婚約さえ出来ない令嬢はストレス発散にこっそりダンジョンに潜ります~S級冒険者や第一王子が私に言い寄ってきてますが気のせいでしょう~

柊彼方

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一人目 つよつよ幼馴染

レイはキール

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「ごめんなさい。ちょっと状況が理解できないわ」
「…………そ、そうだよね」

 私の言葉にレイは少し動揺を隠せていない。
 私がすんなり了承するとでも思っていたのだろうか。そんな態度に私は苦笑いしか出来ない。
 そして、今起きている現状にも。

「ねぇ。なんでレイなのかしら?」
「…………ん? どういう意味かな?」

 私の意味深の言葉にレイは首を傾げた。
 それはそうだろう。私が気付いているなんてレイは知らないのだから。
 いや、レイと言うのは止めよう。これからは…………

 私はレイと同じように首を傾げて聞く。

「なんでキールとして気持ちを伝えてくれなかったの?」
「…………え?」

 キールは大きな口を開けてその場に固まった。

 私は時々天然と言われる時があった。正直言うと私もそんな自覚がある。
 意外と相手の意図を聞き取れなかったりすることが多々あるからだ。

 でも、流石にこの違和感には気づく。
 気づかなければ主失格だ。

「別にキールがレイであろうと私は何とも思わないわ。でも、なんでわざわざこんなことしたのかなって」

 レイを改めて見るまで忘れていた自分もそこまで言える立場ではない。
 だが、こうしてキールを見ると分かる。
 レイとキールが同一人物であるということに。

「き、キールって誰のことだい? ぼ、僕がレイだよ?」
「もういいわ。そんな余興。さっさと本題に入りましょう」
「……………………どこで気づいたんですか?」

 キールは私の目を見て諦めたのか、やれやれと言った表情で鬘をはいだ。
 赤い長髪からいつもの金色の短髪に戻る。
 そして、先ほどの馴れ馴れしい態度ではなく、いつもの敬語ありの話し方に戻った。

 私はそんなキールの愚問に簡単に答える。

「…………え? 普通ずっといれば気づくわよ」
「……………………」

 その瞬間、花畑に沈黙が流れる。
 だが、その均衡をぶち壊すようにキールが腹を抱えて笑い始めた。

「…………あっはっは! そうですか! そんな理由で気づかれたんですか!」
「そんなに可笑しかったかしら?」

 そこまで変なことを言っただろうか。別に私は変なことを言ったつもりはないのだけれど。
 しかし、キールは笑い続ける。感情が入り乱れるように激しく。

「あっはっはっはっはっは!」
「ちょ、キール!? どうしたの!?」

 そんな狂うように笑うキールからは大量の感情が読み取れる。
 憎悪、憤怒、怨念。そのような執念をどこに晴らすのか。そんなところだろう。

 私だって従者のことぐらい理解したい。
 それは私が隠し事をしている現実逃避のようなものかもしれない。
 
 だとしても、私はキールのことについて誰よりも知っているつもりだ。
 だから今のキールの感情も理解できる。 

「頑張ったね…………」
「…………え?」

 私は狂い笑っているキールを抱き寄せる。
 そんな私の言動にキールは笑いを止め、言葉をなくしていた。

 私がキールを苦労を理解出来るはずもない。理解できる。なんて言えばそれはキールを侮辱しているようなものだ。
 私だって過去に、そして今の状況に同情されたら腹も立つ。私の何を理解しているんだと。
 
 だから今はこんなことしか出来ない。
 それで少しでもキールが落ち着いてくれたらなと願いながら。

「え、エリス様? 何を――」
「いいのよ。今だけは泣いても」

 私はいつもと違って柔らかみのある声で囁く。

 底辺を味わい、何度も屈辱を味わってきた私だから言えることだ。
 私は脳筋だ。ストレス発散法だって自分で見つけている。

 しかし、キールは私と違って賢い。
 十年もかけて復讐しようと思う人間などそういない。
 だから、感情の行き場がなかった。一人で抱え込んで昔の私のように閉じこもってしまっていたのだ。

「今だけは執念なんて忘れなさい」
「…………う、うわああああああぁぁぁぁ!」

 そんな情けなく、しかしながら私にとっては嬉しい本当の感情をキールは出すように泣いたのだった。
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