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3章 養い対決

34話 戯れ

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 俺とレイナはその後、協会の子供たちがよく遊びに使う公園へと向かった。
 運良く誰も利用者がいなかったので、被害が出ないように防御と隠匿の結界を張る。これで外部から干渉されることはない。

「勝負はいたって簡単。相手を降参させたらいい。ちなみに殺傷能力の高い中級魔法以降は禁止な」

 魔法は大きく分けて四つに分類される。

 初級魔法――一般人でも使える生活魔法
 中級魔法――冒険者や騎士が使う攻撃魔法
 上級魔法――相手を殺すために使う殺傷魔法
 究極魔法――一発で何百人の命をも奪える魔法の極致

 そこから魔法の属性、または例外なども存在するが今は置いておこう。
 要するに【ファイアボール】や【ウォーターボール】などの安易な魔法以外を使うなということだ。

「ふぅん~。分かりました」

 俺の提案にレイナは薄ら笑いを漏らす。
 俺が初級魔法しか使えないためそんな提案をした、とでも思っているのだろう。

 本当は実力差・・・を分かりやすくしたいだけなんだけどな……

「じゃあ始めようか。負けても言い訳はするなよ?」
「それはこちらのセリフです。ボコボコにされたからって魔王様に泣きつかないでくださいね!」

 レイナは自信に満ちた表情を浮かべる。
 そして言い終えるのと同時に地を蹴り、俺に向かって疾駆したのだった。


 ◆

 レイナは疾駆しながら内心、哀れなエルを嘲笑っていた。

(ふふっ、これで駒が一つ増えます!)

 レイナは今まで一人で鍛錬してきた、訓練してきた。
 明るいうちは毎日魔法の訓練をし、夜は魔法の勉学に励む。
 それ以外の娯楽などは全て排他した生活を送ってきた。
 たとえ遊ぼうと誘われようと、すべて断って。

 それもこれも全て――憎き【賢者】を殺すため。
 
「【ファイアボール】!」

 レイナは【ファイアボール】を右手に構え、エルの腹に押し込むように放った。
 すぐにエルを中心に爆炎が巻き起こる。彼女は軽くエルから距離をとった。

 通常、魔法は遠距離から放つもの。そんな固定概念が植え付けられている。
 しかし彼女の場合、すべて独学であるため、そんなものは存在しない。

 レイナは再びエルのもとまで近づく。

「相手の実力も分からないのに突っかかるからこうなるんですよ。今、回復魔法をかけ――」
「魔術師にしてはなかなか身体能力が高いな」
「……は? 無傷?」

 レイナは悠々と立っているエルを見て目を見開いた。
 彼女は咄嗟に後方へと距離をとる。

(なんでなんでなんで!? 絶対に直撃したはずです! なのに服も焼けてないんですか!?)

 確実にレイナの【ファイアボール】はエルに直撃した。それもゼロ距離で。
 普通なら肌は焼け爛れ、火傷どころでは済まされない重傷を負う。
 なのにエルは余裕そうに笑っていたのだ。

 そんな意味の分からない光景が、レイナのプライドをえぐる。

「ふ、ふざけないでください! 【ファイアボール・二連ツインズ】!」

 レイナは左右からエルを挟み込むように【ファイアボール】を放った。
 これもゼロ距離と同様に彼女の鍛錬の賜物である。彼女にとっても自信のある魔法技術だった。

「おおぉ! 連発も出来るのか!」

 エルは自信に向かってくる【ファイアボール】を見ながら興奮気味に言う。
 左右からの連撃。初級魔法だとしても流石に避けようがない。

「流石にこれで終わりですね」

 レイナはそう言ってホッと胸を撫でおろす。
 先ほどのはただの誤発。たまたま運が悪かっただけ。そう思い込んで納得しようとしたのに、

「じゃあそろそろ交代するか。しっかり見て覚えてくれよ」

 パチンッ!

「……え?」

 レイナは一瞬何が起きたのか理解出来なかった。
 いや、一瞬どころではない。今もこれからも理解することが出来ない。そう本能が訴えていた。

(なんで指を鳴らすだけで魔法が消えるんですか!?)

 そう、エルはその場から一歩も動いていない。
 ただ指をこすって鳴らしただけで【ファイアボール】が消えたのだ。

 さらに、これだけでは終わらない。

「【ファイアボール・七重セプタプル】!」

 その瞬間、大地を焼き焦がすほどの巨大な【ファイアボール】が発現する。
 空気を焼き焦がし、じりじりと肌を焼くほどの熱波。

 まさにそれは、

(こんなの――究極魔法じゃないですかっ!)

 エルの【ファイアボール】はレイナめがけて振り下ろされたのだった。
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