婚約破棄された第一王女～婚約者を奪ったくせに今頃、帰ってきてくれ？ ごめんなさい、魔王に溺愛されてるので難しそうです～

34話 別世界

「痛た……ここどこ？」

　私はしりもちをついてしまった尻をさすりながら辺りを見回す。
　どこかの王城であろうか？　それとも屋敷か。まるで私が住んでいた王城に酷似していた。
　装飾まで一級品で揃えられており、見たことのないような彫刻も施されている。

　すると、私を囲むように四つの影が集まってくる。

「「「「誰だ？」」」」
「……ッ！」

　私はとっさに防衛反応として飛び去ろうとするが、囲まれているため逃げ場がなかった。
　一瞬だ。先ほどまで誰もいなかったはずのこの場に四人は一瞬で私に近づいてきたのだ。　
　それだけでどれだけこの四人も化け物なのかがわかる。
　ここで反感を買うようなことをすれば、私は一瞬で首を撥ねられるだろう。脳が言わずとも理解していた。
　そのため、私は問われた通り名前を言うことにする。

「えっと……エリスです」

　四人の顔をぐるっと見回すと、予想通り全員に角と尾が生えていた。
　
「人間じゃね？　殺す？」
「いや、でも王城に転移してきたのよ？」
「そうじゃな。わしは放置がいいと思うぞ」
「俺もじじいに賛成！　どうせこの力じゃ何もできんだろ」

　左から好青年、私とより十代年上ぐらいに見える女性、おじいちゃん、筋肉が好きそうな体育会系、という風に並んでいた。
　全員、あのダンジョンであった青年よりは劣るものの膨大な魔力とオーラを放っていた。
　今にでも気を緩ませれば意識が飛びそうな状況である。

　しかし、そんな状況に一つの救いの手が差し伸べられる。

「ただいマンモス！」
「「「「お帰りなさいませ！」」」」

　先ほどの青年が【テレポート】で戻ってきたのだ。
　すると私をかこっていたはずの四人は一瞬であの青年のもとへ近づき、首を垂れた。

「それいっつも堅苦しいから止めてって言ってるよね？　ってか彼女に何かした？」

　面倒くさそうに青年は四人の頭を上げさせる。
　そして、少し怯え気味な私を見て苛立ちをあらわにした。
　そんな覇気に四人は少しだとたどしく答える

「「「「いえ……なにも」」」」

　どうやらこの青年の方が強面の四人よりも上下関係は上のようだ。　
　まぁそれは力量から見ても理解できる。

「そういえば東のダンジョンが攻略されたようですが… ……」
「うん。まぁあそこだけレベルはガタ落ちさせてたからね。流石に『地獄の門』が開かれることはないよ」

　青年は心配をしている男に呆気なく答えた。
　その答えに四人は安堵の息を漏らす。

「それでこの人間の女は誰ですの？」
「俺がさらってきた。王族の血を引いてるね」
「「「「……は？」」」」

　一同がその瞬間、素っ頓狂な声を上げた。
　そして、徐々に理解が追いつていてきたのか、喧騒を変えて青年に問い詰める。

「何してるんですか！　人間の王族をさらうなんて正気ですか!?」
「そうよ！　今頃人間界でどんな騒ぎになってることやら！」
「ハデスよ。流石にそれは遊びでは済まされんぞ？」
「いやぁ。王族を連れてくるとか半端ねぇな！」

　私はそんな会話を見てただただ呆然とすることしか出来なかった。
　すると、この中で唯一女性の方が、私のもとへ近づいてきて、

「私はサレーナ。エリス、あなたは本当に王族なの？」
「そ、そうよ。でも私は王族から追放されたの」

　もし、王族でなければ利用価値がなくなり、殺されるのだろうか。
　そんな考えも脳によぎったが私すぐにそんな考えを消す。
　私はエリスというただの平民で生きると決めたのだ。死ぬからと言って私の覚悟が揺らぐことはない。

　すると、ハデスと呼ばれた青年は腹を抱えながら笑う。

「あっはっは！　だから言っただろ！　面白そうな女だって」
「「「「言ってない！」」」」
「ん？　そうだっけ？」

　同時にツッコまれた青年はとぼけたようなふりをする。
　そして、地に座っている私に向かって手を差し伸べてきた。

「ようこそ！　魔界の地へ！　魔界の王としてお前を歓迎するよ」

　こうして私の第二の人生が始まろうとしていたのだった。