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2章 囚われの姫

14話 乙女

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 フィーリアは部屋から出ると、扉に背中を預けてもたれかかる。
 そのまま床に座り込み、声にならない唸り声なようなものをあげた。

「んん~~ッ!!」

 フィーリアは火照っている顔を冷ますようにパタパタと手で扇ぐ。

 今まで部屋に引きこもっていた彼女にとって兄以外の男性と話すのは初めて。
 いや、そこには語弊があるかもしれない。小説の登場人物以外の男性と話すのは初めてだった。

「な、なんで……」

 フィーリアは先ほどのエルとの会話を思い浮かべる。

『やり方は間違っているけど、それはとでも凄いことだ』
 あの瞬間までは、フィーリアの真っ白な心に勇者が黒く汚点として刻まれていた。
 抜けない棘のような痛みが続いていて。憎悪が彼女を縛り上げていて。
 だから絶対に勇者を許すはずがないと思っていた。なのに、

『君を俺に救わせてくれ』

 小説に出てくる王子様の姿に重なったからなのか、それともエルという人物に触れたからなのか。
 その瞬間、勇者とエルは別なんだ、そうフィーリアの中で判断した。
 自分は勇者という役職を嫌っていただけで、エルという人物を嫌っていたわけではないと、確信出来たから。

「あんなこと言われたら、意識しそうになっちゃうよ……」

 フィーリアは止まない心臓の高鳴りを感じながらボソッと呟く。
 初めてまともに異性と話したからというのもあるだろう。
 でもそれ以上にフィーリアはエルに好印象を抱いていた。
 エルは閉ざされた鳥かごを開け、何の見返りもなく、鳥かごを破壊しようとしてくれている。
 そんな彼の姿が白馬の王子様に似ていて。小説の英雄に似ていて。

(お兄ちゃんに何度説得されても出る気になれなかったのに)

 フィーリアは一度も部屋から出たことがなかった。
 アスラに何度説得されても断って。自分の命より使命を優先して。
 そんな彼女を一瞬でエルは外の世界へと連れだしたのだ。
 エルにそれを可能にする力があったのか。カリスマ性があったのか。強いて言えば両方だろう。

「終わったらなんて言おうかなぁ、小説なら次は……いや、でも急に家デートはかなり恥ずかしい気がするしぃ……」

 フィーリアはエルとの会話を思い出し、もじもじと悶える。
 まるで小説の中のヒロインになった気分になっていて、エルの前だけは妹である自分も頼りがいのある女性になりたくて。
 そんないくつもの妄想が彼女の脳内を埋め尽くそうとしていた。
 そんな時だ。

「ふぃ、フィーリア!?」

 フィーリアに向かってありえないとでも言うような、裏返った声が届く。
 その声は彼女にとって一番聞き慣れている声で。何度も拒絶した声だった。
「こ、こんなところで何をしているんだい!?」
「あ、お兄ちゃん」
 フィーリアはゆっくりと声の方へと視線を向ける。
 そこには口を開けて呆然としているアスラが立ち尽くしていた。
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