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一人目 つよつよ幼馴染

ライバル

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「じゃあキール。そこに座ってくれるかい?」
「…………分かりました」
「ああ。敬語はいらないよ。今は『ライバル』として話をしよう」

 そんな歪な笑みを浮かべたマルクにキールは息をのむ。
 まさか公爵令嬢の従者である自分が王族などと話をするとは思ってもいなかった。これが今のキールの一番の感想だ。
 そして次に出てくる感想が…………

「じゃあ君の行動理由について弁明を聞こうかな?」

 今までの自分の行動がバレていることについてだ。

「何の話かよく分からないんですけど?」
「そうか…………ちなみにエリスを振った令息からが言質がとれているよ?」
「…………さすがは王族。手段がえげつないですね」
「そう? 君の方こそえげつないと思うけどな」

 キールとマルクはアハハと苦笑いをしながら顔を見合わせる。
 そこには侯爵と王族と言う立場の差ない。
 一人の少女を奪い合うライバルとしての対場であった。

「…………念のために聞くけど、マルク様はもちろん王族の方と結婚するよね?」

 話を逸らすためと、牽制程度にキールはマルクに聞く。

 大体キールもマルクの考え、行動理由は見抜けている。
 しかし、それではつじつまが合わない。

 王族が王族以外の人間と結婚したなどという事例は今まで一度もない。
 そのためキールは警戒していなかった。この第一王子という人間を。

「いやぁ? 別に俺は王族以外でも構わないさ。例えば…………公爵家の者とかね?」
「…………」
「そんな睨まないでくれよ。今までの君の手段が俺に効かないからってさ」

 マルクはキールの苛立ちを感じ取り、すかした表情で返した。

 昨日、マルクはキールのことについてベスに調べさせていた。
 あのエリスが、自分が惚れたエリスが十回以上も他の男にフラれるとは考えられなかったためだ。
 そして、案の定マルクの考えは当たっていた。

「キール。君は令息たちを脅しているだろう?」
「…………はぁ。その通りです」

 マルクなら全て裏付けられた証拠のもとに発言している。

(………今更誤魔化したって自分の立場をさらに悪化させるだけだ)

 キールはそう考え素直に答えた。

 実際、キールは今まで権力や財産でエリスが付き合っていた令息を黙らしてきた。断るような仕向けていた。

 マルクはキールが正直に答えると思っていなかったのか一瞬目を見開く。
 しかし、すぐに満足げな表情をした。

 キールはその優越感に浸っているような表情を見て舌打ちをする。

「…………ちっ。何ですか? 今度はマルク様が僕を脅すんですか?」
「いやいや、そんなことはしないよ」

 マルクはとぼけたような表情をする。
 そして、今度は歪な笑みを浮かべて宣言をする。


「今まで汚い手を使ってきた君には俺を倒せない…………俺は正々堂々君に勝つよ」


 ――宣戦布告
 キールがマルクの言葉を耳に入れた時に一番に浮かんだ言葉はそれだった。
 
 キールは今まで爵位で脅したり、何かばらされたくないことを探して脅迫したりなどエリスと付き合っていた令息たちを全て引きずり落としてきた。
 それは全て自分の願望をかなえるため。
 エリスと言う幼馴染と結ばれるため。

 正直、従者である自分と主であるエリスとでは結ばれることは難しい。
 だが、エリスが誰とも結ばれなかった場合は別だ。

 その場合、従者である自分とエリスの婚約を認める。これがキールとエリスの父であるカイロスとの契約である。
 
「…………はい。その宣戦布告、謹んでお受けしましょう」

 キールは貴族らしく正しい礼法で頭を下げた。

 キールはあの幼き誓いをどんな手を使ってでも果たす。
 それがキールの生存意義であり、エリスの隣にいる理由である。

「もちろん。どんな手を使ってでもあなたを引きずり落としますけどね」

 そして頭を上げたキールは今度は歪な笑みを浮かべてライバルとして答えた。

 こうして二人は一人の少女を狙うライバルとして認識し合う。
 一人の平民に抜け駆けをされているとも知らずに。
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