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3章 養い対決

23話 三日目

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 俺――エルが魔王に拾われてから二日が経った三日目の朝。

 昨日同様、窓から差し込む陽光によって目を覚ます。
 最初は、目をつむっていても、ずっと感覚をめぐらせていたが、今はしっかりと意識を落とすことが出来ていた。
 この魔王城が俺にとって安心できる場所、そう認識できるようになったから。
 そんな風に思わせてくれたアルたちには感謝しかない。

 だからこそ思う――お前は何をしているんだと。

「……なにしてんの? ラナ?」

 俺は反対側に寝返りを打つと、そこにはラナがいた。
 息がかかるほどの距離。ラナは特に表情を変えることなく言う。

「おはようございます。エル様」
「おはよう……じゃなくてね? なにしてんの?」
「添い寝ですが何か? 寝苦しそうだったので。魔界では普通のことですが?」

 ラナはさぞ、当たり前のように答えた。
 メイドが勝手に添い寝する、それのどこが普通なのだろうか。ってか絶対に嘘だろ。
 背徳感を一ミリも感じていない、その堂々たる構え方には本当に尊敬しそうになる。

「嘘つくな。それに全く寝苦しさも感じなかった」

 俺がゆっくりとベッドから起き上がると、ラナもそろりとベッドから抜け出す。
 彼女はメイド服を整え、いつもの礼儀作法のある彼女へと戻った。

「まぁ正確にはお仕置きのようなものです」
「お仕置き?」
「エル様。昨夜、私に内緒でフィーリア様のところに行ってましたよね? 私がどれだけ探したと思ってるんですか?」
「うぐっ……そ、それは申し訳ないと思ってるさ」

 見事なカウンターを食らった俺はラナは鋭い視線に目をそらしてしまう。
 結界の再構築を終えた後、俺はこっそりと部屋に戻った。
 特に何もなかったため、ラナにも気づかれていないと思っていたのだが、流石にバレていたらしい。

「それで何をしてたんですか?」
「フィーリアの不治の病を治してきた」

 矛盾の塊のようなことを言っている気がするが、ラナはそう教えられているので仕方ない。

「へぇ……不治の病を治してきたんですか……え、不治の病を治した?」
「あぁ。今日から一緒に朝食も食べれるみたい」
「え、えええええええええええぇぇぇぇぇぇ!?」

 やっと言葉の意味を理解したのか、ラナは絶叫に似た叫び声をあげる。
 朝からよくもまぁ、そんなに元気でいられるものだ。
 だが、少しずつラナとの距離が縮まってきていると考えれば良いことなんだろう。添い寝は止めてほしいが。

「本当なんですか!? フィーリア様の病を治したって!?」
「あぁ、今から食堂に行ってみるか?」

 俺がそう聞くと、ラナは物凄い勢いで何度も首を縦に振る。
 それから俺は彼女に軽く身なりを整えてもらい、食堂へと向かったのだった。

 ◆

 食堂に着くと、楽しそうに食事をしているフィーリアとアスラの姿があった。
 兄妹きょうだいで、他愛ない話でもしながら朝食をとっているのだろう。
 そんな微笑ましい光景を見て、ラナはとても嬉しそうに顔をほころばせる。

「フィーリア様とアスラ様があんなに笑っておられるなんて……本当に良かったです」
「フィーリアの面倒もラナが見てたのか?」
「今は違いますけど、少し前まではそうでした。なのでずっと彼女のことが心配だったんです」

 元気なフィーリアの姿を見て安心したのか、瞳に涙が溜まっていた。 
 すると、フィーリアとアスラは俺たちに気づいたのか、大きく手を振ってくる。

「あ、ロイド! おはよう!」
「お、ロイドじゃないか! おはよう!」
「おはよう。二人とも」

 俺たちは二人の正面の席へと向かう。
 セリーナはいつものメイドという仮面をかぶり、俺の背後に立つ。
 ラナも席に座ればいいのに、そう思うが、それは彼女の望むことではないのだろう。

「本当に昨日はありがとう。こうして今笑ってられるのもエルのおかげよ」
「感謝はもう十分受け取ったから。それこそ感謝ならラナとアスラに言ってあげてくれ」
「そうよね。お兄ちゃんはどうでもいいけど、私にとってラナは本当に支えになってた。ありがとね」
「い、いえ!? そんな滅相もございません!」
「ん!? 僕の扱いが適当過ぎない!?」

 ラナは色々込み上げてくるものがあるのか、涙ぐんでいた。
 また、別の意味でアスラも涙ぐんでいる……ドンマイ。
 アスラの想いが報われる日はいつか来るのだろうか。ずっとこうして雑に扱われる未来しか見えないんだけど。

 そんなことを考えていると、フィーリアが思い出したように言う。

「そう言えば、エリーナ先輩がエルのこと探してたよ?」
「あ、そう言えば今日からか……」
 俺もフィーリアの言葉でやっと思い出した。
 そう、今日は魔王城にきて三日目。約束していた例の対戦の日である。

「「今日から?」」

 エリ―ナの真意を知らない二人は首を傾げた。
 俺を探しているとなると、養い対決のことに違いない。
 もちろん、ラナは事前に聞かされているので知っている。
 彼女が頬を膨らませ、俺に対して視線を鋭くしていることが、その証拠だ。
 仕事が減るはずなのに、どうして不機嫌そうにするのか俺には分からないけども。

「いや、何でもない。ごめん、ちょっとエリーナの所に行ってくる」

 俺は朝食を済ませずに、先ほど座ったばかりの席を立ち上がった。
 そんな俺の急な言動に、フィーリアは驚いた声を出す。

「え、エル!? 朝食は!?」
「今日はちょっと大丈夫かも……!」

 無理のある言い訳をして、俺は食堂をあとにする。
 エリ―ナを待たせてしまったら、アルのように拳骨を食らうかもしれない。
 拳骨と聞けば、ちょっとした罰のようにも聞こえるだろう。
 しかし、エリ―ナの拳骨はあの魔王が痛むほど。俺が食らえば首が取れるなんて可能性もある。
 絶対にそれだけは避けなければならない。そう、何としてでもエリ―ナの機嫌を損ねてはならないのだ。

 俺はエリ―ナが俺を探しそうな場所へと駆け足で向かったのだった。
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