追放された無能テイマーは【人間テイム】で無双する~新たな仲間たちをテイムしたら別人のように強くなりました〜

柊彼方

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1章 少年編

8話 裏話

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 フィルが王の間を去った後、王の間では。 

「入れ」
「失礼します」

 国王の許可を得て、王の間に入ってきたのは全身、黒い衣服を纏った者。
 男性か女性も判別しにくい容姿に不審さを感じさせる。

「調査が終了しましたのでご報告させていただきます」

 全身黒ずくめの男は片膝をつけ、国王に対して忠誠心を示す。
 彼の名はリックス。
 国王直属の諜報部の隊長をしている人間だ。
 彼の実力は国内でも五本の指に入るほどで、情報収集能力は世界でもトップレベルの持ち主。
 影の王という二つ名を持っており、裏社会で彼の名を知らない者はいない。

「暗殺者の名はイグノア。西国アバンドンの魔術師でレベルは5だったそうです」
「「5っ!?」」

 二人は同時に息を呑む。
 
 この世の力の指数となるレベルシステム。
 レベル1から始まり、現段階で最強と謳われる勇者がレベル9だ。
 レベル1の差はかなり大きく、その差を覆すことはよほどのことがない限り難しい。
 だからこそ国王と王妃は驚いているのだ。

「り、リリアのレベルは2だぞ!? それがレベル5に勝ったというのか!?」
「はいっ……! 何度も確認いたしましたが間違いありません!」 

 リリアの護衛についてた三人の騎士がレベル3だった。
 レベル3といえば、中級冒険者に値する実力。しかもそれが三人。
 彼らを倒してリリアに手を出すためにはレベル4では足りず、レベル5以上の実力が必須となる。
 そのため暗殺者がレベル5だということは、その結果が物語っていた。

「本当にリリアが暗殺者を倒したんだな?」
「それに関しても確認済みです。致命傷となった斬撃は確実にリリア様から放たれたものでした。リリア様から証言ももらっています」

 ちなみにリリアのレベルはつい最近2になったばかり。
 要するにフィルは彼女をテイムしたことでレベルを3つ以上も上げたことになる。
 その事実を知ってしまった国王は驚きを優に超え、呆れ気味の笑みがこぼれていた。

「そうか……もういい。私が呼び出していた者がいただろう。そいつを連れてこい」
「はっ、承知しました!」

 国王が指示を出すと、リックスは霧散するように一瞬で姿を消した。
 瞬間移動じみた退出方法だが、いつものことなので二人は気にする様子はない。 
 すると彼に続くように王妃も、 

「私も下がっていいかしら? 少しリリアとフィル君の様子を見てきたいのだけれど」
「あぁ、そちらは任せた」

 国王が頷いたことを確認すると、足早に王の間を去っていく。
 王妃に関してもリリアと同様に特段、フィルのことを気に入っていた。
 先に出ていったフィルが心配でならなかったのだろう。

 それから間もなくして、一人の男が王の間を訪れた。

「お初目にかかります、国王様。ニルヴァーナ家当主、アルバス・ニルヴァーナでございます」

 そう名乗って王の前に跪くのはテイマー一族の長であるフィルの父親だ。
 フィルとそっくりな艶やかな黒髪に、五十代には見えない若々しい顔立ち。
 一族の長であるからか、傍から見ればそれなりの覇気があるようにも見える。
 けれどそんなオーラも国王の前では微細なものに過ぎない。 

「単刀直入に聞く。貴様は人間をテイムすことが出来るか?」
「は、はい? 人間を?」
「さっさと答えろ」
「に、人間をテイムすることなど不可能でございます。テイムとは簡単に言うと魔力の共有。もし、テイムをしようとするならば、拒絶反応により術者の脳が焼け落ちるでしょう」
「もし出来る者がいたら?」
「それは神以外にありえません。脳が三十個もあれば話は別でしょうが」

 アルバスは国王の質問に対して絶対に不可能だと否定する。
 テイマーの頂点の証である『調教之王テイマリスト』の称号を持つ彼が不可能と言うのであれば、それは全テイマーに共通する答えだ。
 けれど国王はその例外を知ってしまっている。

「獣をテイムした際、身体能力が向上するそうだが、実際どのくらい成長するんだ?」
「そうですね、魔力量によって変わりますけど、大体はレベルで例えると1レベル上昇するという感じでしょうか」
「たった1レベルか……」
「……たった?」
「いや、何でもない」

 国王の反応に疑問を持つアルバスだが、国王に止められたので深追いはしない。
 実際1レベルも上がるとなると、その恩恵は絶大と言っていい。
 戦闘相手からすれば全く別の存在と戦っているように感じるに違いないだろう。
 そのためレベルが3も上がったリリアを相手した暗殺者の男からすれば、地獄のように感じたはずだ。

「ふむ、話は変わるが、貴様には私の娘と同じくらいの息子が二人いるそうだな?」
「……いえ、三人います」
「記録上では二人になっていたが?」

 国王はフィルの存在を知っていながらも大袈裟に首を傾げる。
 既にフィルはニルヴァーナ家から正式に追放されているので、記録上はただのフィルとなっていた。
 フィルの記録上の追放に関しては、アルバスによるものではなく、彼の上にいる長老たちによるもの。
 しかし、この場で弁解しようともそれは言い訳にしか繋がらないことはアルバスも理解している。
 
「フィルという名の十六歳の息子がいます。一族からは追放されているため、記録上は二人になっていますが、改定されていない三年ほど前の記録を見れば載っているはずです」
「そんな若い少年が追放か。何か罪でも犯したのか?」
「いえ。ただ、ニルヴァーナ家は実力社会の縮図です。実力がない者は淘汰される。そのためテイマーとして未熟なフィルがあの場所に居続けると永遠に虐げられるでしょう。それはあまりにも酷すぎる……」

 アルバスは表情を苦渋に染め、歯を強く噛みしめる。

「そのため私はフィルを国立魔術学院に入学させて、自立できるように促しました」
「結局は自身の保身のためか。一族の名が汚れるからと育児を放棄したと」
「い、いえ! 息子のためを思って……!」
「なら何故、貴様が当主なのにもかかわらず、そんな慣習を変えようとしなかった。貴様が息子を心から心配しているのなら外の世界に放り捨てるようなことはしないだろう」
「ですがっ……!」
「別に叱っているわけではあるまい。どうせ長老たちの圧力があったのだろう」

 ニルヴァーナ家の当主はアルバスだが、実際は長老たちの方が発言力がある。
 長老たちが意見すればそれはアルバス、いや、ニルヴァーナ家の意見となる。
 フィルが一族から勘当されたのも、長老たちの意見が大きかった。
 テイマーではないフィルがニルヴァーナ家に居ていいはずがないと。たとえ当主の息子であろうと一族には必要がないと。

「それに私としてはそちらの方が好都合だからな」
「こ、好都合ですか?」
「唐突で悪いが貴様のところの三男は私たちが預かることにした。問題あるまいな?」
「は?」
「フィルは本日から王城に住んでもらうことにした。今日貴様を呼んだのはその了承をもらうためだ」

 あっさりと重大な要件を告げる国王を前に、アルバスは目を見開いて驚愕をあらわにする。

「な、何の冗談ですか? フィルが王城に住む?」
「別に何の冗談でもない。今彼が住んでいる安い宿からこの王城に移るだけだ」
「移るだけって、王城ですよ!? それに何故フィルが急に……」
「彼がうちの娘の命を救ってくれた。私はその恩義に報いるためなら何でもするつもりだ」

 それから国王は二日前の事件について、アルバスに語った。
 しかしある一点を除いて。
 フィルが人間をテイムできるという、その一点を。

「フィルがそんなことを……」
「本来なら一族にも恩賞を与えるべきなのだがな。調べてみたら一族から追放されているときた」

 国王や王妃はフィルが寝込んでいる間の二日間、徹底的にフィルのこと、そしてその周辺のことについて調べ上げた。それも国王直属の諜報部を動かすほど全力でだ。
 けれど得られる情報はどれもこれもパッとしないものばかり。ましてや記録上の凄腕テイマーとは思えないほど悲惨な結果しか出てこなかった。
 最初は国王たちもそんな彼の実績を怪しんだが、彼の壮絶な人生などを知ったことで二人の中でフィルに対して親心に似た何かが生まれたのだ。

「フィルのために家から彼を追放した貴様も、王城に住むなら安心出来るだろう?」
「っ、はい……」

 皮肉じみた国王の言葉にアルバスは渋々と了承する。
 当然、父親としてのプライドが傷かないはずがない。

「国王様。一つだけお願いがあります」
「なんだ」
「どうかフィルにはテイマーとは別の道を進ませてあげてください。あいつは……」
「才能がないとでも?」
「はい。その通りです。才能以前に息子にはテイマーの適性がありません。それは私が十三年間育てて確信したことです」

 確かに二日前のフィルならそんな方針に従っていたかもしれない。国王もその方針に頷いただろう。
 けれど彼は自ら大きな一歩を踏み出した。自ら希望という名の可能性を掴み取った。 
 そして一人孤独だった彼にはこれからリリアたちが寄りそうことになる。
 もう彼が道を誤るようなことはないだろう。

「アルバス、貴様はテイマーとしての才能はあるのかもしれない」

 アルバスは数百年のテイマーの歴史の中で初めて百体以上の獣をテイムした偉業を成し遂げた。
 また、彼の教育は優秀なもので、それは彼の長男と次男のずば抜けた実力が証明している。
 彼自身テイマーとして完成の域に達しているといっても過言ではなかった。

「だが、父親としての才能はないな。そして人を見る目もない」
「……ッ!!」

 アルバスは国王からの言葉に初めて絶句する。
 それは自分でも分かっていて、少なからず自覚はしていて。それでも今まで隠して逃げ続けた。
 初めてはっきりと正面から告げられたのだ。
 アルバスの心には深く傷が刻まれた。

「話は以上だ。下がれ」

 話を一方的に終わらせる国王。
 アルバスはゆっくりと首を縦に振って王の間を立ち去る。しかしその表情からは不満を隠しきれていなかった。
 この日を境にニルヴァーナ家は、フィルを中心とした大きな渦中に深く関わることになる。
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