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3章 養い対決
26話 回想
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時を遡ること、三十分前。
魔王城の別館をまわり終えた俺たちは再びエリ―ナの部屋へと戻っていた。
別館には人語を話す植物や魔法を使う獣など、人間界ではお目にかかれないものばかりいた。
一本足で立つの人面魚など、珍しいというよりはグロテスクな生物を除けば、有意義な時間を過ごせたと思う。
「もうこんな時間か……」
先ほどまで陽光がギラギラと窓から差し込んでいたのに、日は落ちかけ、もう夕暮れ時になっていた。
正面に座っていたエリ―ナはゆっくりと立ち上がり、台所へと向かう。
「昼食は売店で済ましてしまったので、夕食は私が作りますね!」
城内を半日歩き回ったため、エリ―ナも疲労は溜まっているはず。
しかし、彼女はそんな様子を一切感じさせることなく、夕食作りに取りかかった。
流石にこれは至れり尽くせりというもの。俺はゆっくりと立ち上がり、エリ―ナの隣に立つ。
「何か手伝うよ。俺は何をすればいい?」
「いいえ、これは養い対決なのでエル様は座っていてください」
俺はエリ―ナに肩をがっしりと掴まれ、ソファーへと戻された。
申し訳なさが募るばかりだが、何を言おうと彼女は手伝うのを拒むだろう。
仕方なく夕食が出来上がるまでの間、大書庫で借りてきた本を読むことにした。
借りてきた本の題名は勇者パーティーと聖武器の歴史。
魔界の地歴の書物ばかり読んでいたため、自分たち勇者パーティーが魔族たちにとってどう見られているのか、少し興味があった。
もちろん、それなりの覚悟を持って読むつもりだ。
「へぇ~。これは凄いな」
しかし、読み進めていくと、あまりの正確さに称賛を漏らしてしまう。
勇者、賢者、聖女、武神の役割に、今までの歴史。
さらには次世代の引き継がれる方法など、一般の人間でさえも知らないことまで記されている。
「そういえば、聖剣持ってきちゃったな……」
俺は椅子に立てかけている聖剣に視線を移した。
この聖武器は俺が十歳の頃、勇者となってから肌身離さず持ち歩いている。
いわば勇者の証明書のようなもの。代々受け継がれてきた由緒ある武器なのだ。
「勇者選定か……」
今頃、次の勇者選定のため、勇者候補生たちがふるいにかけられている頃だろう。
具体的に言えば、何十人もの候補生たちで、蠱毒のように最後の一人になるまで殺しあう。
そうして出来上がった殺戮の兵器に勇者という肩書を引き継がせるのだ。
選定の場では友情や信頼も、何の意味も持たない。
気を抜けば殺される。それがたとえ親友だとしても……
「――ッ!! くそっ……」
脳裏によみがえった光景に俺は顔をしかめた。
思い出したくない過去を振り払うようにエリ―ナに尋ねる。
「これって、シチューの匂い?」
「はい、少し肌寒くなってきたので温かいものでも作ろうかなと!」
そんなエリ―ナの優しい声を聴くと、本当に心が和らぐ。
その後、彼女はシチューを作り終え、一緒に夕食を食べたのだった。
魔王城の別館をまわり終えた俺たちは再びエリ―ナの部屋へと戻っていた。
別館には人語を話す植物や魔法を使う獣など、人間界ではお目にかかれないものばかりいた。
一本足で立つの人面魚など、珍しいというよりはグロテスクな生物を除けば、有意義な時間を過ごせたと思う。
「もうこんな時間か……」
先ほどまで陽光がギラギラと窓から差し込んでいたのに、日は落ちかけ、もう夕暮れ時になっていた。
正面に座っていたエリ―ナはゆっくりと立ち上がり、台所へと向かう。
「昼食は売店で済ましてしまったので、夕食は私が作りますね!」
城内を半日歩き回ったため、エリ―ナも疲労は溜まっているはず。
しかし、彼女はそんな様子を一切感じさせることなく、夕食作りに取りかかった。
流石にこれは至れり尽くせりというもの。俺はゆっくりと立ち上がり、エリ―ナの隣に立つ。
「何か手伝うよ。俺は何をすればいい?」
「いいえ、これは養い対決なのでエル様は座っていてください」
俺はエリ―ナに肩をがっしりと掴まれ、ソファーへと戻された。
申し訳なさが募るばかりだが、何を言おうと彼女は手伝うのを拒むだろう。
仕方なく夕食が出来上がるまでの間、大書庫で借りてきた本を読むことにした。
借りてきた本の題名は勇者パーティーと聖武器の歴史。
魔界の地歴の書物ばかり読んでいたため、自分たち勇者パーティーが魔族たちにとってどう見られているのか、少し興味があった。
もちろん、それなりの覚悟を持って読むつもりだ。
「へぇ~。これは凄いな」
しかし、読み進めていくと、あまりの正確さに称賛を漏らしてしまう。
勇者、賢者、聖女、武神の役割に、今までの歴史。
さらには次世代の引き継がれる方法など、一般の人間でさえも知らないことまで記されている。
「そういえば、聖剣持ってきちゃったな……」
俺は椅子に立てかけている聖剣に視線を移した。
この聖武器は俺が十歳の頃、勇者となってから肌身離さず持ち歩いている。
いわば勇者の証明書のようなもの。代々受け継がれてきた由緒ある武器なのだ。
「勇者選定か……」
今頃、次の勇者選定のため、勇者候補生たちがふるいにかけられている頃だろう。
具体的に言えば、何十人もの候補生たちで、蠱毒のように最後の一人になるまで殺しあう。
そうして出来上がった殺戮の兵器に勇者という肩書を引き継がせるのだ。
選定の場では友情や信頼も、何の意味も持たない。
気を抜けば殺される。それがたとえ親友だとしても……
「――ッ!! くそっ……」
脳裏によみがえった光景に俺は顔をしかめた。
思い出したくない過去を振り払うようにエリ―ナに尋ねる。
「これって、シチューの匂い?」
「はい、少し肌寒くなってきたので温かいものでも作ろうかなと!」
そんなエリ―ナの優しい声を聴くと、本当に心が和らぐ。
その後、彼女はシチューを作り終え、一緒に夕食を食べたのだった。
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