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3章 養い対決
25話 養う
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エリ―ナが料理を始めてから十分ほどで、夕食も完成した。
どうやら前日のうちに下ごしらえを終えていたらしい。
「えっと。朝食なので少し質素になりましたが……」
「おおぉ!」
俺は机の上に並べられた品々に感嘆の声を上げた。
パンとパンでいろいろな具材を挟んだものに、少量の野菜。
見ただけで分かる。これは絶対に美味しいやつだ。
「いつも自炊しているんですけど、こうやって自分以外に作るのは初めてでして」
エリ―ナは俺の対面の席に座りながら、自信なさげな声を漏らす。
魔王城には食堂があり、一流の料理人が常駐している。
それでも自炊をするとなると、本当に料理が好きなのかもしれない。
「ってことは俺が初めてなのか。なんか緊張してきたな」
「――っ!! そ、そうなりますね……」
「ん?」
何故か、エリ―ナは急に俺から視線をそらした。
別に変なことは言ってないつもりなんだけど。
「ど、どうぞ! 食べてみてください!」
エリ―ナは少々慌てながら、話を切り替えようとする。
俺は彼女に言われた通り、パンとパンで挟まれたものを手に取った。
「これは?」
「ハンバーガーというものです。最近、城下街で流行してるんですよ」
食欲をそそる香りが鼻腔を通り抜ける。
最初は大きな一口でハンバーガーを口に入れた。
そんな様子を見ていたエリ―ナはおずおずと尋ねる。
「それでお味の方は……?」
「やばい……」
喉に流し込んだ後に漏れた言葉はそんな一言だけだった。
「え!? 味見では美味しかったはずなのに……」
ワクワクしていたであろうエリ―ナの表情が一瞬で青ざめる。
俺も少し言葉足らずだったと思う。でも仕方がない……
「魔王城にきていっぱい美味しいものを食べさせてもらったけど、これは格別……というか一番美味しい!」
「本当ですか!? 良かった……!」
エリーナは胸を撫でおろすように安堵した。
安価な食材で出来るにもかかわらず、具材を変えることによって多くのバリエーションが生まれる。これは流行るのも分かるな。
「ぺろりといっちゃいましたね。おかわりはいりますか?」
「いや、大丈夫だよ。美味しいものは美味しいところで止めとかないとね」
完食した俺は満足感で満たされていた。
人間界で王族にふるまわれた高級ディナーより美味しいと言っても過言ではない。
「それで、これからの予定ってあったりするの?」
最初は緊張していた俺も、ソファでぐったりとくつろいでいた。
「そりゃあもちろんありますよ! 城内ってどれくらいまわりました?」
「う~ん。五、六割って感じかな? 別館には行ってないし」
昨日、ラナに城内を案内してもらったが、それも一部に過ぎない。
この巨大な魔王城を全てまわるには一日では足りなかった。
それに大書庫に多くの時間を費やしたというのもある。
「では、今日は別館に行きませんか? 面白いものがたくさんあるんですよ」
「面白いもの?」
「はい、魔界にしかいない植物や獣などを育ててるんですよ。まぁ保護という目的なんですけど、触れ合いも出来ますよ?」
ラナの説明でもあったが、魔王城の本館とは別にある別館では文化や環境の保護などに力を入れているらしい。
可愛い動物や珍しい生物もいるとか。話を聞いた時から少し興味はあった。
「それは行ってみたいな」
「それならすぐに行きましょう! 時間がもったいないですから!」
俺は再び、エリ―ナに腕を引っ張られながら彼女の部屋を後にする。
養われるという点では納得いってなかったが、楽しい時間を過ごせているのは間違いなかった。
今まで生きてきた中で一番輝いていて、鮮明に記憶に刻まれていて。
こんな非日常がいつか、日常にすり替わってほしいと思っていた。
そう、この時までは――
◆
ベッドの上で四肢を拘束された俺の上に、朦朧とした目をしているエリ―ナが座る。
全く状況がつかめない俺は恐る恐る彼女に尋ねた。
「え、エリ―ナ? な、何これ?」
「ふふっ、既成事実さえ作ってしまえば私の……勝ちですね……!」
しかし俺の言葉はエリ―ナの耳には届かなかったらしい。
彼女はゆっくりと顔を俺のもとまで近づける。そして……
「ちょっ、ちょっと待って、何をする気で――」
「ではエル様の初めて……いただきます!」
「い、いやああああああぁぁぁぁ!」
どうやら前日のうちに下ごしらえを終えていたらしい。
「えっと。朝食なので少し質素になりましたが……」
「おおぉ!」
俺は机の上に並べられた品々に感嘆の声を上げた。
パンとパンでいろいろな具材を挟んだものに、少量の野菜。
見ただけで分かる。これは絶対に美味しいやつだ。
「いつも自炊しているんですけど、こうやって自分以外に作るのは初めてでして」
エリ―ナは俺の対面の席に座りながら、自信なさげな声を漏らす。
魔王城には食堂があり、一流の料理人が常駐している。
それでも自炊をするとなると、本当に料理が好きなのかもしれない。
「ってことは俺が初めてなのか。なんか緊張してきたな」
「――っ!! そ、そうなりますね……」
「ん?」
何故か、エリ―ナは急に俺から視線をそらした。
別に変なことは言ってないつもりなんだけど。
「ど、どうぞ! 食べてみてください!」
エリ―ナは少々慌てながら、話を切り替えようとする。
俺は彼女に言われた通り、パンとパンで挟まれたものを手に取った。
「これは?」
「ハンバーガーというものです。最近、城下街で流行してるんですよ」
食欲をそそる香りが鼻腔を通り抜ける。
最初は大きな一口でハンバーガーを口に入れた。
そんな様子を見ていたエリ―ナはおずおずと尋ねる。
「それでお味の方は……?」
「やばい……」
喉に流し込んだ後に漏れた言葉はそんな一言だけだった。
「え!? 味見では美味しかったはずなのに……」
ワクワクしていたであろうエリ―ナの表情が一瞬で青ざめる。
俺も少し言葉足らずだったと思う。でも仕方がない……
「魔王城にきていっぱい美味しいものを食べさせてもらったけど、これは格別……というか一番美味しい!」
「本当ですか!? 良かった……!」
エリーナは胸を撫でおろすように安堵した。
安価な食材で出来るにもかかわらず、具材を変えることによって多くのバリエーションが生まれる。これは流行るのも分かるな。
「ぺろりといっちゃいましたね。おかわりはいりますか?」
「いや、大丈夫だよ。美味しいものは美味しいところで止めとかないとね」
完食した俺は満足感で満たされていた。
人間界で王族にふるまわれた高級ディナーより美味しいと言っても過言ではない。
「それで、これからの予定ってあったりするの?」
最初は緊張していた俺も、ソファでぐったりとくつろいでいた。
「そりゃあもちろんありますよ! 城内ってどれくらいまわりました?」
「う~ん。五、六割って感じかな? 別館には行ってないし」
昨日、ラナに城内を案内してもらったが、それも一部に過ぎない。
この巨大な魔王城を全てまわるには一日では足りなかった。
それに大書庫に多くの時間を費やしたというのもある。
「では、今日は別館に行きませんか? 面白いものがたくさんあるんですよ」
「面白いもの?」
「はい、魔界にしかいない植物や獣などを育ててるんですよ。まぁ保護という目的なんですけど、触れ合いも出来ますよ?」
ラナの説明でもあったが、魔王城の本館とは別にある別館では文化や環境の保護などに力を入れているらしい。
可愛い動物や珍しい生物もいるとか。話を聞いた時から少し興味はあった。
「それは行ってみたいな」
「それならすぐに行きましょう! 時間がもったいないですから!」
俺は再び、エリ―ナに腕を引っ張られながら彼女の部屋を後にする。
養われるという点では納得いってなかったが、楽しい時間を過ごせているのは間違いなかった。
今まで生きてきた中で一番輝いていて、鮮明に記憶に刻まれていて。
こんな非日常がいつか、日常にすり替わってほしいと思っていた。
そう、この時までは――
◆
ベッドの上で四肢を拘束された俺の上に、朦朧とした目をしているエリ―ナが座る。
全く状況がつかめない俺は恐る恐る彼女に尋ねた。
「え、エリ―ナ? な、何これ?」
「ふふっ、既成事実さえ作ってしまえば私の……勝ちですね……!」
しかし俺の言葉はエリ―ナの耳には届かなかったらしい。
彼女はゆっくりと顔を俺のもとまで近づける。そして……
「ちょっ、ちょっと待って、何をする気で――」
「ではエル様の初めて……いただきます!」
「い、いやああああああぁぁぁぁ!」
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