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3章 養い対決
27話 本気
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「やっぱりエリーナが作る食事は別格だな……」
シチューを食べ終えた俺は再び、ソファーでくつろいでいた。今日はくつろいでばかりな気がする。
勇者時代は、まともに安心して食事をとれることなんてなかった。だから、この何気ない時間さえも幸せに思える。
しかし、エリ―ナはどこか腑に落ちていないようで、首をかしげていた。
彼女は俺には聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「魔王様にも効く睡眠薬を入れたはずなのに……」
「ん? 何か言った?」
「い、いいえ! 何でもないですよ!」
「そう? なら俺の気のせいかな」
聞き取れなかった俺はエリ―ナに聞き返したが、エリ―ナはぶんぶんと首を左右に振って否定した。
「そう言えば、この養い対決はいつまであるんだ?」
「いつまで、とは?」
「いや、いつ終わるのかなって……風呂とか睡眠とかもとらないといけないから」
流石に養い対決といえど、風呂や睡眠は各自で行うはず。
そう思っていたのに、エリ―ナは驚いたような声を上げた。
「え?」
「ん?」
想定外の返答に、俺も唖然としてしまう。
驚くようなことがあっただろうか。一般常識を言ったつもりなんだが。
しかし、エリ―ナは何故か頬を紅潮させながら、ぼそぼそと呟く。
「も、もちろんエル様が嫌がるのであれば、強制は――」
「うん、嫌です」
「うぐっ、どストレートですね……!」
俺はエリ―ナの言葉を遮って一蹴した。
すると彼女は少ししゅんとしつつも、上目遣いで聞いてくる。
「なら、一つだけお願いを聞いてもらえますか?」
「願い? まぁ一つぐらいなら」
今日一日、エリ―ナには色々と奉仕してもらった。
だから俺には彼女の願いの一つや二つぐらい聞く義務はある。
「少しそのベッドの上で仰向けになってください」
エリ―ナは奥にあるベッドに視線を向ける。
正直に言おう。意味が分からない。
女性のベッドの上に寝転がるのに抵抗があるのはもちろんのこと、何をするのかも想像がつかない。
しかし、彼女からは覚悟のようなものが感じられた。
「聞いてくれるんですよね?」
「わ、分かった……」
射抜くような力強い視線。それに漂う真剣な雰囲気。
俺はエリ―ナの言う通り、渋々ベッドの上に寝転がる。
刹那――
「なっ!? これは!?」
俺の四肢にまとわりつくように鎖が発現する。
それは誰が見ようと拘束魔法であり、ベッドに術式が仕掛けられていたことは明確。
もちろん、エリ―ナが自分のために術式を刻んでいましたと言うなら納得出来なくもない。まぁないだろうけど。
「ふっふっふ……」
ベッドの上で四肢を拘束された俺の上に、朦朧とした目をしているエリ―ナが座る。
全く状況がつかめない俺は恐る恐る彼女に尋ねた。
「え、エリ―ナ? な、何これ?」
「ふふっ、既成事実さえ作ってしまえば私の……勝ちですね……!」
しかし俺の言葉はエリ―ナの耳には届かなかったらしい。
彼女はゆっくりと顔を俺のもとまで近づける。そして……
「ちょっ、ちょっと待って、何をする気で――」
「ではエル様の初めて……いただきます!」
「い、いやああああああぁぁぁぁ!」
エリ―ナは俺の言葉を遮り、そのまま獲物に食らいつくように顔を近づける。
俺はあまりの衝撃に絶叫交じりの叫び声を上げながら目を閉じた。
その直後にカプっ、と何かが起きるのと同時に、少しチクリと首元に電流が走る。
それはあまりにも経験したことのない感覚で、理解するのに多少の時間を要する。
「ん? カプっ?」
俺はゆっくりと目を開けると、何故か血の気が引くように感じた。
それもそうだろう。だって、実際に血を吸われているのだから。
「……美味しいの?」
「ふふっ、美味しいです、最高です」
俺がジト目でエリ―ナに聞くと、エリ―ナは満足そうな笑みを浮かべる。そして、再び俺の首に歯をたてて吸血を始めた。
そんなに幸せそうな顔をされたら、怒るにも怒れなくなるじゃないか。
「血と魔力を吸ってるのか?」
微量だが、少しずつ体内を循環している魔力が減っているように感じた。
これぐらいの量なら何ともないが、魔力を吸われるということは今までに一度もなかったので違和感が大きい。
すると、エリ―ナは吸血を止め、口を拭いながら言う、
「はい、本当に温かくて、濃厚で――」
「感想は言わないでくれ、寒気がするから」
俺は苦笑を漏らしながらも彼女の言葉を遮り、拘束魔法を解除してもらう。
そして俺の上に乗っている彼女をどかせて、ゆっくりと体を起こした。
彼女が落ち着いた様子を確認すると、俺はベッドに腰かけたまま、彼女に向き合って告げる。
「じゃあ始めようか」
「ほ、本番ですか!? そ、それならお風呂に……」
どうして魔族は皆、急に距離感がおかしくなるのだろうか。
ラナに似てきた、と思ったがこれはラナよりも重症かもしれない。
「弁解の場を設けようって意味だよ。何で急に吸血をしたんだ?」
「そ、それはですね……」
エリ―ナは俺から目をそらし、少し焦りを見せながらも説明を始めたのだった。
シチューを食べ終えた俺は再び、ソファーでくつろいでいた。今日はくつろいでばかりな気がする。
勇者時代は、まともに安心して食事をとれることなんてなかった。だから、この何気ない時間さえも幸せに思える。
しかし、エリ―ナはどこか腑に落ちていないようで、首をかしげていた。
彼女は俺には聞こえないくらいの小さな声で呟く。
「魔王様にも効く睡眠薬を入れたはずなのに……」
「ん? 何か言った?」
「い、いいえ! 何でもないですよ!」
「そう? なら俺の気のせいかな」
聞き取れなかった俺はエリ―ナに聞き返したが、エリ―ナはぶんぶんと首を左右に振って否定した。
「そう言えば、この養い対決はいつまであるんだ?」
「いつまで、とは?」
「いや、いつ終わるのかなって……風呂とか睡眠とかもとらないといけないから」
流石に養い対決といえど、風呂や睡眠は各自で行うはず。
そう思っていたのに、エリ―ナは驚いたような声を上げた。
「え?」
「ん?」
想定外の返答に、俺も唖然としてしまう。
驚くようなことがあっただろうか。一般常識を言ったつもりなんだが。
しかし、エリ―ナは何故か頬を紅潮させながら、ぼそぼそと呟く。
「も、もちろんエル様が嫌がるのであれば、強制は――」
「うん、嫌です」
「うぐっ、どストレートですね……!」
俺はエリ―ナの言葉を遮って一蹴した。
すると彼女は少ししゅんとしつつも、上目遣いで聞いてくる。
「なら、一つだけお願いを聞いてもらえますか?」
「願い? まぁ一つぐらいなら」
今日一日、エリ―ナには色々と奉仕してもらった。
だから俺には彼女の願いの一つや二つぐらい聞く義務はある。
「少しそのベッドの上で仰向けになってください」
エリ―ナは奥にあるベッドに視線を向ける。
正直に言おう。意味が分からない。
女性のベッドの上に寝転がるのに抵抗があるのはもちろんのこと、何をするのかも想像がつかない。
しかし、彼女からは覚悟のようなものが感じられた。
「聞いてくれるんですよね?」
「わ、分かった……」
射抜くような力強い視線。それに漂う真剣な雰囲気。
俺はエリ―ナの言う通り、渋々ベッドの上に寝転がる。
刹那――
「なっ!? これは!?」
俺の四肢にまとわりつくように鎖が発現する。
それは誰が見ようと拘束魔法であり、ベッドに術式が仕掛けられていたことは明確。
もちろん、エリ―ナが自分のために術式を刻んでいましたと言うなら納得出来なくもない。まぁないだろうけど。
「ふっふっふ……」
ベッドの上で四肢を拘束された俺の上に、朦朧とした目をしているエリ―ナが座る。
全く状況がつかめない俺は恐る恐る彼女に尋ねた。
「え、エリ―ナ? な、何これ?」
「ふふっ、既成事実さえ作ってしまえば私の……勝ちですね……!」
しかし俺の言葉はエリ―ナの耳には届かなかったらしい。
彼女はゆっくりと顔を俺のもとまで近づける。そして……
「ちょっ、ちょっと待って、何をする気で――」
「ではエル様の初めて……いただきます!」
「い、いやああああああぁぁぁぁ!」
エリ―ナは俺の言葉を遮り、そのまま獲物に食らいつくように顔を近づける。
俺はあまりの衝撃に絶叫交じりの叫び声を上げながら目を閉じた。
その直後にカプっ、と何かが起きるのと同時に、少しチクリと首元に電流が走る。
それはあまりにも経験したことのない感覚で、理解するのに多少の時間を要する。
「ん? カプっ?」
俺はゆっくりと目を開けると、何故か血の気が引くように感じた。
それもそうだろう。だって、実際に血を吸われているのだから。
「……美味しいの?」
「ふふっ、美味しいです、最高です」
俺がジト目でエリ―ナに聞くと、エリ―ナは満足そうな笑みを浮かべる。そして、再び俺の首に歯をたてて吸血を始めた。
そんなに幸せそうな顔をされたら、怒るにも怒れなくなるじゃないか。
「血と魔力を吸ってるのか?」
微量だが、少しずつ体内を循環している魔力が減っているように感じた。
これぐらいの量なら何ともないが、魔力を吸われるということは今までに一度もなかったので違和感が大きい。
すると、エリ―ナは吸血を止め、口を拭いながら言う、
「はい、本当に温かくて、濃厚で――」
「感想は言わないでくれ、寒気がするから」
俺は苦笑を漏らしながらも彼女の言葉を遮り、拘束魔法を解除してもらう。
そして俺の上に乗っている彼女をどかせて、ゆっくりと体を起こした。
彼女が落ち着いた様子を確認すると、俺はベッドに腰かけたまま、彼女に向き合って告げる。
「じゃあ始めようか」
「ほ、本番ですか!? そ、それならお風呂に……」
どうして魔族は皆、急に距離感がおかしくなるのだろうか。
ラナに似てきた、と思ったがこれはラナよりも重症かもしれない。
「弁解の場を設けようって意味だよ。何で急に吸血をしたんだ?」
「そ、それはですね……」
エリ―ナは俺から目をそらし、少し焦りを見せながらも説明を始めたのだった。
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