婚約さえ出来ない令嬢はストレス発散にこっそりダンジョンに潜ります~S級冒険者や第一王子が私に言い寄ってきてますが気のせいでしょう~

柊彼方

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三人目 王族

王族の力

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「エリス。何をすればいいの?」
「え、えっと…………まずは…………」

 私は急いで周りを見回して手助けを呼ぼうとする。
 だが、生徒たちはマルクにいい所を見せようと魔法の術式に集中していて誰の手も借りれそうにない。

「まずはこんなものかしら…………」

 相手は王族だ。恥なんてかかしてしまったらどうなることか分からない。
 私は自分の持っている魔法の中から最弱の魔法を選択する。

「水の加護のもとに…………」

 ここで魔法について説明しておこう。
 
 魔法とは魔力を術式に当てはめることで発動する不思議な力である。
 魔力は生まれた頃から限界量が決まっており、限界を超えたり成長などはしない。
 一日もすれば大抵は全回復する。気力のようなものと言ったら分かりやすいだろうか。

 術式は脳内で展開しなければならない。
 それに沿うように術者は詠唱をする。詠唱は一度噛んでしまえば効力を持たないので何度も練習を積み重ねなければならないのだ。

 ちなみに覚醒に伴い魔力量が増幅する、なんてことはなかった。
 魔力量も威力も覚醒前と同じである。
 やはり覚醒では基礎的な身体能力の向上とスキルの贈呈しかないようだ。 

「…………【水の玉ウォーターボール】」

 私は脳内で術式を完了させて魔法を行使させた。
 突き刺すように伸ばした右手から小さな水の玉が発生する。

 その水の玉は前方の壁に向かってゆっくりと進み、壁に衝突して破裂した。
 マルクは私の魔法を見て首をかしげて聞いてくる。

「…………ねぇ。これがエリスの一番の魔法?」
「…………い、一番ではないわ」

 正直、ここで一番と言ってしまえば気が楽だ。
 流石のマルクもこんな初級魔法よりは上のランクの魔法を使うことは出来るだろう。

 別に公爵家の中には魔法が苦手な人間はたくさんいる。
 貴族の中で魔法が使えないなど恥ずかしい事ではないのだ。

 だが、そこで頷いてしまえば私のプライドが失われる。
 初級魔法しか使えないなどと思われることを考えると恥ずかしさで死にそうになる。

「…………それはよかった! ならもっと上のレベルの魔法を見してよ!」
「それなら私ではない方が…………」

 私はそう口にして周りに視線を向ける。
 周りでは私の【水の玉ウォーターボール】の上のランク、中級魔法や上級魔法を使っている生徒が数人いた。
 貴族で上級魔法が使えるとなると将来、王宮魔導士を狙うことも可能なレベルだ。王族でも満足する魔法だろう。
 しかし、マルクは頬を膨らませて不満そうな表情をする。

「む~! エリスならあんな魔法より上の魔法を使えるでしょ? 俺はエリスの魔法が見たいんだよ」

 そのマルクの言葉に皆が自分の魔法を止めて私に視線を集めてくる。
 上級魔法の上? それは超級か究極になる。
 脳筋の私は鈍器投げは出来たとしても、そんな魔法など使えるはずがない。

「…………え? い、いやいや。私は中級魔法までしか使えないわ」

 周りの生徒たちも笑いを堪えるのに必死なようだ。
 超級魔法や究極魔法が存在するのは確かだ。だが、それは学生が使える範疇ではない。
 王宮魔導士でも腕や足など媒体を用いらないと行使できないほどなのだから。

 するとマルクは少し残念そうな表情をして腕を天井に突き上げる。

「そうなんだ…………これも出来ないの? 【水世界ウォーターワールド】!」
「「「…………は?」」」

 その言動に生徒たち、更には先生までも唖然とした様子を見せる。
 多くの者が未だに現状を出来ないままに、魔法は発動された。
 マルクの手中から【水の玉ウォーターボール】とは比べ物にならないほどの水が溢れ出る。
 それは徐々に勢いを増し、最後にはこの広い訓練場を埋め尽くすほどの水が発現した。

「「「……………………ッ!!」」」

 まるで私たちはもともと海に住んでいたのではないか。私たちはそんな錯覚をしてしまう。
 こんな魔法がありえていいのだろうか。三十秒も経たないうちにこの巨大な訓練場を埋め尽くすほどの水を発生さることが出来るなんて。
 水に埋め尽くされたこの訓練場では息が出来ないため、ジタバタとしている生徒が目に入る。これじゃあまるで殺人魔法ではないか。

「…………【解除】」

 マルクがそう口にした瞬間、一瞬で大量の水が訓練場から消え去った。
 まるでそこには水がなかったように思えるほど一瞬で。

「「「はぁ……はぁ……はぁ…………」」」

 酸欠になっている生徒たちは地に膝をつき、肩で呼吸をする。
 先生や私、冷静であった賢い生徒は風魔法で空気の膜を瞬時に張ったため余裕で立っていられる。
 しかし、もう少し解除が遅ければ魔法が苦手な生徒の中には死者が出ていただろう。

「はぁ…………こんなものなのか」

 マルクはそう口にしてつまらなそうな表情を浮かべた。
 皆がマルクを見てやっと理解した。これが王族なのだと。
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