追放された無能テイマーは【人間テイム】で無双する~新たな仲間たちをテイムしたら別人のように強くなりました〜

柊彼方

文字の大きさ
上 下
17 / 20
1章 少年編

17話 つよつよ王女

しおりを挟む
「なんだ、その化け物じみた身体能力は……?」

 目を見開いて尋ねるロイス。
 けれど身に覚えのないリリアは首を傾げた。

「え、何のことですか?」
「とぼけていいレベルじゃないだろう!? 私の反応が遅れるレベルの俊敏だよ!?」
「別にただ本気で走っただけなんですけど……?」

 余裕ぶっていたとはいえ、ロイスはレベル8。
 何があろうとレベル2のリリアに後れを取ることは決してない。
 なのにロイスが反応する前にリリアは彼まで距離を詰めていた。

「本気で走ってただけって……流石にそれは無理があるよ……」

 リリアが自分の成長に無自覚な理由。
 それにはちゃんとした理由があった。
 急激な身体能力の上昇による認識のズレ。
 脳が自身の身体に追いつけていないといった方が分かりやすいだろうか。

「正直に言うと、確かに体の動かし方や剣さばきは素人感は出ていた。けれど身体能力に関しては別だ。私が本気でリリアに相対してもギリギリ反応できるといったところだろう」
「え? それは流石に褒めすぎですよ~」

 ただ過剰に褒められているだけと思っているリリアは照れ気味に謙遜する。
 よくあるだろう。指導者が初心者にちょっと出来ただけで過剰に褒めて興味を持たせる手法。
 リリアはそれだと思っているのだ。

「…………」

 そんな彼女の様子にロイスは絶句することしか出来ない。

「でも、最近は特に身体は軽く感じるんですよ。フィル君のテイムのおかげですかね?」
「まぁそれ以外考えられないだろうね。けれど、これほどまで対象者を成長させれるものなのか……?」

 これではまるで神の所業じゃないか、と小さく呟きながらロイスは頭を抱える。
 レベル2の少女が身体能力だけではあるが、レベル8に追いついた。
 数字からも分かるようにそれは偉業とはもう呼べない。神の御業と言っても誰も否定しないだろう。

「リリア、試しにこの部屋の端から反対の壁まで走ってくれるか?」
「分かりました」

 この訓練場は何より広い。千名以上の剣士を収容出来ることを想定して作られている。
 端から端まで二百メートルはあるだろう。
 常人なら早くて二十五秒と言ったところか。

「では、いきますね!」

 そんな明るい掛け声とともに、リリアは地面を蹴って疾駆した。

(速く、速く、もっと速く……!)

 リリアは走りながら、速く走ることだけを強く念じる。

 自分を救ってくれたフィルを守れるような強さが欲しい。
 二度とあんな惨めな思いをしないための力が欲しい。
 フィルと肩を並べて、隣を歩くための力が欲しい。

 だからこそリリアはたとえただの訓練でも、いま自分が出せる全力を出す。

 その思いに応えるように、リリアの手の甲に刻まれた契約紋が淡い光を放った。

 すると徐々に足の回転数が上がり、一歩も大きくなっていく。
 そのまま弾丸が放たれたかのような速さにまで加速した。
 離れていたところで観察していたロイスにまで風が伝わるほどだ。
 
「……は?」

 傍観していたロイスは開いた口が塞がらない。
 どこの人間が弾丸のような速さで地面を走れるというのだろうか。

 当然、そんな速さで走れば、止まるためには長い距離を要する。
 壁にすぐそこまで迫っていたリリアにはそんな余裕はなかった。

「え、待って! 止まれな――」

 ドカンッ!

 リリアは勢いを殺すことが出来ず、そのまま轟音をたてて壁に衝突した。
 その後すぐにリリアのうめき声が響く。

「~~!! いったぁ~!」

 彼女は両手で額を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
 衝突した壁には大きな窪みが出来ており、その衝撃の大きさは明らかだ。
 けれど身体能力向上のおかげか、リリアは見たところ少し額が赤くなっている程度だった。
 
「嘘だろ、おい……」

 俊敏力はもちろん、続いて今度は耐久力の異常さも証明された。
 常人なら骨折は免れないほどの衝撃を、彼女は赤くなる程度済んでいるのだから。
 どれにおいてもレベル2の常軌を逸している。
 
「アハハ、私は夢でも見てるのか……?」

 驚きを通り越して、ロイスは呆れ気味に笑っていた。
 ここまで来れば驚くことすら憚られるのだろう。 
 ロイスは今まで何百人、何千人の剣士と戦い、剣術の至高にまで辿りついた。
 そんな彼でも、この王女の奇抜さは受け入れられなかった。

「あれ、なんで私あんなに速く走れたんだろう?」

 リリアもリリアで、ポカンと首を傾げている。
 走っている最中は無我夢中で走っていたため、その速さには気付いていなかった。
 彼女はじんじんと痛む額を押さえながらロイスの元まで戻る。

 すると、ロイスは口角をつり上げて歪な笑みを浮かべていた。
 まるで何かを企んでいるような表情だ。

「リリア。一ついいかい?」
「ど、どうしました? 速さが足りませんでしたかね?」
「い、いや。それに関して十分すぎるんだけど。別のことで一つね」
「別のこと?」
「リリアは『最強』という肩書に興味はあるかい?」
「え? まぁもちろんありますけど……」

 唐突に投げかけられた言葉に、リリアは動揺しながらも頷く。

「人生、四十五年、ただひたすらに剣術を極めて剣豪にまでなった私だが、一人だけ未だに勝てない者がいた」
「それって……」
「あぁ、人類最強と名高い『勇者』だ。彼だけには未だに勝てる気がしない」

 『勇者』。この世界で唯一、レベル9に至った天才。
 彼の力は一人で国家を転覆させられるほどと言われでおり、そのため勇者はどの国にも所属させないという法律が作られている。
 
 ロイスだが、アストラル流の頂点にたどり着いたと言っても、所詮は国の中だけの話。
 彼は数年前に勇者と対峙したが、結果は瞬殺。
 ましてや勇者に力を抜かれて相手をされるほどだった。

「おおよそ、私がこれからどれだけ稽古を積んだところで彼には敵わないだろう」
「そんなこと……」
「いや、分かるんだよ。彼を前にすれば何故か足がすくんでしまう。本能が勇者には勝てないと訴えかけているんだろうね。だから私は今まで彼だけは別格だと、人類では届かない存在だと決めつけていた」

 ロイスは震える手を押さえつけながら語る。
 その頃の記憶を思い出したのか、表情を苦渋に染まっていた。

 しかしそれは束の間。

「けれどリリア。君なら彼に手が届く気がする」
「……え?」

 ロイスはそう言って、腰に差していた剣を鞘ごとリリアに投げ渡した。
 彼の咄嗟の行動に慌てながらもリリアは空中に舞う剣を抱きかかえる。

 それが儀式の合図だった。

「十六代目アストラル家当主、ロイス・アストラル。この名において我が弟子リリア・ジン・グランデールに私の全てを授けることを誓おう」

 それは正当なアストラル流の継承するということの宣言であり、契約の契り。
 要するにアストラル流の十七代目を引き継がせるというものである。

 流石のリリアでもその意味は理解できたのか、

「え、えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 声にならない悲鳴を上げたのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

僕の秘密を知った自称勇者が聖剣を寄越せと言ってきたので渡してみた

黒木メイ
ファンタジー
世界に一人しかいないと言われている『勇者』。 その『勇者』は今、ワグナー王国にいるらしい。 曖昧なのには理由があった。 『勇者』だと思わしき少年、レンが頑なに「僕は勇者じゃない」と言っているからだ。 どんなに周りが勇者だと持て囃してもレンは認めようとしない。 ※小説家になろうにも随時転載中。 レンはただ、ある目的のついでに人々を助けただけだと言う。 それでも皆はレンが勇者だと思っていた。 突如日本という国から彼らが転移してくるまでは。 はたして、レンは本当に勇者ではないのか……。 ざまぁあり・友情あり・謎ありな作品です。 ※小説家になろう、カクヨム、ネオページにも掲載。

目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう

果 一
ファンタジー
目立つことが大嫌いな男子高校生、篠村暁斗の通う学校には、アイドルがいる。 名前は芹なずな。学校一美人で現役アイドル、さらに有名ダンジョン配信者という勝ち組人生を送っている女の子だ。 日夜、ぼんやりと空を眺めるだけの暁斗とは縁のない存在。 ところが、ある日暁斗がダンジョンの下層でひっそりとモンスター狩りをしていると、SSクラスモンスターのワイバーンに襲われている小規模パーティに遭遇する。 この期に及んで「目立ちたくないから」と見捨てるわけにもいかず、暁斗は隠していた実力を解放して、ワイバーンを一撃粉砕してしまう。 しかし、近くに倒れていたアイドル配信者の芹なずなに目撃されていて―― しかも、その一部始終は生放送されていて――!? 《ワイバーン一撃で倒すとか異次元過ぎw》 《さっき見たらツイットーのトレンドに上がってた。これ、明日のネットニュースにも載るっしょ絶対》 SNSでバズりにバズり、さらには芹なずなにも正体がバレて!? 暁斗の陰キャ自由ライフは、瞬く間に崩壊する! ※本作は小説家になろう・カクヨムでも公開しています。両サイトでのタイトルは『目立つのが嫌でダンジョンのソロ攻略をしていた俺、アイドル配信者のいる前で、うっかり最凶モンスターをブッ飛ばしてしまう~バズりまくって陰キャ生活が無事終了したんだが~』となります。 ※この作品はフィクションです。実在の人物•団体•事件•法律などとは一切関係ありません。あらかじめご了承ください。

成長チートと全能神

ハーフ
ファンタジー
居眠り運転の車から20人の命を救った主人公,神代弘樹は実は全能神と魂が一緒だった。人々の命を救った彼は全能神の弟の全智神に成長チートをもらって伯爵の3男として転生する。成長チートと努力と知識と加護で最速で進化し無双する。 戦い、商業、政治、全てで彼は無双する!! ____________________________ 質問、誤字脱字など感想で教えてくださると嬉しいです。

スキル喰らい(スキルイーター)がヤバすぎた 他人のスキルを食らって底辺から最強に駆け上がる

けんたん
ファンタジー
レイ・ユーグナイト 貴族の三男で産まれたおれは、12の成人の儀を受けたら家を出ないと行けなかった だが俺には誰にも言ってない秘密があった 前世の記憶があることだ  俺は10才になったら現代知識と貴族の子供が受ける継承の義で受け継ぐであろうスキルでスローライフの夢をみる  だが本来受け継ぐであろう親のスキルを何一つ受け継ぐことなく能無しとされひどい扱いを受けることになる だが実はスキルは受け継がなかったが俺にだけ見えるユニークスキル スキル喰らいで俺は密かに強くなり 俺に対してひどい扱いをしたやつを見返すことを心に誓った

錬金術師が不遇なのってお前らだけの常識じゃん。

いいたか
ファンタジー
小説家になろうにて130万PVを達成! この世界『アレスディア』には天職と呼ばれる物がある。 戦闘に秀でていて他を寄せ付けない程の力を持つ剣士や戦士などの戦闘系の天職や、鑑定士や聖女など様々な助けを担ってくれる補助系の天職、様々な天職の中にはこの『アストレア王国』をはじめ、いくつもの国では不遇とされ虐げられてきた鍛冶師や錬金術師などと言った生産系天職がある。 これは、そんな『アストレア王国』で不遇な天職を賜ってしまった違う世界『地球』の前世の記憶を蘇らせてしまった一人の少年の物語である。 彼の行く先は天国か?それとも...? 誤字報告は訂正後削除させていただきます。ありがとうございます。 小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで連載中! 現在アルファポリス版は5話まで改稿中です。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

処理中です...