追放された無能テイマーは【人間テイム】で無双する~新たな仲間たちをテイムしたら別人のように強くなりました〜

柊彼方

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1章 少年編

15話 過去②

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「僕たちが生き残れた理由。それはフィルは『魔獣をテイム』したからです」
「…………は?」

 リンクの答えにノアは口を半開きに唖然とした。
 そんな彼の反応はリンクにとっても想定通りなのだろう。
 そこからリンクは固まって茫然としているノアを置いて語り始めた。

「魔獣に攫われた僕たちはダンジョンで魔獣たちに囲まれ、捕食される一歩直前までいきました」

 攫われた時点で察することが出来るが、相手はある程度の知能を持つ魔獣。
 となればその分、残虐性も強い。
 ダンジョン内部で、誰も助けに来ない状況をわざわざ作り、リンクたちに絶望を与えようとした。

「しかし、そんな中フィルが一匹の魔獣に【契約テイム】を行使したんです。危機的な状況での生存本能か、それとも一族の血による天賦の才かは分かりません」

 一歳のフィルはまだ、まともに言葉を発することすらままならなかった。 
 そんな状態で長い詠唱を要する【契約テイム】を行使するなど不可能。
 しかし、リンクの目の前で起きた結果はそんな常識さえも軽々と否定した。

「そこからは一瞬です。フィルがテイムした魔達が他の魔獣たちに指示を出したのか、ぞろぞろと退いていきました」

 魔獣の言語は分からない。
 ただ、リンクの目にはフィルがテイムした魔獣が他の魔獣たちをさがらせたように見えた。

「残った僕たちは、その魔獣によって地上まで送り届けてもらったんです」

 次々に明らかになるリンクとフィルの昔話。
 しかしどの話も常軌を逸しており、エルフの叡智をもってしてもノアの理解が追いつくことはない。

「正直、僕も今までは半信半疑でした。夢なのではないか、妄想だったのではないかと。だから誰にもこの事件のことは言っていませんし、これからも誰にも言うつもりはありませんでした」

 それにフィルに辛い思いはして欲しくないですから、と加えてリンクは口にする。

 フィルが良い意味で異端児だということが広まれば確実に研究材料になり替わる。
 そのため幼いフィルにそういった境遇に陥って欲しくないという、兄としての親切心がそこにはあった。
 ニルヴァーナ家の誰もがフィルを忌み嫌い、蔑む中、リンクだけが彼の味方をしていたのもそういった背景もある。

「でも今日のフィルの言動で確信しました。弟は獣はテイム出来ませんが、魔獣や人間を使役できる」

 確信を持って言いきるリンク。
 対してずっと耳を傾けていたノアはやっとのことで声を絞り出す。 

「い、いったん情報を整理しましょう。仮に君が語ったことが事実だとして、何故人間は人間がテイム出来ないかを知っていますか?」
「拒絶反応が起きるからですか?」
「正確には脳が処理しきれないと言った方が正しいです。自然界に存在する獣の魔力は単純。だからこそ僕たちは獣をテイム出来ます」

 魔力は大きく分けて二つ存在する。
 一つ目は獣の魔力。
 獣の魔力の構造は全て決まった形をしており、単純である。
 そのため人類は【契約テイム】という魔術を生み出し、獣と意思疎通が出来るようになった。
 
「けれど人間の魔力は違います。一人一人異なっていて複雑です。だからこそ互いの魔力を介する【契約テイム】をすれば脳が情報過多で処理しきれなくなる」

 二つ目が人間の魔力。
 いわば人間の魔力は個性のようなものだ。
 それぞれの属性に適性があったり、無かったり。魔力量が多かったり、少なかったり。
 どの一つの例を見てもを一致するものは存在しない。
 昔から人間の魔力に関しては研究されてきたが、未だに一割も解明できていないのが現状だ。

「それは魔獣にも当てはまります。一見、獣と同等のようにも思えますが、魔獣はどちらかというと人間よりです。エルフも何度も魔獣をテイムしようと試みたことがありましたが、すべて失敗に終わっています」

 エルフは人族より長寿ということもあり、研究職に就く者が多い。
 その叡智を利用した研究のおかげで人類は大きく発展を遂げた。
 けれどその叡智を利用しても理解出来ない領域があった。それが人間や魔獣などの魔力の構造だ。

「フィル君は人間や魔獣の魔力を理解するほどの天才……というわけでは、今日の見た感じではなさそうでした。頭脳なら私の方が上だと思います。なら、私たちとフィル君は何が違うのでしょう……」

 ノアは眉間に手を当てながら唸るように頭を抱える。
 事が事であるため、一般的な思考では結論には至らない可能性が高い。
 ノアは脳内で何度も色々な可能性を模索する。
 そんな中、リンクが何か閃いたような声を上げた。

「あっ……」
「どうかしました?」
「あいつ、魔力量が桁違いなんです」
「魔力量?」
「はい、魔力測定器で何度測っても常人の十倍ぐらいの魔力が検出されて……父は故障だと言ってそれ以来フィルに魔力を測らせませんでしたが」

 これに関してはフィル自身も自覚しているが、彼は一族の中で誰よりも魔力量が多かった。
 多いと言っても、多少多いというわけではない。桁違いの言葉通り、桁が違ったのだ。
 けれどそのことを信じる者は誰もいなかった。
 リンクや他の者たちが数十台の数値を出している中、フィルが数百を超える数値を出せば、当然故障だと思うだろう。
 
「まさか圧倒的な魔力量で相手の魔力を呑みこんでいるんでしょうか……!?」

 と、一つの結論に至り、珍しく興奮をあらわにするノア。
 しかし、すぐに我に返り、いつものような落ち着きを取り戻す。

「まぁ何にしろここで何を言っても結局は推論で終わります。この話はまた今度にしましょう」
「はい、それでフィルの件は……」
「もちろん誰にも口外しませんよ。彼自身が自分で口外しようとしない限りは。私たちがフィル君の指導役になったのも国王様が私たちなら黙ってくれると信頼してのことでしょうし」

 そう言って、ノアはこの会話を終わらせた。
 リンクもその提案に頷く。
 既に日は沈み、夕食時の時間になっていた。
 二人の空腹が限界になっていたのもある。
 
 その後、訓練場の帰り際にノアは、ボソッと独り言のように口にした。

「ふふふっ、彼の成長が楽しみですね。隣で偉業を見届けれるなんて光栄です」

 そんな彼の表情は今までになく光惚としていた。








 しかし、二人は知らなかった。
 規格外なのはフィルだけではない。
 テイムされた側も規格外になっていることを。
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