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1話 婚約破棄
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いつものように私とマルクが王宮でお茶をしていた時のことだった。
「申し訳ございませんエリス様。婚約を破棄させていただきたく」
「……え?」
私はそんなマルクの告白に素っ頓狂な声を上げてしまう。
私の将来は安定しているはずだった。
女性なら誰もが羨む侯爵令息のマルクと婚約していたためだ。
性格も容姿も財力も全てが完璧。エルメス王国の第一王女の私だけなければ釣り合うはずもない男性である。
そんなマルクは今、私に何と言った?
「な、なんで急にそんな……」
急な展開に私はそんな言葉しか出せなかった。
王女が婚約破棄されるなど聞いたこともない。ありえていいはずがないのだ。
こんな話を父上の耳に入れてみろ。国中が騒ぎになること間違いなしである。
しかし、マルクはほんの少し眉を動かしてから口を開く。
「僕とエリス様では釣り合わないからです」
それは簡潔で分かりやすい理由だった。
釣り合わない。そう言われてしまえば何も言うことは出来ない。
私は第一王女だ。だが、それは肩書だけ。
完璧超人のマルクには私みたいな女性などでは不十分ということである。
「私は……」
こんな醜さこそ私がマルクと釣り合わないところかもしれない。
でも、私はそこで素直に諦められるほど行儀の良い女性ではないのだ。
「私は、私は、私は!」
私は下を俯いたまま何度も泣くように叫ぶ。
しかし、喉に何かが引っ掛かったように言葉が出なかった。
今言わなければならない。今行動しなければならない。
この私の心を渦巻く感情を伝えないといけない。
なのに、
「なんで言葉が出てくれないの……」
私は何かに縋るような声を出しながらその場に項垂れた。
そんな醜い私を見てマルクはたった一言だけ告げる。
「誠に申し訳ございませんでした」
「…………ッ!!」
その言葉によって私のダムは決壊してしまった。
それからは洪水のように私の頬を伝って流れていく。
「待って……待って…………マルク」
私は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった表情で手を伸ばす。
それは縋るように、本気で手放したくないものをつかみ取るように。
しかし、その手を取ってくれるものはこの場にはいなかった。
「失礼しました」
マルクはそう口にしてこの部屋から出ていった。
彼はどんな表情をしていたのだろうか。
彼はどんな気持ちで私に告げたのだろうか。
私はマルクの表情を見ることが出来なかった。いや、見たくなかった。
最後に上を向いたときには背中しか見えなかった。
「ううぅ……うええええぇぇぇぇぇん!」
私はまるで子供のように泣き叫ぶ。
それは全ての感情を吐き出すように、これまでの気持ちを跡形もなく消すように。
しかし、その感情は私の心にへばりつく。離れたくても離れてくれない。
「マルクぅ……」
私はもうこの場にも私の心の中にもいない彼の名前を口にする。
私はなんて未練がましいのだろう。
醜い女性は嫌われる、そう分かっているはずなのに。
私はこの日。公爵令息であるマルクに婚約破棄された。
そして、第一王女としての地位をなくしたのだった。
「申し訳ございませんエリス様。婚約を破棄させていただきたく」
「……え?」
私はそんなマルクの告白に素っ頓狂な声を上げてしまう。
私の将来は安定しているはずだった。
女性なら誰もが羨む侯爵令息のマルクと婚約していたためだ。
性格も容姿も財力も全てが完璧。エルメス王国の第一王女の私だけなければ釣り合うはずもない男性である。
そんなマルクは今、私に何と言った?
「な、なんで急にそんな……」
急な展開に私はそんな言葉しか出せなかった。
王女が婚約破棄されるなど聞いたこともない。ありえていいはずがないのだ。
こんな話を父上の耳に入れてみろ。国中が騒ぎになること間違いなしである。
しかし、マルクはほんの少し眉を動かしてから口を開く。
「僕とエリス様では釣り合わないからです」
それは簡潔で分かりやすい理由だった。
釣り合わない。そう言われてしまえば何も言うことは出来ない。
私は第一王女だ。だが、それは肩書だけ。
完璧超人のマルクには私みたいな女性などでは不十分ということである。
「私は……」
こんな醜さこそ私がマルクと釣り合わないところかもしれない。
でも、私はそこで素直に諦められるほど行儀の良い女性ではないのだ。
「私は、私は、私は!」
私は下を俯いたまま何度も泣くように叫ぶ。
しかし、喉に何かが引っ掛かったように言葉が出なかった。
今言わなければならない。今行動しなければならない。
この私の心を渦巻く感情を伝えないといけない。
なのに、
「なんで言葉が出てくれないの……」
私は何かに縋るような声を出しながらその場に項垂れた。
そんな醜い私を見てマルクはたった一言だけ告げる。
「誠に申し訳ございませんでした」
「…………ッ!!」
その言葉によって私のダムは決壊してしまった。
それからは洪水のように私の頬を伝って流れていく。
「待って……待って…………マルク」
私は涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった表情で手を伸ばす。
それは縋るように、本気で手放したくないものをつかみ取るように。
しかし、その手を取ってくれるものはこの場にはいなかった。
「失礼しました」
マルクはそう口にしてこの部屋から出ていった。
彼はどんな表情をしていたのだろうか。
彼はどんな気持ちで私に告げたのだろうか。
私はマルクの表情を見ることが出来なかった。いや、見たくなかった。
最後に上を向いたときには背中しか見えなかった。
「ううぅ……うええええぇぇぇぇぇん!」
私はまるで子供のように泣き叫ぶ。
それは全ての感情を吐き出すように、これまでの気持ちを跡形もなく消すように。
しかし、その感情は私の心にへばりつく。離れたくても離れてくれない。
「マルクぅ……」
私はもうこの場にも私の心の中にもいない彼の名前を口にする。
私はなんて未練がましいのだろう。
醜い女性は嫌われる、そう分かっているはずなのに。
私はこの日。公爵令息であるマルクに婚約破棄された。
そして、第一王女としての地位をなくしたのだった。
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