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4話 冒険者

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「ん? 朝?」

 窓から差し込む朝日によって私の沈んでいた意識は覚醒する。
 一人で起きるということに慣れない私にとってこのような朝は少し興奮を覚える。

 そもそも今まで宿に泊まるということ自体少なかった。
 今思えば王族とは籠で飼われている白鳥のようなものだ。
 潔白な状態で一生生き続ける。
 その代わり、外の景色を、自分の仲間たちを知ることなく孤独で生きていくということだ。

 私は自分の身を汚してでも多くのことを学んで、経験して、知っていきたい。
 そのために私が覚悟を決めて行動していかなければならないのだ。

「じゃあ行きましょうかね」

 私はゆっくりとベッドから立ち上がり、身支度を始めた。





「ここが冒険者ギルド……」

 私は目の前にそびえる冒険者ギルドを見て言葉を失ってしまう。
 父には冒険者ギルドなど平民が集まる汚らしく、臭い汚染場所だと聞いていた。

 しかし、どうだろうか。
 外見だけで判断するのも良くはないが、父の言葉は現実にかすってもいないではないか。
 もちろん、貴族の建築物と比べれば一目瞭然ではあるが汚染場所は言いすぎである。
 
 私は跳ねる心を落ち着けながら冒険者ギルドの門をくぐる。
 中に入ると早朝であるにもかかわらず、多くの屈強な男たちが視界に入った。
 今まで見てきた令息のようなひょろがりではなく、筋骨隆々としている。やはり冒険者と言ったところか。

 そして、その奥には制服を着た女性の方が何人も受付に座っていた。
 どの女性も綺麗に制服を着こなしており、仕事ができる女性を彷彿とさせる。

「あの、冒険者登録をしたいのですが」

 私はそのまま直線に進み、一人の受付嬢に声をかけた。
 受付嬢は私を見ると頭を軽く下げて挨拶をしてくる。

「おはようございます。冒険者登録ですね。まずは詳細をこの紙にご記入ください」

 そう口にしながら受付嬢は私に一枚の紙とペンを渡してくる。
 どうやらこの紙に個人情報や冒険者になる同期などを記すようだ。
 まぁ安全管理の面もある。全ての人を冒険者にするなど不可能なのだ。

 私は真実のままに自分の情報を書き入れた。
 ここで偽りの情報を書き、冒険者ギルドからの信用をなくす方が危険である。

 当然のように受付嬢はその紙面を見て驚愕をあらわにした。

「え、エリス・ヴァルキリー様!?」
「えぇ。でも今は平民なの?」
「はい?」

 到底理解できないと言いたげな表情で受付嬢は首を傾げた。

「まぁ色々あるってことよ。それより冒険者登録はできるのかしら?」
「平民となると……姓をなくせば登録できると思います」

 やはり受付嬢は容量がいい。
 特に私が説明していないにもかかわらず、私の考えを読むように理解してくれたようだ。

「えぇ。それで構わないわ」
「これからどうするおつもりですか? 正直に言いますと王女様に冒険業はお勧めできません」

 受付嬢は冒険者カードの手続きを片手間に行いながら私に聞いてくる。
 それは重々私も理解していた。
 冒険者ギルドに入った瞬間空気ががらりと変わる。それは私のようなぬくぬくと育ってきた貴族がいてはいけないような空間だった。

 受付嬢は冒険者を生かす仕事。
 わざわざ死ぬと思われるような人間を冒険者にはさせない。

 そのことを理解したうえで私は思う。
 このように誰にも負けない自信を持てる女性になりたいと。

「お願いします。私は本気なんです」

 私は今まで生きてきた中で初めて本心で頭を下げた。
 ここで変わらなければ私は終わりだ。

 何も変わらない。
 何も始められない。
 何もかも私のもとから離れていく。

 私はそんな人生は送りたくない。

「分かりました。顔を上げてください」
「良かったわぁ」

 私の覚悟が少しは伝わってくれたのだろうか。
 受付嬢は渋々首を縦振ったのだった。
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