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2章 囚われの姫

9話 違和感

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 あの後、俺は一般常識をラナから教えてもらい、多くの知識を本から得た。
 特に驚いたのはこの国に人間が住んでいるということ。
 アルは奴隷商に捕まっていた奴隷や難民などを人種関係なく保護しているらしい。
 この国の魔族の総人口は一千万人ほど。そして、人間も百人ほどいるようだ。
 一千万人のトップがアルなのか……そう言われるとアルはとんでもない凄い人になる。
 本当にアルで大丈夫なのだろうか。なんか心配になってきたぞ。

「ここが地下の階段だな」

 日も沈んだ静寂な夜。俺はとある女性の元へと向かっていた。
 今回は俺の独断だから一人だけ。ラナは真実を知らされていないようだったので呼んでいない。

「不治の病なんてありえるのか?」

 俺は地下の階段を下りながらぼそっと呟く。
 俺が向かっていたのは地下にあるというフィーリアの部屋である。
 建前はお見舞いという風にしているが実際は、真実を確認するためだ。
 当然、本当にフィーリアが不治の病を患っているという可能性もなくはない。

「何となくは予想がつくけど……」

 魔王城の地下には光が少なく、どこか監獄に似ていて。
 こんな日の届かない場所で療養など出来るはずもなく。
 徐々に俺の推測が確固たるものへとなっていた。
 フィーリアの役職、不治の病、アスラの態度の変化。
 それらを総合的に考えて、たどり着く答えは一つ。

 俺はフィーリアの部屋に着くとコンコンコンと軽くノックする。

「お兄ちゃん? もう二度とこないでって――」
「ごめん。お兄ちゃんではないんだ。俺はエル。昨日魔王城来たばかりなんだけど……俺の話って聞いてたりする?」

 扉越しに聞こえるかすれた弱弱しい声。
 それは個性などと片づけられるレベルではない。
 衰弱しているようで、衰耗しているように聞こえる。 

「だ、誰ですか? どうして地下室に知らない人が……」
「そっか……驚かないで聞いてほしいんだけど、俺は人間なんだ。勇者・・と呼ばれてた」

 俺は落ち着いたトーンでフィーリアに話しかける。
 すると予想通り、彼女の態度は一変した。

「な、なんでこんな場所に勇者が……!」
「勇者パーティーから捨てられた俺を魔王様が拾ってくれたんだ。だから元勇者だな」
「魔王様が……だとしても貴方が勇者だったことは変わりません! 帰ってください!」

 絶叫にも似た弱弱しい叫び声。
 そこには憎悪や嫌悪などの感情が垣間見えて。
 俺を忌避するような行動。いや、勇者を、の方が正しいかもしれない。

「分かった。すぐに帰るから、一つだけ聞かせてくれないか?」
「……な、なんですか?」

 この時点で俺の推測はほぼ確実なものに昇華していた。
 出会ったこともない勇者をここまで恨む理由。それは一つしかない。

「フィーリアは……『魔力根源』を担ってるんじゃないのか? それも一人で」
「……ッ!?」

 扉越しにもフィーリアが息をのんだのが分かった。

 魔力根源とは、何かの媒体になり、ただ魔力を吸われるだけの役目のこと。
 ひたすらに魔力を吸われるため、疲労やストレスは計り知れない。
 俺は彼女に追い打ちをかけるように続ける。

「そうだな、例えば……結界を維持するため。とかか?」
「な、なんで……」

 フィーリアの声質が憎悪から戸惑いに変わっていく。
 どうやら俺の推測は当たっていたみたいだ。

「魔界は良い所だよ。みんな優しいし、料理も美味しい、ふかふかのベッドで寝れる。ここ以上の場所を俺は知らない」

 それは魔界に来て何度も思ったこと。
 こんな暮らしが人間界で出来るのか。それは断じて否だ。
 だからこそ俺は不思議に思った。

「でもさ、どうやって【隠匿結界】を維持してるんだ? 普通なら国を囲むほどの結界、何万人もの魔力が必要なはずだろ? なのに国民から魔力が吸われている様子はない」

 魔王城からは出られないものの、魔王城の窓から城下街を見下ろすことは出来る。
 何百人、何千人もの魔族が幸せそうに、楽しそうに、人生を謳歌していた。
 まるで誰もが結界が張られていることを忘れているかのように。

「その答えは一つだ。誰かがその膨大な魔力の媒介になっている」
「…………」

 俺は自信ありげに告げる。
 図星だったのか、フィーリアは何も反論することが出来ず、黙り込んでしまった。
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