決着がついてしまったのだ。それも常識的にありえないようなやり方で。

 そんな彼の想いをミントは汲み取り、提案する。

「私たちも戦わない? もし私が負ければ碧海の白波の勝ちでいいよ」
「っ!? ミントが勝てばどうなる!」

 想像もしていなかった言葉にローレンは眉をピクリと動かした。
 このまま終わらせればノーリスクでミントはギルド順位三位の地位を獲得できる。しかし、彼女はその選択肢を捨てようとしているのだ。ローレンが驚くのも道理である。

「私たちが勝てば碧海の白波には……太陽の化身と縁を切ってもらおうかしら」
「なんだ、そんなことでいいのか?」
「そんな事って、碧海は太陽の化身とかなり親密な関係じゃなかった?」

 碧海の白波と太陽の化身の関係が密接であることは周知の事実だ。
 二位の妖精の花園の陥落。そんな目的の一致により深まった関係である。同盟までとは言えないが、それこそ合同攻略など行うほどには親密な関係なのだ。
 
「まぁな。その条件は俺たちにとってはかなり痛手だ。だが、俺もそろそろ最近の流行に乗らないとと思ってな」
「流行り?」

 いつも元気いっぱいなローレンとは異なり、冷静沈着な彼を見てミントは首を傾げる。
 彼は声を観客には聞こえない程度の声量でミントに言った。

「ロイドという男が巻き起こす流行りだ。俺の予想だが太陽の化身は二年以内に地に落ちる」
「へぇ。ローレン。あんた賢いキャラだったんだ。ギャップ萌え狙い?」

 ミントはロイドの実力が認められ、まるで自分のことのように嬉しく思う。
 そんな彼女を見て確信を得たローレンは彼女の手を強く握った。

「まぁそんなところだ! よし、その提案乗ったぞ!」
「ということで審判さん。三試合目もお願いね」

 こうして急遽、三回戦目が行われることになったのだった。










「で、では三試合目を開始します」

 武器の点検を終え、ミントとローレンは最初の所定位置につく。
 ローレンは大きな体格を生かし、ルース同様に水魔法を付与して斧を振り回す戦い方だ。
 魔術師のミントの相手としては力任せな戦い方をするローレンは一番厄介な相手である。
 だからこそ、どうしてもミントは戦いたかった。

(二人があれだけ活躍してるのよ? 二人の長である私が活躍できないなんて恥だもんね)

 彼女は誰よりも魔術をこよなく愛し、誰よりも負けず嫌いだ。
 
(ローレンには悪いけど、私たちには化け物助言士アドバイザーがいるの。そんな化け物の指導の賜物。見せつけてあげる)

 ミントは笑みを浮かべながらローレンを見る。
 彼女にとっては完全に不利な状況。そんな状況で笑うミントにローレンは寒気を覚えた。

 審判は自分にまで伝わる威圧感に震えながらも戦いの火蓋を切ったのだった。

「れ、レディ……ファイト!」
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