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間章1 空虚
18話 事後
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エルが魔王城で至福の生活を始めた頃。人間界では勇者死亡の波紋が広がっていた。
『王都ブリューデン』の城下街では街行く人々が広まる噂を口々にする。
「勇者様が死んだんだって!? 魔族め……なんて非道な奴らなんだ!」
「次の勇者って誰なんだ?」
「勇者ってトラップに引っかかって死んだんだろ? 魔王軍幹部ならまだしも、そこらの魔族にやられるって勇者のくせに雑魚くね?」
人間たちは見事に【賢者】ルーカスに広められた情報に踊らされていた。
勇者は魔族の罠に引っかかって死んだ。それも一般の魔族に。
他の勇者パーティーのメンバーは勇者の尻拭いをしながらも、人間界へ逃げ帰ってきた。これがルーカスによって歪められた情報である。
◆
そんな哀れな国民たちの姿をルーカスたちは王城から見下ろしていた。
「あっはっは。滑稽だね!」
ルーカスは片手で顔を抑えながら腹を抱えるように笑っていた。
その彼の正面には視線を落とした【武神】ガイアと【聖女】レーナが座っている。
彼らは人間界に戻ると、一番に国王に出来事を説明した。もちろんルーカスによって歪められた虚実だが。
その後、すぐに国王から全国民に勇者死亡の事実が明かされた。
勇者死亡の事実は魔族への憎悪、フラストレーション集めるには一番の有効手段だから。
その思惑通り、国民たちのフラストレーションは限界にまで達している。
歪な笑みを浮かべているルーカスとは裏腹にガイアとレーナはただ苦しそうに顔を歪めていた。
「おい、流石にこれはやりすぎたんじゃないのか?」
「そうです。実際罠に引っかかったのはルーカスさんじゃないですか……」
いつもならどうでもいいと関わりもしない二人だが、今回ばかりはエゴより罪悪感が勝ったらしい。
あの状況では、たとえ【勇者】であろうと生き延びるのは奇跡でも起きない限りありえない。
誰もエルの死を確認したわけではないが、エルが死んだことを確信していた。
そんな二人の反論が気に入らなかったのか、ルーカスは二人を睨みつけるように、
「なんだって? 私のせいでエルが死んだと言いたいのかい?」
「そ、それは……」
ルーカスの鋭い視線にレーナは押し黙ってしまう。
実際その通りなのだけれど、ガイアもレーナも反論出来なかった。
権力という圧倒的な力があるから。その罪悪感さえも凌駕するほどの恐怖が目の前にあるから。
ガイアは目を伏せたままルーカスに尋ねる。
「俺たちはこれからどうするんだ?」
「そうだね。まず君たちには聖剣の回収をしてもらう」
聖剣。それは聖武器と呼ばれるものの一つ。
賢者は『聖杖』
武神は『聖拳』
聖女は『聖衣』
勇者は『聖剣』
勇者パーティーに所属する者は代々、この聖武器を引き継ぐのだ。
いわば、その肩書の証明書のようなものである。
「魔族は聖武器に触れられないからね。今ならその場に放置されている可能性が高い。壊すことも不可能だろうし」
まさに聖武器は魔族を殺すために作られたような伝説上の武器。
魔族なら触れるだけで皮膚がただれるほど。
「次の勇者選定に必要だから。君たちには早急に回収に行ってもらう」
「「…………」」
「なんだい? 何か言いたいことがあるのならいいなよ?」
ルーカスの命令には二つ返事で了承するガイアとレーナだが、今回はすぐに首が縦に触れなかった。
なぜなら聖剣を回収に行くのは、エルの死を確認することと同じだから。
口にはしていないが、それも込みでルーカスは二人に命令している。
「それとも、君たちもあの勇者のようになりたいのかい?」
この世界は完全に実力主義。
圧倒的な実力を誇る賢者には、たとえ武神や聖女でも刃を向けることは許されない。
「分かった……」
「分かりました……」
完全に屈服状態にある二人を見て、ルーカスは愉悦に浸るように、
「それでいいんだよ、それで。私の言うことさえ聞いてくれれいいのさ」
何度も嫌らしい表情を漏らしながら頷いたのだった。
『王都ブリューデン』の城下街では街行く人々が広まる噂を口々にする。
「勇者様が死んだんだって!? 魔族め……なんて非道な奴らなんだ!」
「次の勇者って誰なんだ?」
「勇者ってトラップに引っかかって死んだんだろ? 魔王軍幹部ならまだしも、そこらの魔族にやられるって勇者のくせに雑魚くね?」
人間たちは見事に【賢者】ルーカスに広められた情報に踊らされていた。
勇者は魔族の罠に引っかかって死んだ。それも一般の魔族に。
他の勇者パーティーのメンバーは勇者の尻拭いをしながらも、人間界へ逃げ帰ってきた。これがルーカスによって歪められた情報である。
◆
そんな哀れな国民たちの姿をルーカスたちは王城から見下ろしていた。
「あっはっは。滑稽だね!」
ルーカスは片手で顔を抑えながら腹を抱えるように笑っていた。
その彼の正面には視線を落とした【武神】ガイアと【聖女】レーナが座っている。
彼らは人間界に戻ると、一番に国王に出来事を説明した。もちろんルーカスによって歪められた虚実だが。
その後、すぐに国王から全国民に勇者死亡の事実が明かされた。
勇者死亡の事実は魔族への憎悪、フラストレーション集めるには一番の有効手段だから。
その思惑通り、国民たちのフラストレーションは限界にまで達している。
歪な笑みを浮かべているルーカスとは裏腹にガイアとレーナはただ苦しそうに顔を歪めていた。
「おい、流石にこれはやりすぎたんじゃないのか?」
「そうです。実際罠に引っかかったのはルーカスさんじゃないですか……」
いつもならどうでもいいと関わりもしない二人だが、今回ばかりはエゴより罪悪感が勝ったらしい。
あの状況では、たとえ【勇者】であろうと生き延びるのは奇跡でも起きない限りありえない。
誰もエルの死を確認したわけではないが、エルが死んだことを確信していた。
そんな二人の反論が気に入らなかったのか、ルーカスは二人を睨みつけるように、
「なんだって? 私のせいでエルが死んだと言いたいのかい?」
「そ、それは……」
ルーカスの鋭い視線にレーナは押し黙ってしまう。
実際その通りなのだけれど、ガイアもレーナも反論出来なかった。
権力という圧倒的な力があるから。その罪悪感さえも凌駕するほどの恐怖が目の前にあるから。
ガイアは目を伏せたままルーカスに尋ねる。
「俺たちはこれからどうするんだ?」
「そうだね。まず君たちには聖剣の回収をしてもらう」
聖剣。それは聖武器と呼ばれるものの一つ。
賢者は『聖杖』
武神は『聖拳』
聖女は『聖衣』
勇者は『聖剣』
勇者パーティーに所属する者は代々、この聖武器を引き継ぐのだ。
いわば、その肩書の証明書のようなものである。
「魔族は聖武器に触れられないからね。今ならその場に放置されている可能性が高い。壊すことも不可能だろうし」
まさに聖武器は魔族を殺すために作られたような伝説上の武器。
魔族なら触れるだけで皮膚がただれるほど。
「次の勇者選定に必要だから。君たちには早急に回収に行ってもらう」
「「…………」」
「なんだい? 何か言いたいことがあるのならいいなよ?」
ルーカスの命令には二つ返事で了承するガイアとレーナだが、今回はすぐに首が縦に触れなかった。
なぜなら聖剣を回収に行くのは、エルの死を確認することと同じだから。
口にはしていないが、それも込みでルーカスは二人に命令している。
「それとも、君たちもあの勇者のようになりたいのかい?」
この世界は完全に実力主義。
圧倒的な実力を誇る賢者には、たとえ武神や聖女でも刃を向けることは許されない。
「分かった……」
「分かりました……」
完全に屈服状態にある二人を見て、ルーカスは愉悦に浸るように、
「それでいいんだよ、それで。私の言うことさえ聞いてくれれいいのさ」
何度も嫌らしい表情を漏らしながら頷いたのだった。
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