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1章 少年編
17話 つよつよ王女
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「なんだ、その化け物じみた身体能力は……?」
目を見開いて尋ねるロイス。
けれど身に覚えのないリリアは首を傾げた。
「え、何のことですか?」
「とぼけていいレベルじゃないだろう!? 私の反応が遅れるレベルの俊敏だよ!?」
「別にただ本気で走っただけなんですけど……?」
余裕ぶっていたとはいえ、ロイスはレベル8。
何があろうとレベル2のリリアに後れを取ることは決してない。
なのにロイスが反応する前にリリアは彼まで距離を詰めていた。
「本気で走ってただけって……流石にそれは無理があるよ……」
リリアが自分の成長に無自覚な理由。
それにはちゃんとした理由があった。
急激な身体能力の上昇による認識のズレ。
脳が自身の身体に追いつけていないといった方が分かりやすいだろうか。
「正直に言うと、確かに体の動かし方や剣さばきは素人感は出ていた。けれど身体能力に関しては別だ。私が本気でリリアに相対してもギリギリ反応できるといったところだろう」
「え? それは流石に褒めすぎですよ~」
ただ過剰に褒められているだけと思っているリリアは照れ気味に謙遜する。
よくあるだろう。指導者が初心者にちょっと出来ただけで過剰に褒めて興味を持たせる手法。
リリアはそれだと思っているのだ。
「…………」
そんな彼女の様子にロイスは絶句することしか出来ない。
「でも、最近は特に身体は軽く感じるんですよ。フィル君のテイムのおかげですかね?」
「まぁそれ以外考えられないだろうね。けれど、これほどまで対象者を成長させれるものなのか……?」
これではまるで神の所業じゃないか、と小さく呟きながらロイスは頭を抱える。
レベル2の少女が身体能力だけではあるが、レベル8に追いついた。
数字からも分かるようにそれは偉業とはもう呼べない。神の御業と言っても誰も否定しないだろう。
「リリア、試しにこの部屋の端から反対の壁まで走ってくれるか?」
「分かりました」
この訓練場は何より広い。千名以上の剣士を収容出来ることを想定して作られている。
端から端まで二百メートルはあるだろう。
常人なら早くて二十五秒と言ったところか。
「では、いきますね!」
そんな明るい掛け声とともに、リリアは地面を蹴って疾駆した。
(速く、速く、もっと速く……!)
リリアは走りながら、速く走ることだけを強く念じる。
自分を救ってくれたフィルを守れるような強さが欲しい。
二度とあんな惨めな思いをしないための力が欲しい。
フィルと肩を並べて、隣を歩くための力が欲しい。
だからこそリリアはたとえただの訓練でも、いま自分が出せる全力を出す。
その思いに応えるように、リリアの手の甲に刻まれた契約紋が淡い光を放った。
すると徐々に足の回転数が上がり、一歩も大きくなっていく。
そのまま弾丸が放たれたかのような速さにまで加速した。
離れていたところで観察していたロイスにまで風が伝わるほどだ。
「……は?」
傍観していたロイスは開いた口が塞がらない。
どこの人間が弾丸のような速さで地面を走れるというのだろうか。
当然、そんな速さで走れば、止まるためには長い距離を要する。
壁にすぐそこまで迫っていたリリアにはそんな余裕はなかった。
「え、待って! 止まれな――」
ドカンッ!
リリアは勢いを殺すことが出来ず、そのまま轟音をたてて壁に衝突した。
その後すぐにリリアのうめき声が響く。
「~~!! いったぁ~!」
彼女は両手で額を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
衝突した壁には大きな窪みが出来ており、その衝撃の大きさは明らかだ。
けれど身体能力向上のおかげか、リリアは見たところ少し額が赤くなっている程度だった。
「嘘だろ、おい……」
俊敏力はもちろん、続いて今度は耐久力の異常さも証明された。
常人なら骨折は免れないほどの衝撃を、彼女は赤くなる程度済んでいるのだから。
どれにおいてもレベル2の常軌を逸している。
「アハハ、私は夢でも見てるのか……?」
驚きを通り越して、ロイスは呆れ気味に笑っていた。
ここまで来れば驚くことすら憚られるのだろう。
ロイスは今まで何百人、何千人の剣士と戦い、剣術の至高にまで辿りついた。
そんな彼でも、この王女の奇抜さは受け入れられなかった。
「あれ、なんで私あんなに速く走れたんだろう?」
リリアもリリアで、ポカンと首を傾げている。
走っている最中は無我夢中で走っていたため、その速さには気付いていなかった。
彼女はじんじんと痛む額を押さえながらロイスの元まで戻る。
すると、ロイスは口角をつり上げて歪な笑みを浮かべていた。
まるで何かを企んでいるような表情だ。
「リリア。一ついいかい?」
「ど、どうしました? 速さが足りませんでしたかね?」
「い、いや。それに関して十分すぎるんだけど。別のことで一つね」
「別のこと?」
「リリアは『最強』という肩書に興味はあるかい?」
「え? まぁもちろんありますけど……」
唐突に投げかけられた言葉に、リリアは動揺しながらも頷く。
「人生、四十五年、ただひたすらに剣術を極めて剣豪にまでなった私だが、一人だけ未だに勝てない者がいた」
「それって……」
「あぁ、人類最強と名高い『勇者』だ。彼だけには未だに勝てる気がしない」
『勇者』。この世界で唯一、レベル9に至った天才。
彼の力は一人で国家を転覆させられるほどと言われでおり、そのため勇者はどの国にも所属させないという法律が作られている。
ロイスだが、アストラル流の頂点にたどり着いたと言っても、所詮は国の中だけの話。
彼は数年前に勇者と対峙したが、結果は瞬殺。
ましてや勇者に力を抜かれて相手をされるほどだった。
「おおよそ、私がこれからどれだけ稽古を積んだところで彼には敵わないだろう」
「そんなこと……」
「いや、分かるんだよ。彼を前にすれば何故か足がすくんでしまう。本能が勇者には勝てないと訴えかけているんだろうね。だから私は今まで彼だけは別格だと、人類では届かない存在だと決めつけていた」
ロイスは震える手を押さえつけながら語る。
その頃の記憶を思い出したのか、表情を苦渋に染まっていた。
しかしそれは束の間。
「けれどリリア。君なら彼に手が届く気がする」
「……え?」
ロイスはそう言って、腰に差していた剣を鞘ごとリリアに投げ渡した。
彼の咄嗟の行動に慌てながらもリリアは空中に舞う剣を抱きかかえる。
それが儀式の合図だった。
「十六代目アストラル家当主、ロイス・アストラル。この名において我が弟子リリア・ジン・グランデールに私の全てを授けることを誓おう」
それは正当なアストラル流の継承するということの宣言であり、契約の契り。
要するにアストラル流の十七代目を引き継がせるというものである。
流石のリリアでもその意味は理解できたのか、
「え、えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
声にならない悲鳴を上げたのだった。
目を見開いて尋ねるロイス。
けれど身に覚えのないリリアは首を傾げた。
「え、何のことですか?」
「とぼけていいレベルじゃないだろう!? 私の反応が遅れるレベルの俊敏だよ!?」
「別にただ本気で走っただけなんですけど……?」
余裕ぶっていたとはいえ、ロイスはレベル8。
何があろうとレベル2のリリアに後れを取ることは決してない。
なのにロイスが反応する前にリリアは彼まで距離を詰めていた。
「本気で走ってただけって……流石にそれは無理があるよ……」
リリアが自分の成長に無自覚な理由。
それにはちゃんとした理由があった。
急激な身体能力の上昇による認識のズレ。
脳が自身の身体に追いつけていないといった方が分かりやすいだろうか。
「正直に言うと、確かに体の動かし方や剣さばきは素人感は出ていた。けれど身体能力に関しては別だ。私が本気でリリアに相対してもギリギリ反応できるといったところだろう」
「え? それは流石に褒めすぎですよ~」
ただ過剰に褒められているだけと思っているリリアは照れ気味に謙遜する。
よくあるだろう。指導者が初心者にちょっと出来ただけで過剰に褒めて興味を持たせる手法。
リリアはそれだと思っているのだ。
「…………」
そんな彼女の様子にロイスは絶句することしか出来ない。
「でも、最近は特に身体は軽く感じるんですよ。フィル君のテイムのおかげですかね?」
「まぁそれ以外考えられないだろうね。けれど、これほどまで対象者を成長させれるものなのか……?」
これではまるで神の所業じゃないか、と小さく呟きながらロイスは頭を抱える。
レベル2の少女が身体能力だけではあるが、レベル8に追いついた。
数字からも分かるようにそれは偉業とはもう呼べない。神の御業と言っても誰も否定しないだろう。
「リリア、試しにこの部屋の端から反対の壁まで走ってくれるか?」
「分かりました」
この訓練場は何より広い。千名以上の剣士を収容出来ることを想定して作られている。
端から端まで二百メートルはあるだろう。
常人なら早くて二十五秒と言ったところか。
「では、いきますね!」
そんな明るい掛け声とともに、リリアは地面を蹴って疾駆した。
(速く、速く、もっと速く……!)
リリアは走りながら、速く走ることだけを強く念じる。
自分を救ってくれたフィルを守れるような強さが欲しい。
二度とあんな惨めな思いをしないための力が欲しい。
フィルと肩を並べて、隣を歩くための力が欲しい。
だからこそリリアはたとえただの訓練でも、いま自分が出せる全力を出す。
その思いに応えるように、リリアの手の甲に刻まれた契約紋が淡い光を放った。
すると徐々に足の回転数が上がり、一歩も大きくなっていく。
そのまま弾丸が放たれたかのような速さにまで加速した。
離れていたところで観察していたロイスにまで風が伝わるほどだ。
「……は?」
傍観していたロイスは開いた口が塞がらない。
どこの人間が弾丸のような速さで地面を走れるというのだろうか。
当然、そんな速さで走れば、止まるためには長い距離を要する。
壁にすぐそこまで迫っていたリリアにはそんな余裕はなかった。
「え、待って! 止まれな――」
ドカンッ!
リリアは勢いを殺すことが出来ず、そのまま轟音をたてて壁に衝突した。
その後すぐにリリアのうめき声が響く。
「~~!! いったぁ~!」
彼女は両手で額を押さえながらゆっくりと立ち上がった。
衝突した壁には大きな窪みが出来ており、その衝撃の大きさは明らかだ。
けれど身体能力向上のおかげか、リリアは見たところ少し額が赤くなっている程度だった。
「嘘だろ、おい……」
俊敏力はもちろん、続いて今度は耐久力の異常さも証明された。
常人なら骨折は免れないほどの衝撃を、彼女は赤くなる程度済んでいるのだから。
どれにおいてもレベル2の常軌を逸している。
「アハハ、私は夢でも見てるのか……?」
驚きを通り越して、ロイスは呆れ気味に笑っていた。
ここまで来れば驚くことすら憚られるのだろう。
ロイスは今まで何百人、何千人の剣士と戦い、剣術の至高にまで辿りついた。
そんな彼でも、この王女の奇抜さは受け入れられなかった。
「あれ、なんで私あんなに速く走れたんだろう?」
リリアもリリアで、ポカンと首を傾げている。
走っている最中は無我夢中で走っていたため、その速さには気付いていなかった。
彼女はじんじんと痛む額を押さえながらロイスの元まで戻る。
すると、ロイスは口角をつり上げて歪な笑みを浮かべていた。
まるで何かを企んでいるような表情だ。
「リリア。一ついいかい?」
「ど、どうしました? 速さが足りませんでしたかね?」
「い、いや。それに関して十分すぎるんだけど。別のことで一つね」
「別のこと?」
「リリアは『最強』という肩書に興味はあるかい?」
「え? まぁもちろんありますけど……」
唐突に投げかけられた言葉に、リリアは動揺しながらも頷く。
「人生、四十五年、ただひたすらに剣術を極めて剣豪にまでなった私だが、一人だけ未だに勝てない者がいた」
「それって……」
「あぁ、人類最強と名高い『勇者』だ。彼だけには未だに勝てる気がしない」
『勇者』。この世界で唯一、レベル9に至った天才。
彼の力は一人で国家を転覆させられるほどと言われでおり、そのため勇者はどの国にも所属させないという法律が作られている。
ロイスだが、アストラル流の頂点にたどり着いたと言っても、所詮は国の中だけの話。
彼は数年前に勇者と対峙したが、結果は瞬殺。
ましてや勇者に力を抜かれて相手をされるほどだった。
「おおよそ、私がこれからどれだけ稽古を積んだところで彼には敵わないだろう」
「そんなこと……」
「いや、分かるんだよ。彼を前にすれば何故か足がすくんでしまう。本能が勇者には勝てないと訴えかけているんだろうね。だから私は今まで彼だけは別格だと、人類では届かない存在だと決めつけていた」
ロイスは震える手を押さえつけながら語る。
その頃の記憶を思い出したのか、表情を苦渋に染まっていた。
しかしそれは束の間。
「けれどリリア。君なら彼に手が届く気がする」
「……え?」
ロイスはそう言って、腰に差していた剣を鞘ごとリリアに投げ渡した。
彼の咄嗟の行動に慌てながらもリリアは空中に舞う剣を抱きかかえる。
それが儀式の合図だった。
「十六代目アストラル家当主、ロイス・アストラル。この名において我が弟子リリア・ジン・グランデールに私の全てを授けることを誓おう」
それは正当なアストラル流の継承するということの宣言であり、契約の契り。
要するにアストラル流の十七代目を引き継がせるというものである。
流石のリリアでもその意味は理解できたのか、
「え、えええええええぇぇぇぇぇぇぇ!?」
声にならない悲鳴を上げたのだった。
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